立ち退き交渉における立退料とは……意味合いを解説

立ち退き交渉の手順や立ち退き料とは

立ち退き交渉の手順や立ち退き料とは


入居者に退去してもらうために支払う立ち退き料とはどのような意味合いを持つのでしょうか。シンプルに、入居者に移転をお願いする「協力料」と考えれば分かりやすいでしょう。協力料には「入居者に対する移転費用の補償」という側面があります。移転費用は引越し代、敷金・礼金・保証金など移転先への支払い費用と、移転によって賃料が増加した場合の差額などをいいます。

また、「入居者が失う利益として考えられる居住権、営業権などの補償」という側面もあります。これは移転によって広さや交通の便などの面で不自由を被った場合の補償、商売の場合は従前と同一営業のための設備補償や休業補償、減収補償などが挙げられます。

さらにもうひとつ、「消滅する借家権の補償」という考え方があります。公的な収用や相続税評価の際に借家権という概念があるためです。
 

立ち退き交渉は代行、それとも自分で?誰がするのがベストなのか

■なるべくオーナー自身では交渉しない
立ち退き交渉を成功させるために大切なのは、交渉を適任者に任せることです。中には自分1人で立ち退き交渉ができる、いつも冷静で交渉事の上手なオーナーさんもいらっしゃいますが、一般的なオーナーさんの場合は、ご自身で交渉をされることはおすすめしません。

オーナーさんは最終決定権者ですから、交渉の矢面に立った場合、その場で口にした言葉が全て決定事項になってしまいます。その点、間に交渉人が入ると、ワンクッションが置かれ、じっくりと考えてから答えを出す時間的な余裕をつくることができます。また、入居者と同じ敷地内で生活している場合、顔を合わせることで互いにストレスを感じることになります。

立ち退き交渉は多くの場合、オーナーさんが自分でやるより、交渉に慣れた人に間に入ってもらったほうがうまくいくものです。

■では、誰に代行を依頼するのか
そこで誰に頼むかという問題になります。入居者との立ち退き交渉の代行を誰がするのかに関しては、次のような選択肢が考えられます。
 
  1. 不動産仲介業者に依頼
  2. 建設会社・ハウスメーカーの営業担当に依頼
  3. 自称・立ち退き業者に依頼
  4. コンサルタント会社に依頼
  5. 弁護士に依頼
  6. 裁判外紛争解決手続(ADR調停人に依頼)

1. 不動産仲介業者は、本来は入居者を募集することが彼らの主な仕事なので、立ち退き交渉には慣れていません。
2. 建設会社・ハウスメーカーの営業担当者に相談することもできますが、熟練の交渉上手な担当者でないかぎりは建築に注力してもらうのが賢明でしょう。

気を付けたいのが3. 自称・立ち退き業者です。そういった業者はいわゆるモグリが多く、失敗の責任は取ってくれないのが通常。費用も高く、一度こういった業者に荒らされてしまうと次に引き受けてくれるところを探すのが大変です。そもそも権利調整の業務を弁護士以外の人が行って報酬をもらう行為は弁護士法に違反してしまいます。

そこで、おすすめなのが4. コンサルタント会社です。コンサルティングの一環として引き受けてもらえることがあるので、まずは相談してみましょう。実績やノウハウをもとに入居者との信頼関係構築から始めてくれます。コンサルティング費用も比較的リーズナブルな場合が多く、弁護士と連携しているので安心です。

5. 弁護士を介入させると、入居者が硬化して、かえって交渉が難航してしまう場合があります。弁護士は事態が悪化してしまった場合にお願いする最終手段と考えた方が安全でしょう。

6. は、最近注目の訴訟手続によらない紛争解決方法で、手続きとしては、「当事者間による交渉」と、「裁判」との中間に位置します。ADRは相手が合意しなければ行うことはできませんが、認定資格の土地活用プランナーなど専門家が交渉まで行ってくれ、費用も明朗なため関心が高まっています。
 

立ち退き交渉の手順

入居者の立ち退きは、スムーズにいかないケースがかなり多いのが現状です。過去の解決例や裁判での判例を見ても、個々の事情や解決までのプロセスは千差万別。決定的な「立ち退きの成功法則」といったものはありません。

