胃腸の病気/吐き気・嘔吐・吐血

吐き気・嘔吐の原因となる病気一覧【医師が解説】

【消化器病学会専門医が解説】吐き気・嘔吐の原因は、軽い食中毒や胃潰瘍、めまいなどの軽度のものから、くも膜下出血などの命に関わる病気まで様々です。 吐き気や嘔吐の他に、腹痛や頭痛を伴っているかどうかでも原因を絞り込むことができます。吐き気を起こす主な病気一覧を挙げて解説します。

染谷 貴志

執筆者:染谷 貴志

医師 / 消化器・肝臓の病気ガイド

吐き気・嘔吐の症状が起こる原因

腹痛

食中毒? 脳梗塞? 吐き気に潜む病気は、実に様々です

そもそも吐き気はどうして起こるのでしょうか? 「吐き気」とは広い意味では、めまい、腹部全体の不快感、食欲不振、嘔吐感などの不快な感覚を指します。脳の嘔吐反射中枢が刺激されると吐き気が起こりますが、この中枢が反応する理由は様々です。

最も多いのは、消化管の働きが乱れて嘔吐反射中枢が刺激されるケースですが、それ以外にも船や自動車などの乗り物の揺れや、妊娠初期の吐き気、モルヒネなどの鎮痛剤や、癌の化学療法薬などでも吐き気が起きることがあります。

また「嘔吐」は、食べたものや胃酸・胃液などの胃の内容物が、強力な力で胃から逆流してしまう症状です。胃袋を風船と考えてみましょう。風船がパンパンに膨らんだ状態(医学的には「胃の内圧が高まる」という)や、風船を外からグイグイと押した状態(医学的には「腹圧が高まっている」という)になった場合、嘔吐が起きます。

よくあるのは二日酔いの時や、腐ったものを食べた時だと思いますが、これは過剰なアルコールや腐敗した食物など、有害なものを吸収せずに排除しようという体の防御機構です。

吐き気・嘔吐で外来を受診する多くの場合、頭痛やめまい、腹痛など、他の症状を伴うので、医療の現場でもそれらの合併症状をヒントにしながら原因を特定していきます。

問診の際、私たち医師が吐き気・嘔吐以外の症状について最初に尋ねるのはこのためです。以下では吐き気・嘔吐が起こる主な病気について、一緒に起こりやすい症状別にまとめて、考えられる病気を解説します。
 

吐き気・嘔吐に腹痛を伴う病気

■急性胃炎・慢性胃炎
ストレスや鎮痛剤服用などが原因で出血を伴うこともあり、外来ではとても多い病気です。命にかかわる病気ではありませんが、のたうちまわるような痛みが出ることもあります。胃酸を抑える薬や、胃の粘膜を保護する薬で治療。もちろんストレスが原因であればそれを取り除くのが一番の根本的治療法です。

■胃がん
50~60歳の男性に多く、ピロリ菌との関連性が指摘されています。摘出手術が必要なことが多いですが、最近は早期に見つかることも多く、うまくいけば内視鏡治療だけで完全に治療することもできるようになってきました。詳しくは「胃がんの初期症状・がんの進行」も併せてご覧下さい。

■胃潰瘍(かいよう)・十二指腸潰瘍(かいよう)
みぞおちの辺りに痛みが出るのが一般的。胃潰瘍の場合は食後に、十二指腸潰瘍の場合は空腹時に痛みが出やすいとされています。ただ実際に外来で胃の内視鏡検査を数多くやっていると、「そんなに痛みは感じませんけどね」とケロッと言われる患者さんに立派な潰瘍が見つかることもあり、一概には言えないものです。

虫垂炎
いわゆる盲腸。よくある病気ですが、痛む場所も痛みの程度も人それぞれなので、消化器内科や消化器外科の経験が豊富なベテラン医師でも診断に悩むことが多い病気でもあります。抗生物質の点滴や飲み薬で治ることもありますが、手術をしなければならないこともあります。

