読み終えてみて、この本は著者の河合香織さんの「性を訪ねる旅」だと思いました。著者が障害者の性に関心を持ち、2年半に及ぶ取材の過程で、とまどい、悩みながら、最終的に「性の問題は障害の有無に関わらない一人一人の問題」という終着点に落ち着いていくまでの「性を訪ねる旅」。障害者の性に対して傍観者ではなく興味本位でもなく、ただ、むき出しの性を前に戸惑う1人の人間の視点から書かれています。そこが、この本のすばらしいところ。ここでは、私の感想もはさみながら内容を紹介してみたいと思います。
さまざまな障害者と支援者たち
この本の中には、さまざまな障害者と、支援者、ボランティアが出てきます。気管切開をして24時間酸素ボンベが手放せない体でありながら、支援者に連れられソープランドに行き、命綱の酸素ボンベをはずしてセックスする72歳の男性。命を落とすリスクもあります。それでも、「そのときはそのとき、性は生きる根本、辞めるわけにはいかない」と、意に介しません。セックスボランティアについて考えるホームページを立ち上げた脳性マヒの男性。インターネットで性のボランティアを募集し、障害者トイレでマスターベーションの介助をしてもらったことも、ボランティアに挿入まで受け入れてもらったこともあります。この男性は、そのあと健常者の女性と知り合い、結婚して幸せに暮らしています。
両親公認で自宅に出張ホストを呼び、一緒におふろに入ったあと、ベッドまで運んでもらい、ホストと結ばれる先天性股関節脱臼の女性。諦めなければならないことが多い障害者。人から薦められ、思い切らなければ一生男性を知らないまま死んでいくかもしれないと思い、ホストを呼ぶようになったと言います。
「性の商品化はいけないという人がいても、それで少しでも笑えるようになる人がいるならいいのではないか」とこの女性は語ります。呼ばれているホストが所属するホストクラブでは、障害者は半額。クラブのオーナーは「出張ホストなんてほめられた商売じゃないけれど、少しでも社会の役に立てばという思いで障害者割引をはじめた」のだそうです。
冒頭の気管切開の男性をソープランドまで連れていっているボランティアの男性は、手足が不自由な障害者男性のマスターベーションの介助をすることもありました。さらにいえば、障害者女性のセックスの相手をしたこともあります。ボランティアとして。
セックスボランティアとしてこの本で紹介されているのは、この男性ばかりではありません。女性、しかも既婚の女性も紹介されています。もともと障害者にパソコンを教えるNPOの主宰者でした。知人の障害者から性に関する悩みの相談に乗り、パソコンの掲示板に障害者の性についての書き込みをしたりするうちに、相談に乗っているだけでいいのだろうかと疑問に感じるように。そして、2回だけ性のボランティアをし、1度は性器の挿入も引き受けたと言います。