交渉期間は6ヶ月以内を目安に考えましょう。ただし、入居者個々の事情や状況によって交渉が長引くこともありますので、辛抱強く交渉をすることと、相手を思いやる気持ちが必要です。

1. 私信(手紙)を書く
立ち退きをお願いするに至った経緯、これまでの入居に感謝する気持ち、立ち退いていただくお詫びの言葉、それなりの補償を考えていることなど、気持ちを込めて書きましょう。誤解を招かないような内容にすることが大切です。

2. 立ち退き料を交渉する
交渉をする際は感情的にならないように、気を付けましょう。

・予算は多めにみておく
立ち退き料を算定するための定型的な計算式はありません。同じ建物・同じ間取りであっても入居者次第で、金額は変わります。これまでの経緯や、現在の賃料・契約の内容・家庭環境・協力的か非協力的などによって、金額が大きく変わるのが現状です。一言で、相場は○○円とはいかないのです。まれに無料で出て行ってくれる人もいます。

しかし、だいたいの目安は家賃の6~10ヶ月程度が一般的。まずは数ヶ月分から交渉を開始し、上限を12ヶ月分と考えて交渉しましょう。また、予算は多めに見ておくこと。少なく見てしまって後から慌てないよう気を付けましょう。

・交渉に係わる業務費用も用意する
立ち退き料には「入居者に支払う費用」以外に、「交渉に係わる業務費用」があります。大変な労力のかかる仕事ですので、業務費用を値踏みすると時間が多くかかってしまったり、失敗することもあります。

業務費用は、業務の難易度によって変わります。以前にも立ち退きを行った、以前にトラブルがあった、賃料が周辺相場より著しく安いなどの場合は高くなることが多いようです。委託戸数・入居者の年齢・家族構成・居住期間・契約内容・築年数などによっても予算は変わります。費用については、個別事情を事前に知らせれば、目安を知ることができます。

3. 引越し先を探す
退去を了解してもらっても、入居者の引越し先が決まらない場合には、入居者と一緒に転居先を探す場合もあります。入居者の事情や選り好みもありますので、忍耐が必要になりますので、信頼のおける不動産会社にお願いすることをおすすめします。

<参考>交渉が難航した場合
スムーズに退去してくれる人ばかりではありません。交渉が難航する場合は、裁判も視野に入れて対応することになります。しかし弁護士を介入させるのは最終手段とし、できるだけ話し合いで解決するのが望ましいでしょう。

借地借家法は立ち退きの問題を解決する上で大切な法律知識ですから、趣旨や概要をある程度は理解されることをおすすめします。

立ち退き交渉の途中でオーナーさんはよく、「今までよくしてあげたのに」と、裏切られた気持ちになることがあります。そういう思いがあると、どうしても顔に出るものです。そして入居者の反発を招くことになります。立ち退き交渉では、オーナーさんの建替えに協力をお願いして入居者のみなさんに引越しをしていただくという発想で臨み、感情的にならないことが大切です。

・基本スタンスは「協力のお願い」
なぜ「協力のお願い」になるかというと、現在の借地借家法が「入居期間中に解約をしたり、更新をしないとの取り決めをするには、借家権者(入居者)の合意が必要で、入居者の更新請求を拒めない」という、入居者側にきわめて有利な規定となっているからです。

貸主が契約の更新を拒否するためには、建物がかなり老朽化して入居者が安全に住むことができなくなったとか、入居者側に信頼関係を壊すような義務違反があったなどの「正当事由」が必要となります。義務違反には、賃料の不払い(著しい滞納)、無断転貸、無断改造、使用目的の大幅な違反などがありますが、入居者側にそういった落ち度がない限り、オーナーさんが単に「古くなってきたから建替えたい」というだけでは、入居者が「住み続けたい」と主張したときに対抗できないのが現実です。

そこで正当事由を補うものとして、立ち退き料の提示が必要になってくるわけです。立ち退き料は、引越しに要する費用の補填の他、移転により消失する居住権・借家権の補償といった性格を持つものです。