■腹膜炎
腹膜に起こる炎症のことで、潰瘍で胃に穴が開いた時や急性すい炎など様々な原因で起こります。薬で治ることもありますが、ひどい場合は手術が必要。

■急性膵炎(すいえん)・慢性膵炎(すいえん)
アルコールの飲みすぎや胆石が原因で起こり、七転八倒の痛みが出ることもあります。絶食安静でよくなることもありますが、ひどくなると手術が必要になることも。アルコールの飲みすぎによって起こる病気については「飲酒・アルコールが招く病気」をご参照ください。

■急性肝炎
A型、B型、C型などのウイルスが原因。B型肝炎C型肝炎などの病名でも知られています。通常、安静にしていれば改善していきますが、劇症肝炎という死に至ることもある重症になるケースも。早期発見・早期治療が大切です。

胆石症
よく見られる症状としては腹痛、発熱、黄疸(おうだん)があります。根本的治療としては手術がありますが、一時的な発作であれば、鎮痛剤、抗生物質などを内服して様子をみることもあります。

■胆のう炎
胆石症と合併して起こることが多い症状。発熱を伴い、腹痛が起こります。抗生物質の点滴などで治療します。

尿路結石
尿路にできた結石により、七転八倒する痛みとともに、吐き気も出現する病気。強い痛みと吐き気が突然襲ってくるので、救急外来でよく見かける病気です。背中を叩かれた時に飛び上がるような痛みがあり、尿に血が混じっていればかなりの確率でこの病気でしょう。痛み止めの薬を飲みながら、尿に石が出てくるのを待つこともありますし、泌尿器科で手術で石を取ってしまうこともあります。
 

吐き気・嘔吐に胸焼けを伴う病気

胃食道逆流・逆流性食道炎
胃酸を含む胃の内容物が食道に逆流することで、胸焼けなどの症状が出ることがあります。胃袋の粘膜は胃酸から守られる機能を持っていますが、食道の粘膜には防御機能がないので、胃液が触れるとダメージを受け、吐き気や胸焼けといった症状が出るのです。胃酸を抑える薬で治療します。
 

吐き気・嘔吐に下痢を伴う病気

食中毒
いわゆる食あたり。経験がある方は多いのではないでしょうか。下痢を伴うことがありますので、脱水症状を起こさないよう水分補給や、原因となる細菌を死滅させる抗生物質投与が治療になります。
 

吐き気・嘔吐に便秘を伴う病気

腸閉塞
消化物や消化液が腸内に溜まってしまう状態で、腹部の手術後の癒着や、大腸がん、腸重積(ちょうじゅうせき)などで起こります。ゲーゲーとひどく吐いていて便が出ていなかったら、腸閉塞の可能性が高いです。食事を止めて腸を安静にするだけで改善することもありますが、その他の処置が必要になるケースもあります。

腸閉塞はいわば道路が通行止めになって、その手前側が大渋滞を起こしている状態です。これにより腸の中がパンパンに張ってきますので、鼻からイレウス管と呼ばれるチューブを入れてガスや腸液を引いてあげることによって、渋滞緩和をします。それでも改善しないときには、原因を取り除くための手術に踏み切ることがあります。いずれにしても入院が必要な病気です。
 

吐き気・嘔吐に頭痛を伴う病気

くも膜下出血
脳動脈瘤(りゅう)の破裂などにより、突然激しい頭痛が起きる病気。「後頭部をハンマーで殴られたような痛み」と表現されることもあります。通常は激しい頭痛がありますが、軽い頭痛で吐き気・嘔吐が主な症状のこともあります。

■脳腫瘍
頭痛や物が二重に見えるといった症状がありますが、頭蓋骨で囲まれている脳が腫瘍により圧迫されるため、吐き気を催すことがあります。

片頭痛
20代から30代の女性に多く、数時間から3日くらい続くズキズキとした頭痛。ひどい頭痛とともに吐き気に悩まされることが多いです。頭痛の薬を飲みたくても吐き気がひどくてうまく飲めない場合、症状がなかなか改善しないこともあります。片頭痛による吐き気が強いときは、片頭痛の内服薬を腸でしっかり吸収するために、吐き気止めの内服薬を一緒に飲んでもらうのが効果的です。

