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「計算ドリル」や「早口言葉」は老化防止にならない? 安藤なつと学ぶ、もっと身近な最強の脳トレ

「計算ドリルや早口言葉を頑張れば認知症を防げる」というのは本当でしょうか? 脳を活性化させる最強の習慣は、一般的な脳トレよりもずっと身近なところにありました。 ※画像:PIXTA

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無理なく続けられる「真の脳トレ」とは? ※画像:PIXTA
無理なく続けられる「真の脳トレ」とは? ※画像:PIXTA

「最近、親の物忘れが気になる……これって認知症?」と不安を感じていませんか。

知っトク認知症 家族と本人が自分らしく暮らし続ける超入門』は、介護現場歴20年の介護福祉士でお笑い芸人の安藤なつさん(メイプル超合金)が医師の繁田雅弘さんと共に、介護の初歩をやさしく解説する一冊です。

今回は本書から一部抜粋し、よかれと思って勧めがちな「計算ドリル」の意外な落とし穴や、親の脳を生き生きとさせる日常の工夫について紹介します。

目次

脳トレ」は老化防止に効果がある?

安藤さん:脳を積極的に使うことで発症や進行を遅らせたいと、多くの方が考えると思います。そこで思い浮かぶのが、書店に並ぶ早口言葉や計算ドリルなどの脳トレです。こうしたトレーニングは、脳の老化防止にどの程度効果があるのでしょうか?

繁田さん:そういったトレーニング自体は否定しませんが、早口言葉や暗算のような「いかにも頭を使いそうな課題」をいくら頑張っても、鍛えられるのは脳のごく一部分だけです。練習を積めば、90歳でも早口言葉や暗算は確実に上達します。しかし、それが認知症の発症や進行を左右するかといえば、残念ながら関係ありません。

安藤さん:「早口言葉の達人にはなれても、脳そのものが若返るわけではない」ということですか?

繁田さん:そうです。さらに、アルツハイマー型のアミロイドβや、レビー小体型の異常たんぱく質の蓄積は、早口言葉では止められません。「発症や進行を少しでも遅らせたい」のであれば、脳の一部分を集中して鍛えるものより、低下した領域を補えるように、より多くの領域を使うような活動のほうが効果的なのです。

安藤さん:一般的な脳トレは、脳の特定の部分だけを鍛えるものが多いんですね。

早口言葉や暗算よりも立派な脳トレとは?

繁田さん:その通りです。また、誤解されがちですが、ゆっくりとした散歩も立派な脳トレになります。「散歩は足を使うだけで頭は使っていない」と思われがちですが、手を振り、足を前に出すだけで、脳のてっぺんにある運動野が活発に働きます。さらに、散歩中にいろいろなものを見たり聞いたりするでしょう。つまり、早口言葉や暗算よりも、散歩は脳の多くの場所を動かしているのです。

安藤さん:「机に向かっているほうが頭を使っていて、散歩は頭を使っていない」というわけではないんですね。では、脳のいろいろな領域を同時に使う活動というと、具体的にはどんなことがいいのでしょう?

繁田さん:料理はその代表例です。「野菜を同じ大きさに切る」「鍋の煮え具合を音や香りで察知する」「家族の好みを思い出す」……。ひとつの料理を作るだけでも、注意・記憶・段取り・判断など、脳の多くの機能を同時に駆使します。暗算などよりはるかに複雑で、いわば脳全体がフル稼働している状態なのです。

安藤さん:確かに、料理って頭も神経もフル回転させている感じがします。

繁田さん:脳トレと聞くと特別なプリントや専用の課題と考えがちですが、実際は生活の中で「少し考える」「少し工夫する」という行為そのものが、何より優れた脳トレになります。「冷蔵庫の余り物で何が作れるか考える」ことや、「予算や必要なものを思い出しながら買い物をする」のはより優れたトレーニングです。

会話は脳をフル稼働させる

安藤さん:最近は高齢者向けサロンなどで、みんなで集まって脳トレのプリントをする場面も見ますが、ああいった取り組みはどうなんでしょう。

繁田さん:プリントの課題より、実は「そこに集まること」に真の価値があります。「元気?」「〇〇さんが風邪らしいから様子を見に行こうか」といった会話中、脳はフル回転しています。相手の表情を読み、記憶を辿り、考え、言葉を選ぶ。こうした高度なコミュニケーションには、思考を司る前頭葉をはじめ、脳の多くの領域が動員されるからです。

安藤さん:人とのやりとりって、想像以上に頭を使うのですね。ちなみに、わざわざどこかに出かけるのが難しい場合、近所の方と交わす挨拶程度のやりとりでも効果は期待できるのでしょうか?

繁田さん:もちろんです。たとえば、孫と散歩中にご近所の人に会い、「最近どうですか」「あの件はどうなりました?」と声をかける場面を想像してみてください。実はその一瞬で、脳はものすごいスピードで情報処理をしています。「あ、〇〇さんだ」と記憶を引き出し、「今日は調子が良さそうだな」と表情を読み、かける言葉を選ぶ。そんな何気ない立ち話でも、脳は大いに働いています。電話や手紙(メール)だってすごく意味があるんですよ。

安藤さん:日常の会話でもそうなんですね。だとしたら、本人があまり気乗りしない場合でも、交流の場に行くことや仲間との活動は続けさせたほうがいいのでしょうか?家族としては「みんなやっているんだから」「頭のためにいいらしいよ」と、つい強く勧めてしまいそうで。

繁田さん:そこは注意が必要です。本人が嫌がることを無理強いすると、逆効果になりかねません。嫌々行っているときは、その課題を「とりあえずこなす」ための最低限の機能しか働きませんし、できない現実に何度も直面し続けると、「自分はダメだ」と自信を失ってしまいます。こうしたストレスや落胆は、認知症の進行を早めたり、うつや怒りといった精神状態の悪化を招くリスクがあるのです。

