メンタルヘルス/自傷行為・自殺願望

希死念慮・自殺願望・死にたい気持ちの原因・対処法

【医師が解説】希死念慮(きしねんりょ)や自殺願望などの死にたい気持ちには、どう対処すべきなのでしょうか。慢性的に死にたい気持ちが消えない状態は心の危機です。希死念慮と自殺願望の違い、気持ちの消し方、対処法、希死念慮の予防法・対処法について解説します。

中嶋 泰憲

執筆者:中嶋 泰憲

医師 / メンタルヘルスガイド

希死念慮や自殺願望などの死にたい気持ちはなぜ起こるのか? 原因と心の病気

頭にいつまでも漂う希死念慮にはうつ病の可能性も

頭にいつまでも漂う希死念慮にはうつ病の可能性もあります。理由ははっきりしないのに何となく「もう死にたい」という気持ちを抱えている場合、うつ病への注意も必要です。


「毎日が空しい」「希望がまったく見えず、何もかも投げ出したい」「自分は周りのみんなに迷惑をかけている」……。こうした心の危機は、このように深刻な状態になっていても、その心の中は他人からはなかなか分かりづらく、当人一人で辛さを抱え込むことになりがちです。

多くの場合、上記のような死にたい気持ちは、何かショックな出来事が起きた直後に出てくるもの。そしてその大部分は一時的なもので、しばらくすると元の精神状態に戻るはずです。しかし、時には心の不調が慢性化してしまい、死にたい気持ちがなかなか消えてなくならない場合もあります。それは心の深刻な危機です。

今回はそうした死にたい気持ちへの対処法を、特にうつ病との関連をポイントにおいて、詳しく解説します。

<目次>  

自殺願望はなぜ起こるのか…うつ病などの心の病気でも特に注意を

死にたい気持ちに陥ってしまうほど心が危機的になる原因自体は多様です。例えば、自殺願望のきっかけに、何か具体的な悩みがあるケースは少なくありません。具体的には「深刻な病気を発症して、健康がすぐれず将来が不安」「仕事が激務で厳しく、精神的に辛すぎる」「大切な人と死別して生きがいを失った」「事情があり家族と離れ離れになり孤独感が強すぎる」など、健康、仕事あるいは家庭などに解決困難な問題がはっきり関わるケースです。しかし場合によっては、それほど具体的な理由がないにも関わらず、慢性的に気分が冴えず、死にたい気持が出てくる場合もあります。

ここで1つ強調しておきたいこととして、どんな悩みであれ、「解決困難」というのは、その時の自分の心のうちでの感覚です。実際には何らかの現実的な解決策があるかもしれません。でももしその時、心が疲れきっていて、いつも通りの判断力を失っていたら、その解決策に気付くことは難しくなります。

そして、そうした状況では、うつ病などの心の病気が関わっていることがしばしばあります。例えば、その時、仮にうつ病を発症していたら、単に気持ちが落ち込むだけでなく、心身の機能もかなりスローダウンしているものです。普段通りの判断力を無くしていることもあるでしょう。それゆえ事態がますます絶望的に感じられて、そのまま苦しみのスパイラルに入り込んでいく可能性もあります。
 

希死念慮(きしねんりょ)と自殺願望の違い

ここまで「希死念慮(きしねんりょ)」という言葉が何回か出てきましたが、それは一言で言えば、死にたい気持ちを言う言葉の1つです。一方、「自殺願望」もそのような言葉ですが、この言葉が出てくる状況には、当人に何か解決困難な問題があり、そこから逃れる手段として死ぬことを考えているようなイメージがあるかもしれません。すなわち、自殺願望を持つ人は、自分を苦しめる何かから解放される手段として自殺を考えてしまう。一方、先の希死念慮では特にはっきりした理由はなしで、いわば生きているのが辛いので死にたいと思うような面があると思います。