緑内障
眼圧が上昇する病気で、頭痛とともに吐き気、嘔吐が起こります。治療は眼科で行いますが、頭痛と吐き気を訴えて内科を受診してくる患者さんが多いので、私たち内科医としては、眼の病気もありえるということをしっかり頭に入れておかないと、診断が遅れてしまう危険もあります。
 

吐き気・嘔吐にめまいを伴う病気

■脳出血(特に小脳出血)
小脳は体のバランスをつかさどる脳なので、ここに出血が起き障害が出ると、めまいとともに吐き気が出ることがあります。

■脳震盪(のうしんとう)
脳が激しく揺さぶられることによって起こる脳障害です。ラグビーでタックルを受けたときなど、スポーツで強く頭を打ったときに多いです。頭の中で脳がぐらぐらと揺らされる結果、吐き気や嘔吐といった症状が出てきます。完全に回復するまで安静にすることが大切です。

髄膜炎(ずいまくえん)
ウイルスや細菌が原因となり、発熱やけいれんが起きることもあります。ひどい頭痛とともに吐き気が出てくることが多い病気の代表例です。

メニエール病
吐き気を伴うようなひどいめまい、難聴、耳鳴りといった症状を起こす病気。耳の奥にある平衡感覚や聴力をつかさどる内耳(ないじ)という部分に障害が起きる病気です。専門は耳鼻咽喉科です。
 

吐き気・嘔吐に胸痛を伴う病気

心筋梗塞
動脈硬化により心臓を栄養する血管がつまる病気で、胸痛が起こりますが、吐き気などの消化器症状が出ることもしばしばあります。命にかかわることもあるので、一刻も早く診断をしなければなりません。「何となくムカムカして気持ち悪い」という症状だけの患者さんもいるため、現場で心電図を取って発見し、ドキッとさせられることもあります。
 

吐き気に疲労感や意識混濁を伴う場合

糖尿病
糖尿病で血液の酸性度が高くなりすぎる「アシドーシス」という症状があり、これによって吐き気が起こることもあります。糖尿病がかなり悪化した状態なので、入院治療が必要になります。
 

病気以外が原因の吐き気・嘔吐

薬の副作用
抗生物質や鎮痛剤の中には、胃腸に負担をかける薬剤もあり、アレルギーで嘔吐してしまうこともあります。原因となる薬剤をやめることで改善されます。

■心因性嘔吐
拒食症過食症を含むストレスや不安が原因で嘔吐することがあります。実際に外来で受診することも多いのですが、最初は強いストレスを感じていることを話してくれない患者さんも多く、診断に時間がかかるケースもあります。心因性のものは話しづらいこともあるかもしれませんが、私たち外来で診察している医師は、少しでも患者さんの症状を改善する方法を考えています。思い当たることがある方は、勇気を振り絞って遠慮せずに話してみてください。詳しくは「ストレスによる吐き気で注意したい病気と対処法」をご覧下さい。

■妊娠
これは皆様、おわかりですね。妊娠時のつわりでも吐き気・嘔吐の症状があります。外来では「女性を診察したら、妊娠を疑え」という言葉があるくらいで、腹痛や吐き気でやってくる女性患者さんに対しては、常に頭の片隅で妊娠の可能性はないかと注意しているものです。

以上、吐き気や嘔吐は本当に様々な原因で起こることがおわかりいただけたでしょうか? 病名の自己診断は難しい症状ですので、違和感を感じたら病院を受診してください。

吐き気にお悩みの方は、「吐き気・嘔吐が起こる仕組み」「食べ過ぎ、つわり、ストレス…吐き気の原因と対処法」「吐き気止め薬の選び方・使い方」もあわせてご覧ください。
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