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サミット参加首脳1~カナダ・ハーパー首相(3ページ目)

サミットまであと1ヶ月あまり。福田首相やブッシュ大統領などはいいとして、意外としられていない他国の首脳たちを、その国の政治情勢も交えてお話しして行きます。第1回はカナダのハーパー首相、若き宰相です。

執筆者:辻 雅之

1ページ目 【カナダを構成する民族は何?】
2ページ目 【カナダの政治・経済の現状】
3ページ目 【ハーパー首相の人物像と政策】

ハーパー政権誕生まで

ハーパー首相
ハーパー首相。政策通の若き宰相。ややまじめすぎる?
先ほどのページにも書いた通り、保守党(かつては進歩保守党)は1993年総選挙で壊滅的な打撃を受け、その後自由党政権が続きます。

保守党が壊滅した後、カナダ政治の右派を担ったのが改革党、後のカナダ同盟でした。経済学者出身のハーパー氏は、ここに身を置き、「小さな政府」理論を掲げていくことになります。

保守党とカナダ同盟が対等な立場で合同したとき(2003年)、彼は新生保守党の初代党首に選ばれ、野党第一党の党首として脚光を浴びるようになります。

そんななか、ケベック州への補助金が自由党支持企業に横流しされていたという問題が浮上します。ハーパー党首率いる保守党はこれを追及、2004年総選挙で自由党政権を少数与党政権に追い込みます。

さらに2005年末に内閣不信任案を提出して可決させ、2006年総選挙で自由党を破り第一党へ。2006年、46歳で首相に就任しました。

2004年総選挙で政権の座をとることができなかったのは、政治家として知名度が薄く(本人も議会での活動より政策研究を中心にしていたため)地味な印象があったのと、自由党が仕掛けたネガティヴ・キャンペーンに激怒、それが国民に政治家としての経験不足をむしろ問われることになってしまったからといわれています。

しかし2006年総選挙では自分の個性を全面に押し出し親近感を抱かせることに成功。また、フランス語の勉強も行いケベック州での支持率も向上させることができ、選挙への勝利をもたらしたといえます。

しかし、まじめで憤りやすい、政治家としてはやや不器用な性格が、少数与党政権をどこまで我慢強く引っ張っていけるか、というところが注目されています。

ハーパー首相の政策

ハーパー政権の政策
ハーパー政権の政策。やや保守的だが、社会保障改革には意欲的。
ハーパー首相は、5つの重点政策をかかげています。

1つは政治腐敗防止で、2006年に説明責任法を制定しています。2つめが減税政策で、カナダの消費税(付加価値税)にあたる財貨サービス税を引き下げることとし、当初7%だった税率が今年(2008年)からは5%にされています。

3つめが犯罪対策で、警察力強化に力を入れています。4つめが育児支援で、6歳以下の未就学児童1人あたり年間1,200ドル(約12万円)の支援金を与えることなどを政策として掲げています。

もっとも関心が高いのが5つめの医療保険制度改革で、管轄が州にあることから、なかなか難しい問題でもありますが、その改善を首相は約束しています。

そしてこれ以外にも、カナダ固有の問題としての州格差問題があります。政権は日本の地方交付税のようなものを大幅増額し、この格差を埋めようとしています。

また、環境問題については事実上「ギブアッブ宣言」を出し、京都議定書には残るものの、目標達成は困難であると言明。代わりに「2020年までに20%削減」という目標を掲げています。

これは、先にも述べた通りハーパー首相が工業先進地帯であるアルバータ州を支持基盤にしているからだ、として野党から批判を受けています。しかし、「2050年までに温暖化ガス半減」ではEUや日本と一致しています。

また最近では北極海の「主権」主張に積極的。地球温暖化で北極海の氷が溶けると、各国が北極海に進出する、ということに警戒をしているようです。

外交では、アメリカとの関係をこれまでより重視。首相はアフガニスタンを2度も訪問し、多国籍軍への派兵も増強するなど、アフガニスタン情勢への積極的な関与を行っています。国防能力の強化も進める方針です。

自由党政権時代に制定されたいわゆる「同性婚法」については否定的。ハーパー政権は「婚姻定義の再議論」を行おうとしましたが、多数を占める野党によって拒否されてしまいました。

いずれにせよ、ハーパー首相は政治家というより学者肌の人で、まじめな政策通、ただし融通がきかないところもある、という感じの人物。「環境サミット」といわれる洞爺湖サミットにおいて、環境政策でやや消極的なところのある彼をどこまで説得できるか、が大きな注目点となるでしょう。

今年は日本とカナダの国交樹立80周年

1928年、日本とカナダは外交関係樹立に合意し、公使がお互いに派遣されました。

正式に自主外交権を持ったカナダが比較的早くに日本との関係を重視したのは、日本の台頭著しかったこと、日本からの移民が増えていたので早急な対策が必要だったということがあげられます。

最近では日本とのFTA(自由貿易協定)締結も検討されていて、その動向が注目されるところです。

今年は特にカナダを中心に、イベントやプロジェクトが開催されることになっています。


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▼こちらもご参照下さい。
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