よく電話で「立ち退き料の相場を教えてほしい」という相談があるのですが、実際のところ立ち退き料には相場はありません。それぞれの事情によって金額は全く異なってくるし、裁判所も案件ごとに判断しています。

・立ち退きを求められたときの入居者の反応は
入居者の反応は、十人十色です。

「はい、わかりました。ついてはせめて引越し代ぐらいはいただけませんか」という人もいれば、中には自分で引越し先を決めてくれて、退去の際に「お世話になりました」と菓子折を持ってきてくれる人もいます。

反対に「旦那がここで死んだから、私も死ぬまでここにいる」と、テコでも動かないご高齢者もいれば「引越しには協力するけれども、同じ賃料で同じ広さの物件を見つけてきてほしい」という人もいます。立ち退き交渉では金額の問題だけではなく、そうした個別の事情に合わせて対策していく必要があるのです。実際に交渉してみなければ、どう決着できるかわかりません。その意味では「合意した金額が相場」とも言えます。

立ち退き交渉に失敗し、何がなんでも出ていこうとしない、たった1人の入居者を残したまま、何年も建替えることができないというケースもかなりあります。入居者は権利を失わないためにその間、家賃を払い続けています。といっても1戸分の家賃では、固定資産税を初めとする不動産の維持管理費用にはとても足りません。オーナーさんにとっては深刻な事態で、たとえ建築計画があったとしても頓挫してしまうことになります。

交渉に失敗すれば、大切な資産が不良資産に変わってしまいかねない。それが立ち退き交渉の怖いところなのです。
 

オーナーさんに送る、立ち退き交渉10ヶ条

1. 良き相談者(不動産業者やコンサルタント)を抱えておく
交渉を依頼するなら、よく話を聞いてくれる人、礼儀作法がしっかりしている人、誠実で忍耐力がある人、きちんと事前調査をして費用についてよく説明してくれる人に。

2. 感情的にならない(常に冷静に対処する)
忍耐なくして成功はなし。「今までよくしてやったのに……」は通用しない。移転に協力いただくというスタンスのほうがうまくいく。[軒下貸して母屋とられた」との発言が10年もの泥沼に発展した事例もある。

3. 立ち退き交渉の目的を明確に
目的を「事業化」「売却処分」「税金対策」「子供との同居」「優良入居者の再入居」など明確にしておくことで方針が立てやすくなり、交渉人や弁護士も動きやすい。

4. 立ち退き料の予算は多めに見ておく
事業化の場合や売却など、事業収支計画、資金計画では、立ち退き料の予算を多めに計上して、あとで慌てないようにする。

5. 交渉相手をよく知ること
性格・年齢・経歴・職業・出身地・経済状態・健康状態・建物の使用状況・家族関係・普段いる場所・会える場所など。また契約者が意思決定者であるとはかぎらないので注意。

6. 交渉記録は必ず残すこと
日記やメモでもいいので、日付と時間をはっきり記録。後日、裁判になった場合に証拠になる場合があるほか、交渉代理人に経緯説明をする際にも役立つ。

7. 時間を惜しまないこと
事前調査、ヒヤリング期間は2週間~1ヶ月、入居者との折衝期間は3~10ヶ月、調停の場合は6ヶ月~1年半、裁判の場合は1~2年が目安。
交渉人とは、スケジュール感覚についてよく合意形成しておき、イライラしてせっつくようなことは控える。

8. 権利調整上の問題は次世代には残さない
問題を先送りしても、必ず次世代が苦労することになる。相続対策は、納税対策だけでなく管理・経営の引き継ぎも意識する。

9. 裁判(紛争)を恐れるな
借地借家法をよく勉強し、依頼主の意向をよく聞いてくれてスピーディーに動く弁護士を、必要な場合は選択する。ただし、いきなり弁護士を介入させると相手を硬化させるので注意。

10. 精神的に落ち込まないよう心がけること
交渉が難航して気持ちが落ち込んだ時は、立ち退き交渉の苦しみを抱えているのは自分一人じゃない、解決の先には明るい未来がある、と考えましょう。

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