働き方改革の一つ? サマータイムとは
夏の「明るい時間帯」を有効に使う施策「サマータイム」。どんなメリット・デメリットがあるのでしょうか?
サマータイム導入国は世界で70カ国ほど……日本の場合は?
サマータイムを導入している国は、世界の中で70カ国ほどあります。また、先進国といわれる経済協力開発機構(OECD)に加盟している35カ国のうち、サマータイムの制度がないのは、韓国、アイスランド、そして日本などの少数派です。しかし、地球規模でみると、日本から赤道にかけての中低緯度にある国々は、ほとんどサマータイムを実施していません。また、現在サマータイムを行っている国の中でも、ドイツやフランスでは廃止の意見が強くなってきています。ロシアでは2011年に、サマータイムを廃止しました。
実は、日本でもサマータイムを行っていた時期があります。昭和23年に、当時の占領軍の指示でサマータイムが始まりました。「夏時刻法」により、5月の第1土曜日から9月の第2土曜日まで行われました。しかし、生活リズムの乱れや労働時間の延長、交通機関の混乱などが起こり、国民に不評でした。そのため、講和条約により独立を取り戻した昭和26年には、サマータイムが廃止されました。以後わが国では、全国一斉に行われるサマータイムは、実施されていません。
評判が悪かったサマータイムですが、その後も復活させようとする動きがありました。2005年には、超党派の国会議員からなる「サマータイム制度推進議連」が、制度導入の法案を国会に提出しようとしました。これについて当時の福田康夫首相は、「どこの国でもやっていることで、取り入れていない日本が異例」と、導入に前向きな発言をしています。
2011年の東日本大震災の時も省エネや脱原発のため、サマータイムの導入が検討されました。しかし、メリットよりもデメリットが多いことなどから、導入が見送られています。
サマータイムの効果……資源節約・アフター5の充実
サマータイムは、18世紀にベンジャミン・フランクリンが、初めて提唱したといわれています。世界で初めて実施されたのは、第1次世界大戦中のドイツで、1916年4月30日から10月1日まででした。アメリカでは、1918年に初めて実施されましたが、とても不評で2年後には廃止されてしまいました。
ところが、第2次世界大戦中に「資源の節約」を目的に復活すると、その後はサマータイムが定着しました。2007年に「包括エネルギー法案」ができてからは、3月の第2日曜日から11月の第1日曜日まで行われています。
サマータイム推進派は、エネルギー消費が減らせることを、制度導入のもっとも大きな理由としています。つまり、太陽が出ていて明るい時間を有効に使うと、照明に使うエネルギーを節約できるということです。これを機会に、多くの人が地球の温暖化問題をさらに真剣に考え、環境にやさしいライフスタイルへ変えていくきっかけになると良いですね。
また、明るいうちに家に帰ることができるので、アフター5の生活が充実させやすい、とも主張しています。さらに、暗くなってから屋外にいる人が少なくなるので、交通事故や犯罪の発生を減らすことも期待されています。
日本睡眠学会がサマータイム導入に反対している理由
日本睡眠学会は、サマータイムに期待される効果よりも、予想される健康被害やそれによる経済的損失のほうが大きいとして、サマータイム制度の導入に反対する声明を出しています。詳しくは「知っておきたい快眠の最新情報5選」をご覧ください。サマータイムが始まるときには起床時刻を1時間早め、終わるときには1時間遅くしなければなりません。このように、睡眠のリズムを急に変えると、体調を崩す人が出てきます。実際、正式なサマータイムではありませんが、2004年から札幌で行われている北海道サマータイムの参加者のうち、40%もの人たちが睡眠不足や体調の悪化を訴えていました。
声明の中で一番驚いたことは、経済的損失が 1,200億円 にも達するということです。これまでに試算されている、睡眠障害による各国の年間損失額は、アメリカで10兆円、オーストラリアで9,000億円、そして日本では3兆5,000億円でした。これを元に、サマータイムによる睡眠障害が、春秋1週間ずつ起きるとして計算したものが、先の数字です。
また、残業時間が増えることによって、睡眠時間が削られる心配もあります。こちらについては、「働く人の睡眠が危ない!? 快眠で能率アップを目指せ」でも詳しく解説しています。始業時刻が1時間早くなっても、残業などで実際の終業時刻が変わらない労働者も出てくるでしょう。今でも、過重労働のため十分な睡眠時間を取れていない人が多いのですから、さらに残業時間が増えると、メンタルヘルスに大きな問題を生じかねません。
サマータイムのデメリット…省エネ・経済効果への疑問・負担
