クールな指揮官
「ユ~ショ~(優勝)シニ、イキマショ~!」
日本シリーズ進出を決めたとき、バレンタイン監督はこう叫んで、ファンを大いに湧かせた。しかしその頭脳は、対戦相手・阪神の「統計データ」で埋め尽くされていた―――。
バレンタイン監督は、ロッテ監督就任と同時にアメリカから「統計アナリスト」ポール・プボ氏を連れてきた。プボ氏は相手チームのデータを徹底的に収集・分析することで、相手選手1人ひとりのクセ・行動パターンを明らかにしている。
膨大かつ緻密な情報分析に基づく「データ野球」が、バレンタイン監督の戦略・戦術決定の根幹を担う。
1年戦い抜く選手起用法
ロッテといえば打順を125パターンも変えるなど、レギュラー選手が極めて少ない独自の選手起用方法が話題になった。先日大活躍した選手を翌日起用しなかったり、実績がなくても調子がよいと判断するとすぐに試合に出した。投手も一試合100球も投げれば、すぐに中継ぎ・抑え投手に交代させ、均等な投球ローテーションをキープした。
こうした起用法の成功が「マジック」と呼ばれたが、長いペナントレースを選手の消耗を防ぎながら勝ち抜く、最も合理的な選手起用方法だったのだ。それが戦いの最終章「日本シリーズ」の大勝につながった。
125パターンの打順も、相手チーム・投手、選手の状態、その日の気温などすべて異なる条件で戦うことを考えれば、その都度、最適な打順を選択する方が合理的だといえる。
リップサービスも計算づく
選手をほめまくる「リップサービス」も、実はすべて計算づくでやっているようだ。毎日新聞の記事によると、ファンの前では明るく社交的なバレンタイン監督も、試合後の記者会見では「そっけない」「仏頂面」で淡々と試合を振り返るのだという。ところが選手の話題になると「途端に冗舌」となり、選手のプレーをほめちぎる。発言には相当気を遣っているようだ。
感情と合理、笑顔と仏頂面、ホットな魂とクールな頭脳。この相反する「2面性」を兼ね備えたしたたかな指導術が、弱小チームを短期間で蘇らせた「バレンタイン流」の真髄なのである。
彼はいかにこうした監督術を身に付けたのか。そのキャリアに迫る。