安藤さん:「体のため」「脳のため」と思っていても、本人にとってはつらい宿題になってしまったら本末転倒ですね。

繁田さん:そうです。一方で、同じプリントや体操でも、本人が「これは面白い」「みんなと一緒ならやりたい」と感じているなら、全く意味が変わります。楽しいと感じているときは、感情の動きも含めて脳の広い領域が活動しますから、良い刺激になりやすいんですね。

安藤さん:「何をやるか」と同じくらい、「どんな気持ちでやるか」も大事なんですね。

繁田さん:ええ。ですから、「流行っているから」「医師に勧められたから」といった単純な理由で押しつけるのではなく、本人が楽しみ、自発的に取り組める活動を一緒に探すことが大切です。ドリルが好きならドリル、歌うのが好きなら歌で構いません。本人の心が動く活動こそが良質な脳トレになるのです。

スマホ頼みが招く脳のサボり

安藤さん:一方で、今はスマホやAIのおかげで、頭を使わなくても生活できてしまう時代ですよね。

繁田さん:本当にそうです。たとえば昔なら、外出時には「地図で経路を確認する」「時刻表で乗り換えを調べる」といった試行錯誤がありましたよね。ドライブでも、助手席の人と「こっちの道が早い」「あそこは混むから迂回しよう」などと相談したものです。あれは実は高度な脳トレでした。しかし今は、アプリが数秒で答えを出し、カーナビに従えば何も考えずに目的地へ到着します。

安藤さん:懐かしいです。昔は親しい友人の電話番号を何人も暗記していましたが、今は全てスマホのアドレス帳任せです。わざわざ覚えておく必要がなくなってしまいましたね。

繁田さん:覚える必要がないと、脳は「覚えなくていいんだな」と判断して、その機能を使わなくなってしまいます。もちろん、時代の流れや便利な道具を否定するつもりはありません。でも、便利になった分だけ自分で考える機会が減ると、使われない脳の領域も増えてしまうんです。

安藤さん:えっ……、そうなんですか?

繁田さん:たとえば、動画を見るのと自分で作るのでは、同じ画面を見ていても脳の働き方は全く違います。見るときは情報を受け取るだけになりがちですが、作る側は「どうしたら面白くなるか」「次はどうするか」と、常にクリエイティブに考える能動的な作業になります。脳を鍛えるという意味で、どちらが良いトレーニングになるかと言えば、それはもう圧倒的に後者なんです。

安藤さん:便利になるのはうれしいことですが、その分、脳がサボってしまっているかもしれないんですね。お話を聞いていると、今まで思っていた脳トレのイメージや意味そのものを、根本から見直したくなってきます。

繁田さん:そうなんです。特別なプリントやゲームだけが脳トレではありません。たとえば、旅行の計画を立てるほうが良い脳トレです。「どこへ行こう」「何を優先したいか」――友人や家族と相談し、候補を出し合い、取捨選択していく。これは、段取り力も判断力も必要な、非常に高度な作業です。

安藤さん:言われてみれば、旅行って計画する段階が一番、頭を使います(笑)。

繁田さん:たしかにそうですね。旅先でも、「ご当地のおいしい店はどこだろう」「ここから旅館へはどう行くのが一番近いか」など、状況に合わせて考え、判断することは真の脳トレになります。他にも、「今日は孫が来るから、あの子が大好きなオムライスにしよう」とメニューを考えたり、朝の天気予報を見て「夕方は冷えるから、この上着を持っていこう」と服装をコーディネートしたりするのもいいですね。

安藤さん:ふだんと違うことだから、想像したり、準備することがいっぱいありますね。しかも楽しみながらできそうです。

繁田さん:そんなふうに、「自分で考える、選ぶ、工夫する」というプロセスを、生活の中に少しだけ増やしてみてください。こうした行動の積み重ねが、何よりの脳の体操になります。

安藤さん:プリント問題を黙々と解くよりも、いつもの生活の中で頭を使う場面を増やしていくということが本当の脳トレなんですね。

繁田さん:そうですね。せっかくいろいろな情報やツールがある時代ですから、「全部お任せ」ではなく、自分なりに試行錯誤してみる。それこそが、その人にとって意味のある行動ですし、本当に良い脳トレになります。

今回のチェックポイントは3つ

・早口言葉や計算は脳のごく一部しか使っていない
・料理や旅行計画、人との会話こそ複雑な脳トレ
・スマホやAIに任せきりにせず、考える場面を増やす

安藤 なつ(あんどう・なつ)プロフィール
1981年1月31日生まれ 東京都出身。2012年に相方カズレーザーと「メイプル超合金」を結成。ツッコミ担当。2015年M-1グランプリ決勝進出後、バラエティを中心に女優としても活躍中。介護職に携わっていた年数はボランティアも含めると約20年。ホームヘルパー2級(現:介護職員初任者研修課程修了)の資格を持つ。2023年に介護福祉士の国家資格を取得。

繁田 雅弘(しげた・まさひろ)プロフィール
栄樹庵診療所院長。メモリーケアクリニック湘南名誉顧問。1983年 東京慈恵会医科大学卒業。1992年 スウェーデン・カロリンスカ研究所 研究員を経て、2003年東京都立保健科学大学精神医学教授、2005年首都大学東京 健康福祉学部学部長、2011年首都大学東京 副学長、2017年東京慈恵会医科大学精神医学講座教授、東京都立大学 名誉教授。2024年東京慈恵会医科大学名誉教授。生家を改装し、『安心して認知症になれるまち』を育むことを目指す活動拠点の「SHIGETAハウスプロジェクト」代表。著書多数。

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