サマータイム推進派が最も強調する省エネ効果も、疑問視されています。時計を1時間早めるので、照明に使われるエネルギーが節約できるのは確かです。しかしそれ以上に、寒い時期の朝の暖房や、暑い夏の夕方の冷房の使用が増えるので、トータルとして電力消費量が増えてしまいます。実際、2007年にアメリカのインディアナ州で行われた調査でも、サマータイム制度の導入により、家庭の電気量消費量が1~4%も増加しています。
「日本は他の国と違う」という意見もあります。現在、サマータイムを採用している国の多くは、緯度が高い地域にあります。地球の自転軸が傾いているので、緯度が高いところほど、夏の日照時間が増えます。こういう国は、サマータイムによる恩恵が多いのでしょう。
しかし、日本は欧米よりも低い緯度に位置しています。西日本や南日本では、サマータイムになると、外が暗いうちから出勤や登校しなければならない可能性も出てきます。
コンピューターの「2000年問題」以上のトラブルが起きるとも、心配されています。毎年2回、コンピューターの時計を1時間早めたり遅らせたりするので、何か問題が起きても不思議ではありません。実際、2007年にアメリカで、切り替えに伴う事故も起きています。さらに、ソフトを開発したり購入したりする費用も、莫大(ばくだい)です。
家や職場、学校にも多くの時計や、時計を組み込んだ電化製品があります。これらを半年ごとに調整しなければならなくなると、ちょっとイヤになりますね。
日本が導入すべき理想のサマータイムとは?
日本の気候や文化にマッチした、夏時間を考えましょう。サマータイムを行っても、エネルギーの消費量が減らないことは、先にご紹介しました。しかし、明るい時間に活動して暗くなったら休む、という地球の昼と夜のリズムに合わせた生活は、睡眠障害の予防や治療の観点からは望ましいことです。ですから、サマータイム導入の目的を、「より良い睡眠を取り戻すため」にしては、どうでしょうか?
また、全国一斉に時計の針を動かすと、大きな混乱を生じそうです。早起きすると体調が良くなる人もいますが、逆に調子が悪くなる人もいるでしょう。全体主義に陥らず多様性を大切にするなら、国でサマータイムを決めるのではなく、企業や官公庁、学校などそれぞれの組織の判断で、始業時間を繰り上げることができるようにしてほしいものです。
参考になるのは、2004年から札幌商工会議所の呼びかけで行われた「北海道サマータイム」です。これは行政の力で、無理やり時計に針を早めるものではありません。呼びかけに応じた企業や官公庁が、夏の間だけ始業時刻を1~2時間早めます。早出勤務と遅出勤務の2交代制をとることで、終業時刻は変えず、取引先や利用者の不便にも考慮しています。参加した企業へのアンケートではおおむね好評で、夏のイベントとしても定着していました。
これは本来のサマータイムではなく、フッレクスタイム制のひとつです。また、6月の日の出が午前4時ごろで、日没が午後7時過ぎという、北海道ならではの試みではあります。しかし、この「北海道サマータイム」には、日本で行うのに適したサマータイムについて、いろいろなヒントが隠されているように思えます。みなさんの地域や職場でも、独自のサマータイムを考えてみてはいかがでしょうか?
サマータイム導入国も……海外旅行で注意すべき時差の変化
海外旅行の際に注意しなければならないことが、いくつかあります。まず、旅行先の国でサマータイムが行われているかどうかです。そして、行われるなら、いつから始まっていつ終わるのかも、要チェックです。これを間違えると、飛行機の出発時刻やアトラクションの開始時刻に遅れてしまいます。2017年の主な国のサマータイムの実施状況は、次の通りです(一部地域を除く)。
- アメリカ・カナダ(Daylight Saving Time):3月12日~11月5日
- ヨーロッパ:3月26日~10月29日
- ニュージーランド(Daylight Saving):9月24日~2018年4月2日
- オーストラリア(Daylight Saving):10月1日~2018年4月2日
同じ国でも、サマータイムを行っていない地域があることにも、注意してください。そんな時は地域の境界を越えるときに、時差を調整しなければなりません。事前にしっかりと、情報を確認しておきましょう。
たとえばアメリカでは、カリフォルニア州はサマータイムを採用していますが、隣のアリゾナ州にはサマータイムがありません。通常時間では、カリフォルニア州とアリゾナ州には、1時間の時差があります。しかし、サマータイム期間中は、時差なしになるので気をつけましょう。
サマータイムと通常時間の切り替えの際にも、注意が必要です。訪問した国でサマータイムが始まる、あるいは終わるときには、忘れずに時計の針を1時間進める、あるいは遅らせましょう。
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