日本酒/おすすめの日本酒

『君の名は。』で話題の「口噛み酒」ってどんな酒?

新海真監督映画『君の名は。』で主人公・宮水三葉が神への捧げものとして造った「口噛み酒(くちかみざけ)」とはいったい何なのか? 口噛み酒の歴史、作り方、さらには気になる味まで、お酒のプロが解説します。

友田 晶子

執筆者:友田 晶子

日本酒・焼酎ガイド

2016年の大ヒット新海真監督映画「君の名は。」の作中に登場する「口噛み酒(口噛みの酒)」は、お酒ファンはもとより、そうでない人にとっても気になる重要なファクターとなっています。先祖代々巫女の家系である主人公・宮水三葉が神への捧げものとして造るのですが、それはいったい何なのか?お答えしましょう。

口噛み酒って実在するの?どんな作り方?

映画「君の名は。」では口噛み酒が物語の重要なカギを握る

映画「君の名は。」では口噛み酒が物語の重要なカギを握る (C)2016「君の名は。」製作委員会

宮水三葉が造る「口噛み酒」を知るには、日本酒の歴史を知る必要があります。古代の文献「大隅国風土記」(713年以降)の中に、大隅国(現在の鹿児島県東部)では、村中の男女が水と生米を噛んでは吐き出し容器に入れ、一晩以上置いて酒にしていたと記されています。これを当時から「口噛み酒」と呼んでいました。

ご飯をずっと噛んでいるとだんだんと甘くなることは経験したことも多いはず。これは、唾液中のデンプン分解酵素であるアミラーゼやジアスターゼが、米のでんぷんを糖化するから。古代の日本ではこの作用を利用して、米を糖に変え、さらに空気中の野生酵母で自然発酵させる手法で酒を造っていたのです。経験から生み出したとしてもすごい発想ですね。

この手法は、東アジアから南太平洋、中南米という広大な範囲に分布しているといわれていますが、その発祥は定かではありません。日本は米の国ですから米の口噛み酒ですが、米以外の、たとえば、木の実などからも口噛み酒は造ることができます。

ちなみに、日本酒を造ることを「醸す(かもす)」といいますが、これは「口噛み酒」の「噛む」からきているのです。

さらに「播磨国風土記」(716年)には、干し飯が水にぬれてカビが生え、それを用いて酒を造り宴会をしたという記述がでてきます。唾液の酵素ではなく麹カビの酵素による糖化作用で醸された酒で、現在の酒造りの原型はこちらです。

口噛み酒はどんな酒?どんな味?

一番イメージに近いのは「どぶろく」でしょう。日本酒のルーツともいわれる「どぶろく」は、実は「清酒」とは区別されています。酒税法によれば「清酒」は米、米麹を使用し発酵させ「濾したもの」という定義があります。清酒の「清」は澄んだという意味があるのに対して「どぶろく」は「濾さない」ので米粒が残ったどろりとした酒です。

古代では米は大変貴重なもので、米粒を濾して捨てることはできなかったと思われます。米粒がたくさん残った酒を「濁醪(だくろう)」と呼ばれており、それが「どぶろく」になったといわれています。昔から今もなお神々に捧げる聖なる白い液体と考えられており、収穫された米を神に捧げる際にどぶろくを造りお供えすることで収穫の感謝と来季の豊穣を祈願するどぶろく祭りは今でも全国で行われます。
「口噛み酒」は日本酒のルーツとも言われる「どぶろく」(写真)に近いイメージ

「口噛み酒」は日本酒のルーツとも言われる「どぶろく」(写真)に近いイメージ

「どぶろく」を飲んでみると、意外に酸味があって、まるでヨーグルトのように感じます。またなかには甘酒タイプや赤米を使ったピンク色のもの、濃いものだとリゾットのようなものまであります。「君の名は。」で登場する口噛み酒はサラリと澄んでいましたが、いわゆる日本酒のイメージとはちょっと違いますね。

口噛みは「巫女」がするもの?

映画の中では巫女の家系である三葉が口噛み酒を醸します。古代の資料には、特に巫女という規定はないようですが、神への捧げものである酒はやはり神事関係者が造ったでしょうし、できることなら女性、それも神聖なる巫女さんが造ってくれた方が、飲み手としてはやっぱりうれしい……ですよね。

ちなみに、虫歯のない人が造るほうが断然いい酒ができるとか。これは想像に難くないです。そう考えれば、雑菌に侵されていない人、若年層で、健康な人が「口噛み」を行うべきであるとは言えそうですね。

口噛み酒の法律上の扱いは?販売されているのか?

現在、口噛み酒は販売されていません。酒造免許のない人がお酒造りをして販売してはいけないからです。酒造免許のある人(酒造蔵)でももちろん造ってはいません。自分で造って試しに飲んでみるのはOKです。

ただし、はたして上手にできるでしょうか。また出来上がっても飲みたいものでしょうか……。映画の主人公、三葉のならば飲んでみたいと思うコアな映画ファンはいるかもしれませんが……。

「宮水三葉」の名前もお酒と関係ある?

主人公の苗字、「宮水(みやみず)」も実はお酒と関係が深いのです。名酒の里、神戸の灘は、古くからいい酒ができるといわれてきましたが、その大きな理由は、灘地域の地層から湧き出る「宮水」が大きな役割をはたしているから。

日本には珍しいミネラル分の豊富な硬水である宮水は、お酒の発酵を促し、しっかりと骨格のある灘の男酒を造ってくれる宝物の水なのです。口噛み酒を造る巫女である三葉の苗字が宮水というのもどうも訳アリという感じですよね。
灘の名酒を作る名水「宮水」

灘の酒を造ってくれる「宮水(みやみず)」


おまけ:「シン・ゴジラ」にも日本酒関係のネタが!

2016年にもう一つのヒットした人気映画といえば「シン・ゴジラ」ですが、こちらのラストシーンでゴジラに対抗する最終作戦名として「ヤシオリ作戦」というものが登場します。最も盛り上がるシーンです。

このヤシオリを漢字で書くと「八塩折」となります。実はこれ、日本神話で知られる、スサノオノミコトが大蛇のヤマタノオロチを退治するお話の中で、スサノオノミコトが用いた酒の名前なのです。

強敵である大蛇を倒すために、手塩にかけて8回も連続して醸した強い酒をヤマタノオロチに飲ませたのです。あまりの強さにヤマタノオロチを無事退治できました。その酒は、その造りから「八塩折之酒(ヤシオリノサケ)」と呼ばれたのです。ね、なんだかリンクするでしょう。

最近の人気映画には、不思議なことに、どこか日本酒、それも古代の日本酒の逸話が盛り込まれているように思えます。映画の面白さ以外にも注目ポイントがたくさんあってリピートするのかもしれません。映画を見たら、ぜひ、日本酒のことをちょっと気にかけてみてください。
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