メンタルヘルス/(読み物) 文化依存症候群・地域特有の病気

ピブロクト(北極圏):北極圏特有の女性のヒステリー

心の病気の中には、文化依存症候群と呼ばれる、ある特定の地域のみに起こるものがあります。その一つに、ピブロクトと呼ばれる、特異な女性のヒステリーがあります。

中嶋 泰憲

執筆者:中嶋 泰憲

医師 / メンタルヘルスガイド

ピブロクトとは?
北極圏で起きる女性のヒステリーとは?
世界にはさまざまな地域があり、そこで暮らしている人々がいます。そこでの人々の考え方、行動の仕方には、それぞれが属している社会特有のものがあるでしょう。

うつ病、統合失調症といった心の病気は、世界中、地域に関係なく起こります。しかし、心の病気の中には、文化依存症候群と呼ばれる、ある特定の地域のみに起こるものがあります。また、一般的な心の病気でも、ある地域においては、特異的な形で現れ、文化依存症候群とみなされる場合があります。

今回は、女性のヒステリーを例に取り、ある地域特有の文化が如何に影響を与えるか、お話したいと思います。


悪霊の仕業? ピブロクトの症状

雪と氷の世界の北極。故・植村直己さんの犬ぞりでの冒険が有名ですが、北極圏の冬の厳しさはどのようなものでしょう? 太陽が地平線の下に隠れ、闇に閉ざされてしまい、時にはマイナス40度にもなるそうですが、そんな厳しい環境下で暮らしているイヌイット族の人々は、長い間、西洋文明から距離を保ち、独自の文化を維持してきました。

そのイヌイット族の女性に起こるピブロクト(piblokto)と呼ばれる不思議な現象があります。冬の寒さが厳しい時、突然、叫び声をあげ、服を引きちぎるように脱ぎ捨て、裸のまま、外に飛び出すと、雪の上を転がったり、走り回った後、倒れ、昏睡状態になります。外の気温は零下数十度ですので、周りの人が家に戻さないと、そのまま、凍死してしまいます。このピブロクトの状態は数分から数時間持続し、その間、動物の泣き声に似た声を出したりします。後で、目が覚めた時、外に飛び出していた時の記憶はありません。イヌイット族の人は、ピブロクトは女性に悪霊が乗り移った現象だと信じています。

>>ピブロクトを精神医学的に説明すると? 次ページへ>>
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