天下第一の名山、世界遺産「黄山」

霞の中の山々と黄山松

黄山からの眺め。霞の中に浮かび上がる山々と黄山松のシルエットが美しい

中国画に見られるような典型的な山水風景が見られる名山・黄山(こうざん/ホワンシャン)。そのあまりの絶景は、「黄山を見たら他の山を見ることができない」とまで称えられている。

今回は数少ない複合遺産のひとつでもある中国の世界遺産「黄山」を紹介する。

黄山より帰りて岳を見ることなし

雲海と黄山

雲海と黄山。雲海はすさまじいスピードでその形を変える

中国の広い国土の中には山水画に描かれる美しい山はたくさんあるが、特に道教の5つの聖山(泰山、衡山、嵩山、華山、恒山)は五岳、仏教の4つの聖山は四大名山(五台山、峨眉山、九華山、普陀山)と呼ばれ親しまれている。このうち泰山、嵩山、五台山、峨眉山は世界遺産だ。

ところが、中国ではこんなことがいわれている。「五岳より帰りて山を見ることなし、黄山より帰りて岳を見ることなし」。意味は、「五岳を見てしまったら他の山なんて見れない。でも黄山を見てしまったらその五岳さえ見れない」。明の地理学者・徐霞客(じょかきゃく)の言葉である。
怪石群

「黄山の四絶」に数えられる怪石群

さらに、中国のすばらしい景観はすべて黄山にあることから、「天下の名勝、黄山に集まる」ともいわれている。特に奇松・怪石・雲海は「黄山の三絶(三奇)」、これに温泉を加えて「黄山の四絶」は名高く、雲海のすばらしさから「雲霧の郷」という異名も持っている。

このように、中国に名山は多かれど、「天下第一の名山」といったら黄山なのだ。 

仙境・黄山の伝説

滑らかの岩肌と黄山松

花崗岩の滑らかの岩肌と、岩の裂け目に根を張り、岩山にかじりつくように生えている黄山松

黄山の名の由来は紀元前3000~2000年ほどまでさかのぼる。まだ歴史がはじまる前、中国には神の力を持つ三皇と呼ばれる神が文明をもたらし、続いて五帝と呼ばれる聖人が地上を治めていたという(皇帝の由来)。五帝の最初の人物が漢民族の先祖といわれる黄帝だ。

一方、黄山はその昔、不老不死を得た仙人たちが暮らす場所=仙境として知られており、天に暮らす仙人たちの都=天都山と呼ばれていた。
黄山の固有種、黄山松

黄山松は黄山の固有種。樹齢千年を超えるものもある

黄帝はしばしば仙人たちと交流し、仙術も習っていたようだ。やがて乱世を平定して天下を統一すると、黄帝は天都山に入って不老不死の霊薬・仙丹を調薬する。仙丹を飲むと仙人となり、黄帝はそのまま天に昇っていったという。

やがて時代は下り、天都山は黒々といた岩肌の色からイ山(いざん。イは黒偏に多)と呼ばれるようになっていた。しかし道教に心酔していた唐の玄宗皇帝は、黄帝の伝説にちなんで黄山と改名するよう命令する。

古来仙境として親しまれた黄山は、こうして漢民族の故郷として愛されることになった。