向島「言問団子」店内で食べる団子が一番おいしい理由
東京名物として名高い向島の「言問(こととい)団子」。店内で食べる度に思うのは「持ち帰るより味がいい!」その場で食べると、より味わい深いその理由とは?
「言問団子」の名の由来
江戸末期創業の「言問団子」。大名屋敷の植木職人だった初代、外山佐吉氏が「植佐のお店」として開いた茶屋に始まります。現在は6代目、外山和男氏が暖簾を守ります。
「言問団子」の名が付いたのは明治時代に入ってから。初代の歌の師匠、花城(かじょう)翁のアドバイスにより、在原業平が隅田川沿いで詠んだとされる和歌に因んだそうです。
言問、と口にすると、何だか切ないような気持ちになるのは、恋しい人を思い詠んだ和歌に因むためでしょうか。言問団子が「美味しい団子」で終わらず、風流な名物菓子として愛されて来たのは、絶妙な菓銘(菓子の名)によるところが大きいとしみじみ感じます。
「言問団子」串に刺さずに出すのはなぜ?
言問団子は、「小豆餡」、「白餡」、「青梅」の3色です。串に刺さずに出すのは、黒文字で食べやすいように、加えて「団子」の語源の1説である唐菓子の1種「団喜(だんき)」に倣ったという理由もあるのだとか。
創業当時からの「小豆餡」と「白餡」は、米粉の団子を小豆と白のこし餡で包んだもの。「青梅」は、明治時代に近くの水戸家の梅の木の青梅を見て考案したもので、くちなしで染めた白玉生地でみそ餡を包んでいます。
完熟の梅の実を思わせる温かみのある黄色。梅は使っていませんが、味噌の酸味がどこか梅を思わせる心憎い演出です。
「言問団子」の味わい
同店の原材料にも注目です。餡に使う豆や味噌はもちろん、お茶にいたるまで、吟味された良質なものばかり。
よく晒された藤色の「小豆餡」には十勝産のふじむらさき小豆を、豆の香りが生きる「白餡」には十勝産の手亡(てぼう)豆を使います。
「青梅」のみそ餡は、白餡に京都の白味噌と新潟の赤味噌を合わせたもの。コクと酸味、塩味が独特で癖になります。
いずれも柔らかな団子によく馴染み、しっとりと滑らかな舌触りで甘さは控えめ。砂糖を抑えた餡は、ぼんやりした印象になりがちですが、同店の餡は豆に力があるのか、心地良い余韻が残ります。
「言問最中」
都鳥の形が愛らしい小豆餡と白餡の「言問最中」。1日しか日持ちがしない「言問団子」に代わる手土産向きのお菓子を、というお客さんの声から生まれました。
「小豆餡」には十勝産のとよみ大納言小豆の他、言問団子の風味を添えるため、団子に使うふじむらさき小豆の餡を隠し味に使います。「白餡」は団子に使うのと同じ手亡豆を使います。
どちらも豆の粒を残しているため、団子の餡より香りがあります。最中皮は、厚みがあり芳ばしく、餡の甘さを受け止めます。食べ応えがあるので小さなサイズでも十分な満足感。全体のバランスの良さに魅せられます。
「言問団子」趣もまた、味のうち
さて、本題へ戻ります。「言問団子」は、なぜ店内で食べると味わい深いのか? 1つには出来立てだから。固くなりやすい団子は、出来立てが何より美味しいのです。
もう1つには、暖簾や器、お茶など、団子の味わいを盛り立てる脇役の存在があるから。
古い暖簾は書家、中林悟竹氏によるもので、現在のものは書家、殿村藍田氏によるもの。暖簾を一番の目的に同店を訪れる人もいるのだとか。書に詳しくはない私でも、吸い寄せられるような力があります。
そして器は明治初期には三浦乾也氏による乾也焼(けんややき)、大正時代は白井善人氏が川向うで焼いていた今戸焼、そして、現在のものは、寺田みのる氏による瀬戸焼です。
3種類の器は店内に展示されているので、お店を訪ねたらぜひ鑑賞したいものです。因みに現在使われているお皿は6パターンとのことですが、1枚1枚手書きされるため同じ絵柄でも表情は様々。食べ終えてお皿を眺めるのも楽しみです。
大きな木に囲まれた店舗を遠くから見て、暖簾をくぐり、柔らかな光の差し込む店内で団子を食べ、皿を眺め、お茶を飲む。
この一連の流れ全てが「言問団子」の味わい。ロングセラーで愛される団子は、味だけでなく、趣を味わうものでもあるようです。
<店データ>
■「言問団子」
所在地:東京都墨田区向島5-5-22
電話番号:03-3622-0081
営業時間: 9:00~18:00
定休日:火曜日(月末火・水曜日連休あり)
アクセス:東武伊崎線・地下鉄 浅草駅 徒歩15分 東武伊勢崎線 業平橋駅 徒歩12分