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都市生活者にも無縁ではないフードデザート問題(2ページ目)

生鮮食品の入手が困難になった地域を指す「フードデザート」。栄養不足や偏りからくる健康被害も問題視されています。過疎地の高齢者だけではなく、都市圏で暮らす人にも問題です。詳しく解説します。

南 恵子

執筆者:南 恵子

NR・サプリメントアドバイザー / 食と健康ガイド


物理的なモノだけでなく「地域コミュニティ」が支え

岩間准教授らが活動されている「フードデザート問題研究グループ」では、「食」は生きる上での基本であり、生活環境を測定する明確な指標となることから、「食」に注目されています。しかし、その背後にはより深い問題が横たわっていると言われます。

「例えば都市構造の変化も重要な要素です。地方都市や過疎山村、島嶼部*(とうしょぶ)、都市郊外の団地が空洞化・高齢化するのは、今後の人口構成などから見ても避けられないことを、念頭に入れておくことが重要です。また流通システムも進歩しました。もう『ALWAYS 三丁目の夕日』の頃には戻れません。

「買い物難民」の解消という意味で、郊外の大型店を非難し、中心商店街を守ろうとする動きもあります。私も商店街は大切な街の顔であり、商店街の保護は重要だと思います。

しかし、問題はそう単純ではありません。店舗までの地理的な距離を改善するだけではフードデザート問題は解決しないのです。喫緊の課題は高齢者の孤立です。これを支えるには、地域コミュニティしかないと思っています。

最近、東京近郊の高齢化する巨大団地で調査を実施したところ、都内なのでスーパーはたくさんありますが、住民の栄養状態は驚くほど悪かったです。栄養状態の悪いお年寄りは、みんな孤独でした。」

昨今よくニュースになる子どもへの虐待や、高齢者の孤独死など、様々な事件が報道されますが、これらの問題の根っこもフードデザート問題と同じところにあるのではないかと思います。

都会に暮らす私たちにとってのフードデザート問題

少子高齢化がすすみ、また貧困にあえぐ若年層の増加等を考えると、都市部でも、郊外の住宅団地などでも、今後フードデザート問題が拡大する可能性はあります。

少子高齢化が進み、また貧困にあえぐ若年層の増加等を考えると、今後は都市部でも、郊外の住宅団地などでフードデザート問題が拡大する可能性はあります

若いうちに老後のことを想像することは、なかなか難しいことかも知れません。けれども、フードデザート問題について、まったく知らないでいることと、知っていることとでは、大きな差があると思います。

現にイギリスやアメリカ等では都会で暮らす若い世代であっても、低所得者層には子どもにジャンクフードやレトル食品ばかりを食べさせて肥満となり、食と健康への意識が薄い傾向があり、若い世代にも無縁の話ではないのです。

岩間准教授から、都会で暮らす若い世代にメッセージをいただきました。
「巨大団地に住むお年寄りたちは、彼らが若く元気だった1960~70年代に郊外に移り住んだ人たちです。近所づきあいや親せきづきあいが煩わしい田舎から逃げてきた人も多く、団地内ではお互いに干渉しないことが暗黙のルールでした。

その彼らが、定年を迎え子どもたちも巣立った今、孤独なお年寄りとなっています。何といっても、人と人とのつながりの大切さ、地域コミュニティを大切にすることが重要です。

また、地域コミュニティを支えようとしている篤志家やNPO団体が全国にありますが、採算性や持続性(後継者)など、問題も抱えているのが現状です。こうした活動に対しては、行政などが支援していくことも重要だと思います。」

「フードデザート問題研究グループ」の研究で、深刻なフードデザートエリアでも、地域住民のつながりが弱い地域の高齢者は、強い地域の高齢者より、総じて食生活が悪いことが明らかにされています。

例えば「調理が脳を活性化する」という研究報告があります。何か難しいことではなくても、家族や地域の知人と食事を楽しみ、作る喜びをわかちあえる人間関係を築くことは、今の生活を楽しむことであり、また将来のためにも大きな実りとなるのではないでしょうか。

岩間准教授にお話を伺い、「人と人とのつながり」が、様々な問題に複雑に関わっていること、そしてたとえ不便な環境にあっても「つながり」は人が健やかに生きる上で大きな力となることも再認識しました。

また高齢化を迎える日本において、高齢者の生活環境の悪化は緊迫している一方で、まだまだ多くの自治体ではフードデザート問題を十分認識してはいません。

岩間准教授はこのように続けます。
「近い将来急速に高齢化するのは郊外のベットタウン。人口が多い分、また街が自動車利用前提で作られていてスーパーや病院などが拡散している分、地方都市より事態は深刻になるはずです。地域コミュニティの結束力も地方都市より弱いです。人口が多いので早急な対策が必要ですが、郊外のベットタウンから都心に引っ越せるのは、ごく一部の裕福層や子供世帯からの支援が充実した一部の人たちだけではないでしょうか?

将来のことを考えると、郊外の大型店を非難し、駅前商店街を守ってばかりもいられないはずです。郊外住民にとっては、駅前商店街よりも郊外のショッピングセンターがライフラインです。」

地域によって社会・文化的な背景や、人・街の構造が異なることから、地域に応じたきめ細かい対策や環境づくりが必要なのだということが理解できました。

「フードデザート問題研究グループ」では、これまでの事例の研究蓄積をもとに、大手コンビニや生協と連携し、移動式スーパーの推進や、彼らのスキルと地域の人たちのつながりを連携させたコミュニティの対策案を模索されています。また交通手段の確保、長期的視点での街づくりなど様々な提言等にも取り組まれています。

フードデザート問題の現状や提言等の詳細については、「フードデザート問題研究グループ」のサイト、月刊『地理2010年8月号』でも詳しく紹介されていますので、関心のある方はご参照ください。

*島嶼部(とうしょぶ)=離島地域などを意味する

取材協力・画像提供/
岩間信之 (茨城キリスト教大学文学部文化交流学科准教授)
参考/
フードデザート問題研究グループ
月刊『地理8月号 2010.Vol.55』(古今書院)
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