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「職人と経理だけ」で回る不思議。ドイツ人が驚いた、日本の中小企業が自立できない残酷な理由

なぜ日本の中小企業は、いつまでも「下請け」から脱却できないのか。ドイツの隠れた優良企業と比較して見えてきた、日本の「系列」という組織構造の限界と、未知の市場を開拓できない致命的な弱点を解説。※サムネイル画像:PIXTA

All About 編集部

職人と経理だけしかいない日本の中小企業の課題 ※サムネイル画像:PIXTA
職人と経理だけしかいない日本の中小企業の課題 ※画像:PIXTA

地元を愛し、自ら販路を開拓するドイツ企業。一方、親会社に追従して大都市へ吸い寄せられ、自ら売る力を失った日本企業。この「独立心」の差が、地方経済を根底から破壊しているのではないか。

人件費削減の道具として使われ、マーケティングも営業も持たない「ただの工場」と化した日本の中小企業に、明日はあるのか。岩本晃一氏の著書『高く売れるものだけ作るドイツ人、いいものを安く売ってしまう日本人』から一部抜粋し、日本企業の致命的な欠陥と、世界に置いていかれた残酷な構造を浮き彫りにします。

目次

ドイツの企業が「移転しない」理由

ドイツの隠れたチャンピオンは、ほとんどが創業当初からの地域に立地し続け、地域雇用を守っている。そのため、全国に広く分布している。反対に、日本では企業が育つと大都市に移転する傾向がある。

インタビューしたドイツ人の多くからは、企業が場所を移転すると競争力が失われることを経営者はよく知っている、だから移転しない、と回答が返ってくる。

この事実を説明する仮説として次の3つがある。

第1は、ドイツ人は自分が生まれ育った地域を愛しており、自分の家族が何世代にもわたって住み続けているので故郷への思い入れが強い。都会の大学を卒業しても、故郷に帰って働きたいと願い、古くからの友人を失いたくないと思っている。

そのため地元の企業に家族何世代にもわたって勤め続け、企業と家族が運命共同体になっている。その地域に住む住民らがみんなで力を合わせて会社のために頑張る構図になっている。

ドイツは「家族所有」企業が9割超

第2は、ドイツの中小企業では家族所有が多く、約95%がそうだが、所有と経営の分離が行われており、若くて優秀な経営者が企業を切り盛りしている。所有者は、地域に住んでいて、都会に移転することにほとんど同意しない。

第3は、企業が成長する過程で、周囲に立地する企業や研究機関との間で協力連携のネットワークができ上がり、一種の企業グループが形成される。そのため、ネットワークとして大企業並みの競争力を有することが可能になる。もし移転すれば、そのネットワークが切れ、せっかくの競争力が失われてしまう。

これは、日本の多くの中小企業が、系列の傘下にあり、他の企業や研究機関と協力連携のネットワークをもたず、1社のみで親会社からの注文をさばくことに勤しんでいる「たこつぼ」的な姿とはかなり異なっている。

ドイツでいろいろな人と議論をしていると、ほとんどの人は、隠れたチャンピオンは第1と第2がバックボーンにありながら、その成長要因として第3の条件が大きく働いているだろうという結論に行きつく。

日本の中小企業は「職人と経理だけ」

日本の中小企業の組織構造を理解したドイツ人たちが最も強調するのは、日本の中小企業は「系列」のくびきから抜け出して、ドイツ企業のように自主独立化しないと、いつまで経っても競争力は強くならない、という点である。

すなわち、企業活動は、購入先のニーズを把握するマーケティングや製品の企画から始まり、開発、設計、生産、営業、販売、物流など一連の工程から成る。

「系列」の傘下にあったときは、親企業から設計図を渡され、指示どおりに生産し、すべてを買い取ってくれた。そのため、「生産」だけ行っていればよく、現場でものづくりをする職人だけで会社が成り立つ。

日本の中小企業には、製品の企画開発という前工程がなく、また後工程の営業販売工程がない。つまり「工場=企業」というところが大部分であった。そのため、極端な言い方をすれば、現場の職人と経理の2人だけでも会社が成り立つ。

だが、ドイツの中小企業は、自社でマーケティングから販売までを一貫して行っている。もちろん大企業の入札に参加し、入札に勝てば、一定期間そこからの買い取りが発生する。ある時期を断面で見れば、部品を大企業に納入しているという光景は、日本と何も変わることはない。

しかし、ドイツの中小企業は数年後、契約が切れた後、別の企業の入札に参加し、そこに納入しているかもしれない。すなわち中小企業も、取引先を選択する裁量権をもっている。ドイツの中小企業のこうした力が、見ず知らずの外国市場を開拓していく力となっている。

自ら市場を開拓するドイツ企業

だが、日本の中小企業には、未知の市場を独自に開拓する力はない。現場の職人と経理だけの会社には外国進出は無理である。

ドイツの隠れたチャンピオンは全工程を実施し、入札競争に勝ち、海外市場を開拓し、販売しなければ生き残っていけないため、会社規模はどんなに小さくても100人程度である。

先述したように、ドイツの隠れたチャンピオンは中小企業くらいの規模のものから1000人以上の大企業まであり、規模の幅が非常に広い。

一方で、日本の職人と経理で成り立っている10人以下、あるいは数十人規模の「零細企業」は、多くのドイツ人に聞いたが、ドイツでは見たことがないと言う。

日本の系列という世界的にも特殊な組織構造が数人、数十人という中小零細企業の存在を可能ならしめていたのである。

岩本 晃一(いわもと・こういち)プロフィール
独立行政法人 経済産業研究所 リサーチアソシエイト。通商産業省(現・経済産業省)入省。在上海日本国総領事館領事、産業技術総合研究所つくばセンター次長、内閣官房参事官、経済産業研究所上席研究員を経て、2020年4月より現職。

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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