ピブロクトは心の解離症状

心の解離症状の一つとして、突然、ヒステリーを起し、その間の事は覚えていないという事があります。心の解離とは、自己のアイデンティティ、記憶、周りの認識などに混乱が生じる現象で、日常的にも起こります。ぼーっとして、白昼夢にふけっているような、いわゆる、我を忘れた状態がそうです。

心の解離が進み過ぎると、記憶が無い時期がある「健忘」や、「多重人格」といった病的な症状が出現し、心の病気の範疇に入り、解離性障害と呼ばれます。ピブロクトもその特徴を備えています。突然、裸で外に飛び出すといった、自分を見失ってしまったような行動を取り、後で、その間の記憶が抜けているためです。

しかし一般の解離性障害と比べて、イヌイット族に見られるピブロクトは特異です。どうして、厳冬期に女性に限って発生するのか? また、どうして、きまって裸で外に飛び出してしまうのか?

これには、イヌイット族の文化が深く関係していると考えられていて、ピブロクトは「イヌイット族に見られる文化依存症候群の一つ」となっています。悪霊などの超自然的な現象が信じられているイヌイット族の社会で、ピブロクトになってしまった女性を見て育つと、「冬の厳しい時には、悪霊が女性に憑いて、裸で外に飛び出してしまう」というピブロクトのイメージが、心の奥深くにインプットされてしまうと考えられています。その裏づけの一つとして、イヌイット族が西洋文明の影響を受けるようになった現代では、ピブロクトの発生が大きく減ったことがあげられます。


気候も原因? 厳しい寒さと食糧の関係

イヌイット族にピブロクトが起きていた背景として、悪霊を信じるといった文化的背景の他に、冬の厳しい気候、アザラシや魚に偏った食事といった、イヌイット族独特の生活環境もあります。

北極圏の冬は、太陽が全く地上に昇らない時期もあり、日射量の無いような季節になります。日射量は気分に影響を与えますので、日射量の少なくなる冬季に発生する"冬季うつ病”というものもあります。太陽の光の無い、闇に包まれた厳寒期で、家の中に閉じこもりきりのようになると、気分が落ち込みやすくなるのではないでしょうか。

また、イヌイット族の食生活も特徴的です。主食であるアザラシの生肉に含まれるEPA、DHAといった物質には、血液中の脂質を低下させる作用があり、心血管系の病気の発症率が、イヌイット族は欧米人と比較して、顕著に少ないのは有名です。

しかし、イヌイット族の食事は、カルシウムが不足がちです。カルシウムが不足すると、イライラしやすくなりますが、食料が不足する冬は、低カルシウムになりやすく、切れやすい時期とも言えます。イヌイット族にとって、冬は心の健康に不利な季節であるのは間違いないと思います。

私たちの社会には、ピブロクトのような女性のヒステリーはないでしょう。裸で氷点下の外に飛び出すなんて、一種の自殺行為ですが、心が解離して、自殺行為に似た行動を取ってしまうことは、どの社会にも起こりうることです。とにかく、女性のヒステリーはちょっとだけ怖い(?!)位で済んでほしいものですね。


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