プロフェッショナルマネジャー - 58四半期連続増益の男
著 者: ハロルド・シドニー・ジェニーン (著)
体 裁: 単行本:339 p
サイズ(cm): 19
出版社: プレジデント社
ISBN : 483345002
発行日: 2004/05/20
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経営の鬼神として知られるハロルド・シドニー・ジェニーン氏の経営回想録。「本を読む時は、初めから終わりへと読む。ビジネスの経営はそれとは逆だ。終わりから始めて、そこへ到達するためにできる限りのことをするのだ」など、経営の金言が詰まっている。この本に衝撃を受け、経営の教科書とする株式会社ファーストリテイリング代表取締役会長兼CEO柳井正氏が解説。
●今週の選書について
本書が書かれた1985年ごろは、アメリカの経営者達が日本に学べということで、こぞって日本の工場に視察に押しかけていました。アメリカが凋落を続ける中、日本は発展を続けていたからです。
そんな時代に書かれた本書で、著者は「日本とアメリカの文化的な相違に目を向けず、ただ盲目的に日本に学ぶことは間違っている」と警鐘を鳴らしています。何せ、経営者たちは日本の朝礼や体操までを日本式経営として、大まじめに取り入れようとしていたのです。
そんなアメリカの経営者の振る舞いは、今では隔世の感があります。しかしそれだけで済ませることができるでしょうか。その姿はまるで中国に大挙して押しかける日本の経営者の姿そのものと言えます。
人は、とかく物事を単純化しがちです。日本の産業界が停滞しているのに中国が発展を遂げているとあれば、さあ中国に学べということになります。しかし本当に大切なことは単純化でなく、本質を見極めることです。
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当たり前ですが、バブル期の日本にもダメな会社がたくさんあったように、発展する中国にもダメな会社はあるはずです。反対に、厳しい日本の環境下でも、儲けている会社はしっかり儲けています。
もちろん、国を問わず優れている会社に学ぶことは大切ですし、中国に優れた会社がたくさんあるのも事実です。ただ好況時にはどんな会社も伸びますから、本当に優れた会社を見極めることは難しくなります。
本書の著者が、アメリカの企業に対して警鐘を鳴らしたように、われわれはむしろ、この不況下にあっても業績を伸ばしている、しかも文化的な背景が同じ日本の会社にこそ、今、多くを学ぶべきなのかも知れません。
●3行の経営論のすごさ
本質を捉えるという意味では、本書の掲げる3行の経営論は、おそろしくシンプルですが、経営の本質を突いています。柳井会長をして、本書を最高の教科書だと言わしめるだけのことはあります。
確かに経営とは、まずあるべき姿を描くことです。次にそれを実現するために知恵を絞り、ヒト、モノ、カネを総動員するのです。
だから、経営者の資質が何かといえば、何にもましてこの「あるべき姿を描くこと」だと言えます。わが社をどうしたいのかを語れるのは、どんなに大きな会社でも、まず経営者であるべきです。
そして、それを人に伝える資質も不可欠です。自分のイメージを、自分や一部の取巻きだけでなく、誰もが明確に描けるように語るからこそ、人はついてくるのです。
もちろん、これらの資質は育むことが可能ですから、誰しもあきらめてはいけません。育むために必要なことは、どんな小さな会社でもいいから、経営者という立場で身を置いてみることです。
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それにしても、私は仕事がら経営者の知り合いが多いのですが、彼らの中には創造性が豊かで、人間的な迫力に溢れた人がたくさんいます。厳しいビジネスの現場で日夜鍛えられているからでしょう。
反対に(個人的体験からだけですが)同業者であるコンサルタントには、あまり尊敬できる人がいません。コンサルタントにはIQは高いがEQが低いというか、人間的な迫力がない人が多いのです。
もちろんコンサルタントの中にも素晴らしい人はいますが、そういう人は、かつて経営者だった人や、コンサルティング会社を経営している人など、むしろ経営の経験を持った人です。
やはり、経営を勉強だけするのと、自らの責任において行うのでは、天と地ほども違うのでしょう。人間力を磨くには、経営という仕事を当事者としてやることが不可欠なのです。そう考えると経営者という仕事は、究極の人間道場と言えるかも知れません。
冒頭に掲げた3行の経営論も、たった3行ですが、経営の現場で、修羅場をくぐってきた経営者の言葉だからこそ迫力があり、今も国を超え、多くの経営者に衝撃を与え続けるのだと思います。
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