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『セックスボランティア』、障害者の性と生(3ページ目)

話題を呼んだ書籍『セックスボランティア』。刺激的なタイトルとは裏腹にとてもまじめで考えさせられるこの書籍が伝える障害者の性・性介護についてご紹介します。

執筆者:宮下 公美子

障害を持って生きることは「ご苦労様」?


しかし戸惑いながらも、著者は自分なりに気持ちの決着がつく先を見つけていきます。著者にとって大きかったのは、おそらく健常者女性と脳性マヒの男性(性のボランティアをインターネットで募集した男性)の夫婦のごく普通の生活に触れたこと。

「障害者が町を歩いているだけで、『ご苦労様』なんて言うおばさんがいる。心の中で『お前もな』って思う」という脳性マヒの夫。
「(脳性マヒの)夫と一緒にいたとき、電車の中で『大変ですね』って言われたことがある。『大変じゃないわ』って言い返しちゃった」という健常者の妻。

気負って言っているわけではありません。
哀れに思われているようで腹が立って言っているわけでもありません。
ごく普通に愛し合って結婚した夫婦なのに、どうして特別視するのだろう、違うよ、私たち普通だよ、あなたたちは見当違いだよ、という2人の思い。この思いに触れたあたりで、著者の戸惑いはほどけていったような気がします。

この本で紹介されているセックスボランティアは、障害者にとっても性は生きていく上で必要不可欠だから、性に恵まれない人に性の介助を提供する、という考え方です。非常に慈善的ですが、この考え方には、どこかに障害者をかわいそうな存在、助けてあげなければならない存在だと、必要以上に哀れむにおいがします。私は、この本で紹介されていた性の介助そのものだけでなく、そのあたりの考え方にも違和感を感じました。

健常者も障害者も、必要以上に障害を意識しないで暮らせるようになる=ノーマライゼーションが進むのが一番いい。そうなれば障害者の性の問題も、健常者対象の性風俗でカバーでき、ことさらにセックスボランティアなどと構えて考える必要もなくなることでしょう。

この本の中に、脳性マヒの障害者で、障害者のための風俗情報をホームページで提供している男性が出てきます。この男性は「僕はセックスボランティア制度なんていらないと思う。セックスの環境は人を動かして自分で勝ち取ればいい」と言っています。自身は障害者専門のソープランドには行かないそうです。

この男性のように強い、行動的な障害者ばかりではないでしょう。動きたくても動けない人もたくさんいるでしょう。日本のノーマライゼーションがまったく進んでいない状況の中で、人を動かして自分で勝ち取れ、といっても無理がある、とも言えます。しかし、私はこの考え方は大切だと思うのです。

私がこの本を読みながら、介護職の医療行為のことを考えていました。そこに困っている人がいるのだから、爪を切る、血圧を測る、薬も飲ませる、インスリンの注射も打つ。

同じではありませんか?

たしかに困っている人を困っているままにはしておけません。しかし困っている人が困らない環境、制度を作り出さない限り、困っている人を不正に助ける状況から抜け出せないまま。私は、改めてそう思いました。
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