注目の純米酒蔵「梵(Born)」、蔵リポート

看板

福井駅にも大きく看板が掲げられている。清酒蔵の看板は1社のみのようだ

「梵」。
非常にインパクトのあるこの名前。由来は、サンスクリット語で「穢れなき清浄」「真理をつく」の意味。さらには、英語のBORNにかけて「誕生」「創造」をも表している。文字自体が印象的なうえに、呼び方としても覚えやすい。まさに、どこまでもピュアな味わいと造りに対する確固たる信念を詰め込んだようなネーミングだ。

この「梵」を生み出す蔵「加藤吉平商店」の特徴は、大きく3つ。
1. すべて純米酒
2. すべて60%以下の精米歩合、平均精米歩合37%
3. すべて氷温にての長期熟成酒

詳しく見ていこう。

完全純米酒に踏み切った思い

蔵

蔵があるのは福井県鯖江市。この奥はショップになっている

完全純米酒に切り替えたのが8年前(取り組みは10年以上前から)。「古来、日本酒は米のみの酒である」という、至極あたり前ながら、業界の中にいると気がつかない基本的な思いからだった。

「醸造アルコールは、実は日本産ではないのです」と11代目当主加藤団秀氏は語る。たしかに、輸入の醸造アルコールを添加すれば、それはもう国産の酒とはいえなくなるかもしれない。

純米酒に使用する米は、契約栽培された良質の山田錦と福井県産五百万石のみ。これを自社酵母で丁寧に醸す。水は180メートルの井戸から汲み上げる白山系のきよらかな伏流水。北陸福井県という雪国特有の自然な寒仕込みも味わいに特徴を与えているだろう。

極限まで磨く、脅威の低精米

エントランス

隣接する家屋。雪国らしい佇まい。とても風情がある。

米の表面には雑味になる成分が多く含まれているので、ここを削り取ることによって、より洗練された味わいに仕上げることができる。

ちなみに、吟醸酒の規定は精米歩合60%で、周りの40%を削り取る。大吟醸酒は50%以下で、半分以上を削り取ることになる。

「梵」の平均精米歩合は37%という驚くべき数字で、ハイエンド商品の『純米大吟醸酒 梵・超吟』は麹米20%・掛米21%。『純米大吟醸酒 梵・夢は正夢』は麹米20%・掛米35%。『純米大吟醸酒 梵・団』にいたれば、麹米も掛米ともに精米歩合20%だ。米の8割を削り取ってしまうというまったく贅沢きわまりない造りの商品なのである。

聞けば、「10%精米も8%精米もあります。ただ、実際には12%くらいまでが味のバランスがいいようです」と当主。なんと……。ちなみに、削った残りはさまざまな加工用にちゃんと再利用されているのでご安心を。

氷温下での長期熟成後、細心の注意で配送

日本の酒文化

一般見学は受け付けていないが、全国の、また世界中の関係者が見学に来るという

長くて5年、短くても1年は氷温状態で貯蔵させるのがこの蔵の大きな個性だ。磨きが高い米であることと氷温での熟成に由来するのだろうが、よくある琥珀色になった熟成酒とは違い、どこまでも透明で酸化したような風味はなく、キレイなままなめらかさと濃縮感が増していく熟成だ。

商品の特性に合わせて熟成の温度を変え、出荷の前には急激な温度変化を避けるため予冷庫に置き、そこで梱包とラベル張りなどを行い、さらには、温度の低い夕方に配送・翌朝着を完全に実施するという細心の注意で商品を届ける。

しかし……、鑑評会「山田錦純米酒での金賞」はまだとれない。
完全純米酒にし、精米を極限まで高め、時間と技術をかけ熟成し、細心の注意で配送する。書けば簡単なことのように感じるが、これを維持するのは並大抵ではない。しかし、ここまでやっても、到達しないものがある。それは、全国新酒鑑評会の「金賞」だ。

「金賞は、純米の新酒には厳しい」と11代目は言う。造り手の技術力を審査され、受賞すれば造り手のモチベーションが高まるのが、鑑評会の存在意義だと私は考える。飲み手にとっては、「華やか過ぎて、地酒の個性がなく、飲み飽きする酒」ばかりが受賞酒で、鑑評会受賞酒には興味がないと言い切る人もいる。

しかし、それでも11代目は「アル添(醸造アルコール添加の酒)で、キレのある酒でないと難しい。完全純米酒蔵になる前は、越前最多の金賞受賞蔵だったのですが…」と金取得を1つの目標に掲げるのだ。

次ページで、加藤吉平商店の歴史を紹介。