約2時間の取材だったのですが、実に中身の濃いお話で、取材の中では「質の向上」や「介護職の地位向上」というテーマ以外の興味深いお話も出ました。そこで番外編として、「他業界からの転職者の受け入れ」と「心のケアと介護の知識、技術のバランス」についてのお話を紹介します。
介護の仕事を
あまりスペシャルな仕事にしないほうがいい
ガイド記事「ハローワークに聞く、他業界からの転職」でも紹介したように、メーカーの派遣労働者が雇い止めなどで職を失い、介護業界に職を求めるケースが増えてきています。堀田さんへの取材の中では、多様な人材を受け入れていく受容性が介護の職場には必要だという話や、誰でも変わっていく可能性を持っているという話の流れから、他業界の人材受け入れの話になりました。「ほかの業界の人材が介護業界に仕事を求めてくることについて、介護事業者のかたと話をすると、『3年たって残っているのは1割以下だろう』といった否定的なご意見が少なくありません。でも、どうせ長続きしないだろうという先入観を持たず、受け入れた人たちが定着して能力を発揮できるような取り組みを模索してほしいのです。
私は、介護の仕事をあまりスペシャルな仕事、つまり、人や社会の役に立ちたいとか、お年寄りが好きだといった特別な思い入れを持った人でなければできない仕事にしないほうがいいと思っています。もちろんそういう意識を持って入ってくる人もとても重要ですが、いろいろな人たちに入ってきてほしいし、実はほかの業界から来た人ならではの、介護の職場で活かせるノウハウが、あるかもしれないからです。
実際、現場の管理者層が、医療・介護・福祉以外の業界経験者であるほうが、雇用管理が充実しているという分析も出されています」
堀田さんのこの指摘はとても重要です。雇用管理や業務の効率化などは、介護・福祉業界はどちらかといえば苦手としている分野だと思います。「効率化」という言葉を使っただけで、拒絶反応を示す人も少なくありません。もちろん、他業界の効率化をそのまま介護の仕事に当てはめればいいというわけではありません。しかし、そこでの意見交換、すりあわせによって見つける着地点にこそ、改善の秘策があるのではないでしょうか。もちろん、その際には、多少のぶつかり合いはありそうですが…。
堀田さんの話はさらに続きます。
他業界からの転職者が疑問に思ったこと、驚いたことにこそ注目する必要がある |
介護の職場に驚いている
他業界からの転職者の声を聞く
「たぶん、ほかの業界から介護業界に来た人は、いろんな意味で驚くことも多いと思います。その疑問や驚きに対して、どれだけ耳を傾けられるか。外から来た人を、どうせすぐに辞めてしまうのだから、という眼で見ず、新しい風、ノウハウの宝庫と捉える。いろいろなキャリアの人、いろいろな意識の人、すべての人が一緒によくしていける職場であることが大事だと思うのです。そして、ほかの業界から来た人に対して、どのようなフォローをし、職場でどういうコミュニケーションを心がけたら定着したのかという事例を蓄積してほしい。様々な事情から積極的に介護の仕事を選んだわけではないけれど、そのおもしろさに目覚めてくれる人もきっと少なくない。そういう人の、意識が変わっていったプロセスを積み上げるのです。
介護の職場から離れた人たちのうち、入職1年未満の人が4割近くにのぼります。こうした事例の積み上げは、介護業界全体の定着率を高めるうえでのヒントにもなると思います。本当は、今はチャンスなんですよ。こんなに介護に注目が集まっている時期だからこそ、外からやってくる新しい知恵も大切にしてほしいのです」
これもとても意義深い指摘です。
ガイド記事「他業界からの転職者を受け入れるために」にも書きましたが、排他的にならずに、どれだけ新しく入った職員が持ち込んできた新しい知恵を学んでいけるかは、今後の介護業界全体のレベルアップのためには非常に大切なことだと思います。奉仕の心やボランティア精神だけではなく、ビジネス一辺倒でもなく。バランスよく融合させたところに、介護業界の未来があってほしいと思っています。
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