亭主元気で留守がいい家庭の皆様へ |
「2007年問題」とも呼ばれるように、今年から団塊世代の定年退職が本格化します。該当するご家庭では“再び”この言葉が復活しないよう、円満な家庭生活を送っていただくことを願うばかりです(笑)。
さて、「亭主元気で留守がいい」が意図する「旦那は汗水たらして働き、給料さえ入れてくれればそれでいい。あまり家にいてくれるな!」といった夫婦心理。当時から20年超が過ぎた現在、状況はだいぶ変わったような気がします。というのも、就労形態が多様化し、また、女性の社会進出も進んだことで、夫は企業戦士として会社三昧(ざんまい)、妻は家庭で内助の功といった構図が、必ずしも当てはまらなくなったからです。
むしろ、家庭にこもらず仕事をしたがる女性が増え続けている印象で、仕事と家庭(育児)のバランスをどう取るかが新たな関心事になっているように見受けられます。読者の皆さんのご家庭はいかがでしょうか? そこで今回は、仕事(ワーク)と家庭(ライフ)のバランスについて考える「ワーク・ライフ・バランス」という概念を掘り下げてみたいと思います。
ワーク・ライフ・バランスとは、仕事と私生活の調和のこと
まずは、ワーク・ライフ・バランスの意味から説明を始めましょう。「ワーク・ライフ・バランス」とは「仕事と私生活の調和あるいは両立」のことで、しばしば仕事と家庭(育児)の“二者択一”を迫られる女性(妻・母親)に対し、どちらも諦めず、両者をバランスよく取り入れることを応援する含意の言葉です。
また、男性(夫・父親)に対しても当てはまり、仕事中心の生活を余儀なくされてしまう現実に対し、少しは家庭を振り返り、私生活にも目を向けようといった意味合いを込めた言葉でもあります。せっかく手に入れた夢のマイホームを、寝に帰るための場所にしてしまうのは、あまりにも“もったいない”と言わざるを得ません。お子さんの「寝顔」しか見られない生活は、決して幸せとはいえないのです。
もともと、この言葉は1980年代以降の欧米で誕生しました。近年の日本が直面している女性の社会進出や少子高齢化、さらに、雇用形態の多様化といった社会現象が、当時の欧米ではすでに起こっていました。そのため、こうした諸問題を解決すべく、「ワーク・ライフ・バランス」が政策的に取り入れられたのでした。その具体的な施策内容は国や地域によってバラツキがありますが、出産・育児のための長期休暇制度の充実やフレックスタイム制の導入、さらに、託児施設の設置や各種給付(手当て)の支給などが、おおむね共通した内容となっています。
企業からのアプローチだけでは、完全な調和・両立は不十分
もちろん、「柔軟な働き方」が可能になるという点において、従業員のメリットは十分にあるでしょう。しかし、“企業からのアプローチ”ばかりが一人歩きしてしまい、単なる「枠組み」の提供で終わっている感は否めません。
通常、ワーク・ライフ・バランスは「仕事と“家庭”の両立」と邦訳されるのがほとんどです。しかし、本コラムでは「家庭」ではなく「私生活」としました。というのも、ワーク・ライフ・バランスの「ライフ」とは、本来、「仕事から離れた時間のすべて」を意味するからです。学習や美容・健康増進といった自分自身への投資から、ボランティアといった地域社会への貢献など、「ライフ」は幅広い領域をカバーするのです。決して、家庭サービスや育児に限定されないのです。
にもかかわらず、育児休暇だけが与えられ、「あとは自分たちで好き勝手にやってくれ!」と言わんばかりの対応では、仕事と私生活の“完全”な調和は難しいと言わざるを得ません。真剣に取り組んでいる企業もあるとは思いますが、ソフト面でのサポートを欠かさないようにしないといけないのです。
こうして見てみると、「亭主元気で留守がいい」といった夫婦関係の方が、実は、企業と従業員の間柄において、良好な関係が築けていたのかもしれません。(良い悪いは別にして)当時の奥さんは育児に専念できたからです。
しかし、時代は変わり、価値観やライフスタイルも変貌しました。仕事(収入)なくして豊かな生活はできず、また、ゆとりなくして仕事には集中できません。バランスこそが重要なのです。これを契機に皆さんも、「ワーク・ライフ・バランス」の議論を深めてみてはいかがでしょうか。