最近メディアで取りあげられるフードデザート問題。過疎地の高齢者の問題だと捉えられがちですが、実は都市圏で暮らす人にも無縁ではありません。

今回は、日本における事例の分析や研究蓄積を行っている「フードデザート問題研究グループ」の茨城キリスト教大学文学部文化交流学科、岩間信之准教授に、解説や提言をいただきました。都会に住む私たちも自分の問題として、フードデザートについて考えてみましょう。

フードデザートとは

地方都市や過疎山村では、車の運転ができず、近所で生鮮食料品が買えない高齢者が増えています。

地方都市や過疎山村では、車の運転ができず、近所で生鮮食料品が買えない高齢者が増えています

「フードデザート(食の砂漠)」の定義は、ごく簡単に言うと「生鮮食料品の入手が困難な地域」を指します。メディアがフードデザートを取り上げる時は、シャッターの降りた商店街や自動車の運転ができず買い物に不自由するお年寄りの姿などのイメージ映像がしばしば使われます。

しかし、フードデザートの問題は、こうした日々の買い物の不便さだけではありませえん。野菜や果物、魚、肉類などの栄養価の高い生鮮食料品が買えず、加工食品などを買わざるをえなくなるため、結果的に栄養不足や偏りから起きる健康被害が問題となるのです。

日本だけでなく欧米諸国でも、フードデザート問題が取りあげられています。イギリスでは1970~90年代半ばに中小食料品店やショッピングセンターの倒産が相次ぎ、郊外のスーパーに通えないダウンタウンの貧困層は、値段が高くて生鮮品の品揃えが極端に悪い都心の雑貨店での買い物を強いられることになりました。

イギリスではこうした食糧事情が癌などの疾患の発生率増加の主要因であると指摘され、またアメリカではフードデザートエリアにジャンクフード店が入り込み、肥満の問題が発生しています。

日本では、高齢化の進んだ地方都市の中心部や過疎地を中心にフードテザートが見られます。近年、日本の高齢者の間で低栄養問題が深刻化しています。低栄養状態に陥ると感染症などへの抵抗力が低くなったり、老化が促進することで、自立した生活がますます困難となり、介護の必要性も高くなることが指摘されています。

フードデザートの本質は、弱者の排除

上記のような「買物難民と健康被害」でさえ、フードデザート問題の一面にしか過ぎません。

「フードデザート問題研究グループ」では、日本でのフードデザート問題の実態解明と、問題解決に向けた議論を進めることを目的とし、これまで中心市街地の空洞化が進む地方都市や過疎山村集落、東京都内の住宅団地等で調査を進め、フードデザートエリアマップの作成や事例の研究蓄積を行っています。

「フードデザート問題研究グループ」メンバーの一員である岩間准教授に、フードデザート問題についてもう少し詳しく解説していただきました。

「フードデザート問題とは、社会・経済環境の急速な変化の中で生じた『生鮮食料品供給体制の崩壊』と、『社会的弱者の集住』という2つの要素が重なったときに発生する社会的弱者世帯の健康悪化問題だと、整理できます。

『生鮮食料品供給体制の崩壊』には、商店街の空洞化などで自宅から店舗までの距離の拡大というだけでなく、貧困や差別、社会からの孤立などといった経済的・心理的距離の拡大も含まれます。」

さらに続けて、
「親子、親族、会社の同僚、ご近所など、人と人の縁が切れ、また公共の医療や交通機関、雇用、教育、福祉などの様々な社会サービスからも除外されてしまった人々。健全でまっとうな生活環境から排除されてしまった人々。

社会の「ひずみ」に落ち込んで苦しむのは、いつの時代も排除された社会的弱者と呼ばれる人たちです。こうした人々の増加が、フードデザート問題の本質だと考えています。

本来は、近所にお店がなくとも、経済的に余裕があったり、助けてくれる人がそばにいれば、お年寄りの栄養状態は悪化しない傾向があります。生活環境自体が悪化することで、フードデザート問題が深刻化しているわけです。」と解説。

確かに私も知人から、親が田舎で一人暮らしだけれど、地域に住む親戚縁者が朝な夕なに野菜や料理をお互いに差し入れしあうなど、何かと付き合いが多いお陰で、健康かつ安心して暮らしていられる、というようなお話を聞きます。