しかし、「死にたい理由がない」ということの中には、実は何か深刻な理由があったとしても、当人は何か心理的な問題から、その現実を受け入れていない面もあるかもしれません。それで、ガイドがここで言いたいこと自体は、希死念慮と自殺願望は共に死にたい気持ちを表わす言葉ですが、その言葉がマッチする状況には微妙に違いがあります…ということで、その違いをしっかり説明することは、かなり学問的な話になってしまうかもしれません。

いずれにせよ、いずれも心の危機的状況ということに変わりはありません。そして、そうした際に、その心の危機的状況を自殺という悲劇につなげないためには大事なポイントがあります。それは、その時点で、うつ病の可能性がかなりあるということです。このポイントを当人も周囲の方々も頭において、精神科(神経科)で自分の気持ちを相談してみることが、そうした際の大事なポイントです。
 

希死念慮、自殺願望など死にたい気持ちとうつ病の関係

希死念慮にしても自殺願望にしても、死にたい気持ちが生じているとき、まず注意したいことは、上記にも述べましたが、うつ病の可能性があること、言い方を変えれば、その時、発症している、うつ病が死にたい気持ちを作り出している可能性です。

うつ病は、決して当人の心の強弱に関わる問題ではありません。うつ病は脳内に何か医学的な問題が発生していることが本当の原因です。そして、死にたい気持ちが生じやすいことは、うつ病の問題症状のなかでも、基本的な問題症状の1つです。これまでの研究調査からもはっきりしてきたことですが、自殺されたかたの多くは、その自殺が起きた時点で、実はうつ状態になっていたと推定されています。そして、死にたい気持ちが生じることは、単にうつ病の問題症状が出ているだけではありません。それは、うつ病が重症化した際に出てくる問題症状だと理解しておいてください。それゆえ、その際は精神科(神経科)をすぐに受診することを強くおすすめします。
  >死にたい気持ちへの対処法……まずは話すことが大事。精神科受診も躊躇しないで 死にたい気持ちが生じるほど、心を危機状態に陥らせないためには、まずは、心の重荷を必要以上に深刻化させないことが出発点になります。悩みを自分の心の中に秘めているだけでは、なかなか気持ちは楽にならないものです。悩みごとが生み出す辛さが、実態以上に心の中で拡大しやすいからです。

誰か信頼できる方に悩みを話すことが、悩みへの基本的な対処法となります。まず、話すだけで、心がかなり軽くなる可能性があります。また他人の言葉は、その問題を新しい角度から見るきっかけにもなります。話せる機会は逃さないようにしたいものです。もし身近に話せる人がいない場合は、厚生労働省の「電話相談 もし、あなたが悩みを抱えていたら、その悩みを相談してみませんか。」やボランティアによって運営されている「いのちの電話」などもあります。

また、気持ちが辛い時は、そのストレス状況へのストレス対策も重要です。ただ、ここにも注意点があります。冴えない気分を癒す手段として、飲酒やギャンブルなどにのめり込まないよう、くれぐれもご注意ください。これらのストレス解消効果は通常一時的です。すぐに元の冴えない気分に戻るはすです。そのまま悪循環に陥り、依存症に関わる問題が発生するリスクがはっきりあります。言わずもがなでしょうが、理想を言えば、運動で適度に汗を流していくような、健康的な生活習慣です。

それで最後に繰り返しますが、もしも現在、死にたい気持ちが生じている場合は、ここまで述べてきた「うつ病」が重症化している可能性があります。すぐに精神科(または神経科)受診をお考えください。

また、家族などの身近な方から、何か自殺をほのめかす言葉を聞かれた方は、決して軽く考えず、当人に精神科受診をぜひ促していただきたいです。その際は、ご家族のかたと一緒に精神科を受診することが、より確実です。また、自分は自殺願望などの考えには無縁だと感じている方も、この問題を正しく理解するために「「死にたい気持ち」は他人事ではない…背景に心の病も」記事も、ぜひご覧いただければと思います。


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