「地域の問題」では済まされない
大家さん、入居者どちらも影響は大! |
たとえば、昨年、私はある会合で新潟県の不動産業者の皆さんと、この更新料裁判についてお話しする機会を得ました。そこで、現地の皆さんがおっしゃっていたことは……。「えっ、東京では2年更新で1ヶ月分!そんなに更新料を取っているの?」という意外な反応でした。
そうなのです……。今回の大阪高裁判決について、東京の関係者の間からは、「京都の更新料は高額すぎる。それならば裁判に負けても仕方がない」といった声も聞こえるのですが、その「東京相場」も、そもそも更に安い地方や、更新料が存在しない地方から見れば、高いものと感じられてしまうのです。金額の高い、低いは、おかれた立場それぞれによる、相対的な感覚によって判断される、ということになるようです。
そしてさらに注目すべきこと。それは、今回の判決が、更新料の額の高・低を論じているのではなく、「更新料制度そのものを明確に否定している」という事実です。
「大阪高裁「更新料無効判決」の論拠とは?
「貰った更新料をさかのぼって借主に返せ!」大家さんにとってはショッキングなこの判決ですが、その論拠として、大阪高裁は、これまで更新料収受の理由として貸主側が主張してきたすべての根拠を否定しました。具体的には、- 更新料は借地借家法に基づく「貸主側の更新拒絶権放棄」への対価である
- 更新料は、賃料の一部である
- 更新料は、賃借権強化(賃借人にとって、契約期間中に解約を申入れされる心配が無くなる)への対価である
1.については、「そもそも更新拒絶権なるものを貸主は持っていない」。
2.については、「中途解約時、清算返金されないのだから賃料の一部とはいえない」。
3.については、「そもそも貸主側が解約を申入れできる正当事由がきわめて限られている以上(元々強い権利を借主側が持つ以上)、賃借権を『強化する』との理由には正当性がない」
といった論理です。つまり、「高い安いではない。何の対価であるのか理由を説明できない更新料の収受行為そのものが不当である」と、大阪高裁は判断したのでした。今後、最高裁判所が同じ理由をもって「更新料無効」を判断した場合、その判例は全国の裁判所を拘束します。そうなると、大家さんは、裁判に訴えられた場合、まず勝つことは出来ないでしょう。膨大な額の更新料を「消費者契約法が施行された平成13年4月までさかのぼって返還」しなければならなくなる可能性があるのです。
大家さんの対処と心構え
さて、今後がきわめて注目される「更新料裁判」。きちんと約定され、正当に支払われた更新料を「さかのぼって返還せよ」というあまりに厳しい判決については、今後も続くことがないよう強く期待したいところです。しかし、一方で、このような状況にあっても、新規の賃貸借契約、あるいは期間満了による契約更新は日々、大家さんの日常に迫ってきます。「入居者は大切なお客様」と考え、トラブルとならないよう、契約内容については心をこめて丁寧に説明し、理解をいただくことが大切です。
私は、今後、新規の賃貸借契約および更新契約を交わすにあたって、多くの大家さんが、以下の4つ方法からの選択を迫られざるをえなくなってくるものと考えています。
- 定期借家契約 に切り替える
- 実質賃料表示制とする(更新料を前払い賃料と規定し、月額賃料との合計額を実質賃料として明示し、借主の納得を得る)
- 重要事項説明書に準ずる特別な書面をもって更新料授受への同意を得る
- 選択制(更新料名目での授受に借主が同意できなければ更新料相当額を賃料化した上での契約を交渉する)
なお、上記の4つの対処方法ですが、たとえば管理業界などが足並みを揃えていずれかひとつのやり方に統一するといったようなことには、私は反対です。
なぜなら、そのようにして定まった「スタンダード」が否定されたとき、すべてが総崩れとなり、更新料制度自体の消滅を招きかねないからなのです。大家さん・管理会社、皆がそれぞれに工夫し、様々な考え方をもって、個別にこの問題に対応していくのが望ましいと、私は考えています。
更新料・説明文例(参考) |
次は消費者契約法を適用することの疑問をご紹介します。