胃腸の病気/潰瘍性大腸炎・クローン病

山田まりや難病だった? クローン病の症状・治療法

昨年、タレントの山田まりやさんが、クローン病の疑いで10年前から闘病していたことを告白しました。米国第34代大統領、ドワイト・D・アイゼンハワーもクローン病であったことが知られています。クローン病は、潰瘍性大腸炎と並ぶ炎症性腸疾患の難病です。しかし、近年は生物学的製剤が保険適応になったおかげで、治療成績が格段に上昇しています。クローン病の診断、治療法、食事のポイント等について解説します。

今村 甲彦

執筆者:今村 甲彦

医師 / 胃腸科・内科の病気ガイド

クローン病とは

腹痛の女性

クローン病では、慢性の腹痛と下痢に悩まされます。

クローン病とは、潰瘍性大腸炎とともに炎症性腸疾患に分類される原因不明の病気です。1932年、ニューヨークにあるマウントサイナイ病院のクローン先生らによってはじめて報告されました。

小腸・大腸を中心とした消化管に潰瘍を形成し、腹痛、下痢、血便などがみられます。発熱、全身倦怠感、体重減少といった全身症状や肛門病変をともなうこともあります。10代~20代の若年者に好発し、男女比は2:1と男性に多くみられます。

日本では、1940年ごろから「非特異的限局性腸炎」として紹介されたものの、まれな病気として一般にはあまり知られていませんでした。1975年に旧厚生省の研究班が発足し、全国調査が開始されました。その結果、特定疾患医療受給者数は、1976年には128人でしたが、その後は増加傾向を認め、2011年には、34,721人が登録されています。

クローン病の原因

クローン病の原因ははっきりとわかっていません。「遺伝的な要因」「免疫の異常」「食事や腸内細菌などの環境因子」などが関係しているといわれています。

クローン病は世界的にみると先進国に多く、北米やヨーロッパで高い発症率を示しています。環境因子、食生活が影響していると考えられ、動物性蛋白質や脂肪を多く摂取し、生活水準が高いほどクローン病にかかりやすいとされています。人口あたりのクローン病患者数は、欧米に比べると、日本ではまだ10分の1程度です。

クローン病の症状・診断基準

クローン病では、腹痛、下痢が特徴的です。また、血便、発熱、全身倦怠感、体重減少などの症状もしばしば現れます。クローン病と鑑別が必要な疾患として、感染性腸炎、潰瘍性大腸炎、抗菌薬起因性腸炎、腸管Behcet病・単純性潰瘍、虚血性大腸炎、NSAID起因性腸病変、collagenous colitisなどがあります。血液検査、糞便検査、消化管X線造影検査、内視鏡検査を行い、症状、画像、組織所見などを確認し、総合的に診断します。

クローン病と潰瘍性大腸炎の違い

胃腸

クローン病は、口腔から肛門まで消化管のあらゆるところに炎症を起こす可能性があります。その中でも、小腸末端が好発部位とされています。

クローン病と潰瘍性大腸炎はともに、症状がよくなる「寛解」と悪くなる「再燃」を繰り返し、若年者に多い病気です。異なる点は、潰瘍性大腸炎の炎症が大腸に限局するのに対して、クローン病は、小腸・大腸を中心として、消化管すべてに炎症が起こる可能性があることです。

炎症の深さも、潰瘍性大腸炎は比較的浅く、腸粘膜にびらんや潰瘍を起こすのに対して、クローン病は炎症が腸管の筋層まで達するほど深く、穿孔や瘻孔を生じることもあります。症状では、潰瘍性大腸炎でよく認められる血便が、クローン病ではそれほど高頻度ではありません。

ただし、症状や画像、組織所見などでも、クローン病と潰瘍性大腸炎の鑑別がつかない例もあります。欧米では約10%、日本では約4.2%と報告されています。

生物学的製剤で劇的に進化したクローン病の治療法

クローン病は、完治を目指すことが困難な疾患です。治療目標は病勢をコントロールし、QOLを高めることにあります。

10年前に生物学的製剤(抗TNFα受容体拮抗薬)が保険適応となり、クローン病も劇的な治療効果が得られるようになりました。その結果、炎症性腸疾患患者の入院率が短縮され、多くの方が外来治療で対応できるようになっています。

生物学的製剤とは、体の免疫機能などに関わる物質「サイトカイン」を抑える薬です。関節リウマチや潰瘍性大腸炎などの治療にも用います。同じ炎症性腸疾患の潰瘍性大腸炎に比べ、クローン病では生物学的製剤がかなり効果的です。

現在では、生物学的製剤は、クローン病患者さんの半数以上に使用されています。また、最近では、5-アミノサリチル酸(ASA)製剤の高容量が使用できるようになったため、入院を要する再燃は確実に減少してきています。

1. 活動期の治療
1)軽症~中等症の治療
5-アミノサリチル酸(ASA)製剤や栄養療法(経腸栄養療法)を用います。栄養療法は、栄養状態の改善のみならず炎症抑制効果を併せ持ちます。

2)中等症~重症の治療
経口ステロイドの他、、抗菌薬を試みる方法もあります。ステロイドの減量、離脱が困難な場合は免疫調節剤を併用します。これらが無効の場合は、抗TNFα受容体拮抗薬を考慮します。大腸病変に起因する症状がある場合は、白血球除去療法を併用することがあります。

3)重症の治療
病勢が重篤、高度な合併症を有する場合は外科的治療を検討します。ステロイドの経口または静脈投与を行います。ステロイド抵抗例では、抗TNFα受容体拮抗薬を用います。重症度が高い場合は、静脈栄養療法を行うこともあります。

2. 寛解維持療法
5ーアミノサリチル酸(ASA)製剤やアザチオプリンなどの薬物療法や、在宅経腸栄養療法が用いられます。

3. そのほかの治療
クローン病に合併しやすい肛門部病変の治療や、炎症により狭くなった腸の治療などが必要となることがあります。

クローン病の食事

以前、安倍総理が潰瘍性大腸炎から復活して、カツカレーを食べているところがテレビで放映されていました。油っこい食物や刺激物は控えたほうがいいのですが、潰瘍性大腸炎の場合は、症状が落ち着いていれば、絶対食べてはいけないという食品はありません。

対して、クローン病の場合は、薬物療法と同等に栄養療法が重要になるので、食事には気をつけなくてはなりません。肉類は制限した方がいいですし、繊維質の食品は避けたほうがいいでしょう。炎症を起こしにくい食事として、「低脂肪」「低残渣」の食事が推奨されます。成分栄養剤を必要とすることもあります。

クローン病の医療費助成制度

クローン病も潰瘍性大腸炎と同じように、「特定疾患治療研究事業」の対象疾患となっています。クローン病と診断され、所定の申請手続きを行い認可されると、クローン病に伴う医療費の助成を受けることができます。保健所や医療機関で相談してみましょう。

クローン病の経過・仕事や出産

クローン病は再燃と寛解を繰り返す病気です。さまざまな薬剤の開発により、治療法は進化し続けています。しかし、長い経過のなかでは、手術を必要としなければならないことが多いのも事実です。栄養療法と薬物療法で、再燃、再発予防を行うことが大切です。

クローン病が疑われた山田まりやさんは、数年前から症状はなく、無事に第一子を出産されたそうです。
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