食中毒が最も多いのは冬

食中毒と聞くと暑い時期が多いと思いがちですが、食中毒が一番多いのは実は冬なのです。

食中毒のグラフ

11月から3月にかけて、食中毒が集中しているのがわかります(農林水産省のホームページより)


以前は寒い季節は食中毒が発生しにくいと思われていましたが、寒い季節に頻発するウイルス性食中毒の存在が明らかになってきました。

食中毒の大半は、細菌とウイルスです。食中毒の発生件数は細菌の方が多いのですが、患者数はウイルスの方が多くなっています。平成24年の食中毒統計検査では、食中毒の患者さん2万7000人中、7割がウイルス、2割が細菌です。ウイルスの感染力はかなり強いため、患者数はウイルスが細菌を大きく上回っています。

食中毒の原因

食中毒の患者さんはウイルスによるものがダントツです(農林水産省のホームページより)


このウイルス性食中毒のほとんどはノロウイルス。冬場の食中毒の大半はノロウイルスによるものといっても過言ではありません。

ノロウイルスは食中毒?感染症?

食中毒とは、食中毒の原因となる細菌、ウイルス等が付着した食品や有害な物質を食べることによって引き起こされる健康被害をいいます。

感染症とは、細菌やウイルスなどが人の体に入り込んで増え、咳、発熱、下痢などの症状がでることです。人から人以外に、動物や昆虫から人にうつるもの、食べ物についた病原菌が原因となるものなどがあります。ただし、感染症には、化学物質や自然毒は含まれません。

食べ物についた病原体が原因の場合は、食中毒でもあり、感染症でもあります。このように同じ物質が食中毒の原因となったり、感染症の原因となったりすることがあります。ノロウイルスもそのひとつで、食中毒と感染症を両方引き起こします。つまり、ノロウイルスは食中毒でもあり感染症でもあるのです。

では、ノロウイルスについて、もう少し詳しく解説します。

「ノロウイルス」の名前は「ノーウォークウイルス」から

1968年、アメリカ合衆国オハイオ州ノーウォークの小学校で集団発生した急性胃腸炎患者の糞便から検出され、「ノーウォークウイルス(Norwalk virus)」と命名されました。1972年、電子顕微鏡の観察から、形態が小さな球状をしていることより、「小型球形ウイルス(SSRV)」とも呼ばれるようになりました。2002年、国際ウイルス学会において、“ノーウォーク(Norwalk)”と“ウイルス(virus)”を複合して、「ノロウイルス(Norovirus)」という正式名称に決まり、世界で統一して用いられるようになっています。

感染経路で多いのは「ヒト→ヒト感染」

牡蠣

二枚貝はプランクトンを主食としており、プランクトンと一緒にノロウイルスも取り込みます

ノロウイルスは二枚貝から感染することが多いとされています。二枚貝はカキやアサリ、シジミやホタテなどです。二枚貝はプランクトンを主食としており、プランクトンと一緒に漂うウイルスも吸い込んで中腸腺という器官に蓄えます。

ノロウイルスは人の腸管内でしか増殖できません。ノロウイルスが元気なまま体内に入ると体内で増殖し、糞便として排泄され下水へ流れていきます。その後、下水処理されて河川へ放出されますが、ノロウイルスは下水の消毒では死滅しないため感染力を保ったまま海に流れ込みます。そして、ノロウイルスは海水を漂い二枚貝に蓄えられます。それを人が摂取し感染していくというサイクルが繰り返されているのです。

そして、ノロウイルスの怖いところは感染力です。乾燥に強く、4℃で8週間、20℃で3~4週間ぐらい生存します。吐物だけでなく、吐物が細かい飛沫となって空気中を浮遊したり、一旦床に落下したものが、乾燥、浮遊して口に入り感染することもあります。

大阪のあるホテルで食事をしていた人たちが、ノロウイルスに感染した事件がありました。調べてみると、原因は宴会場の絨毯でした。吐物が適切に処理されないと、後々も感染を引き起こすことがあります。

感染しても症状がでないことがあり、感染に気付かなかった調理人が作ったサンドイッチで多数の食中毒者をだした事件もあります。

注意すべき点は、ノロウイルスの感染経路で最も多いのは、食中毒に感染した人の嘔吐や糞便が環境中に排泄された結果再び人に感染する「ヒト→ヒト感染」ということです。カキを食べていなかったり、周囲にノロウイルス感染した人がいなくても感染する可能性があるので注意が必要です。

二枚貝以外の貝は大丈夫?

二枚貝以外で食用とされる貝には、サザエやアワビがあります。巻貝は海藻を主食としており、生で食べてもノロウイルスに感染する可能性はほとんどありません。ちなみにアワビも巻貝の一種です。ホタテも二枚貝で生で食べることがありますが、生で食べるのは貝柱だけで内臓は除去してあるので大丈夫です。

ノロウイルス感染の症状

潜伏期は1~2日です。吐き気や嘔吐、腹痛などの症状があります。通常は、2~3日で改善し、軽症で終わることが多いですが、乳幼児や高齢者、免疫力の低下した人は注意が必要です。症状が消失しても、1週間ぐらいは便中に検出されます。手洗い等の衛生管理を徹底して、二次感染を予防することが必要です。

ノロウイルスの検査(2012年4月から保険適応に)

ノロウイルスの迅速検査キットを用いての検査が、2012年4月から保険適応になりました。便を用いて検査します。保険適応は、3歳未満と65歳以上、免疫力の低下した人(臓器移植後や悪性腫瘍のある人など)です。

ノロウイルス感染の治療法

抗ウイルス剤やワクチンはありません。脱水予防などの対症療法を行います。下痢止めはウイルスを排除しようとする腸管の動きを止めるので、一般的にはあまり使用しません。しかし、状態によっては使用することもあるので、症状が強ければ医師に相談しましょう。

ノロウイルス感染の予防

手洗いの女性

感染防止には手洗いが重要です

  • 手洗いの励行
調理の後や二枚貝を取り扱った後、またトイレの後などは十分に手を洗いましょう。石鹸と流水で洗うことでウイルスの殺菌自体は期待できませんが、付着したウイルスを皮脂と共に洗い流すことができます。感染事例の多くが人を介して起きており、感染防止には手洗いが最も重要です。

  • 食品の加熱
85度以上、1分以上の加熱で感染力を失活化できます。調理器具などは洗剤を用いて洗浄し、家庭用塩素系漂白剤(ハイタ-、ブリーチなど)で浸すように拭くとウイルスを失活化できます。

  • 嘔吐の処理
ノロウイルス感染は高率に嘔吐を認めます。吐物処理の対応次第で二次感染の広がりを左右します。吐物は素手で触らず使い捨ての手袋を利用しましょう。エタノールではノロウイルスは失活化できませんので、家庭用塩素系漂白剤を用いてください。ふき取った後の物はビニール袋に密封し、燃えるゴミとして処分してください。

  • 便の処理
便の処理も嘔吐と同じように扱います。

ノロウイルスは予防が大切です。一旦発症すると、次々に感染者が増えていきます。私が勤めていた病院でも、嘔吐下痢の患者さんが1人出た後、2人、4人、8人、20人と倍々に増えていき、感染を食い止めるのが大変でした。発症した患者さんと他の患者さんとの接触を断つようにし(隔離)、ドアノブや手すりなどの消毒を行い、手洗いを徹底してやっと沈静化しました。保育所や介護施設、病院など、乳幼児や高齢者、免疫力の低下した人がいる場所では感染が広がりやすいので注意が必要です。
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