土地活用のノウハウ/土地活用の基本とテクニック

上昇を続ける建築費、今後の動向に要注意(2)

賃貸住宅経営にも大きな影響を及ぼしている建築費の上昇について、その理由を改めて検証。今後の賃貸住宅の建築や大規模修繕のタイミングを見極め、オーナーさんの安定収入へと繋げていただきたいと思います。

谷崎 憲一

執筆者:谷崎 憲一

土地活用ガイド

賃貸経営に影響する建築費の上昇

ここ数年の建築費上昇は、賃貸住宅経営にも大きな影響を及ぼしています。その理由としてどんなことがあげられるでしょうか。
賃貸住宅の建築や大規模修繕においても、施工のタイミングは大変重要であり、経済動向を慎重に見極める必要があります。
 

東京都における建築費の動向

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建築工事費デフレデータ
 

国土交通省の「建設工事費デフレーター」を参考に、建築費の推移とその背景を見てみましょう。
2003年~2006年にの住宅・不動産ミニバブルにより建築工事費が上昇、特に2008年のリーマン・ショック直前には大きく上昇しています。その後、少し落ち着きをみせましたが、現在は2013年以降最高水準にあります。

この建築費上昇の要因の一つとして、職人不足による人件費の高騰があげられます。
職人不足の原因には、20代から30代の若年層が建設業に就職することをためらっていること、2008年のリーマン・ショックで多くの建設業者が倒産に追い込まれ、その時に離れた職人が戻ってこないことがあります。
建築業,就業者数

建設業就業者の推移
 

そんな中、建設業界が大きく動いたのは、2011年の東日本大震災でした。本格的な復興工事のため、関東圏の職人たちは東北に向かい、首都圏では関西圏から職人を集めなければならなくなるような事態となりました。さらに、2012年には安倍政権発足による公共事業の拡大、2013年には2020年東京五輪開催が決定したことにより建設需要が高まり、深刻な職人不足を引き起こしました。

その結果、職人を確保するために賃金は高騰、建築費を大きく上昇させる要因となったのです。
 
また、震災復旧により「木材・生コン・セメント」等の建築材料の需要が増しましたが、円安の影響により、これらの輸入価格が高騰したことも大きな要因となっています。
2011年3月には一時76円前半という記録的な円高となっていた為替相場ですが、アベノミクスによる金融緩和政策により、一時は1ドル120円台にまで為替が変動しました。当然ながら、円安が進めば輸入価格が高騰することになりますが、資源の少ない我が国では、海外からの輸入に頼る部分が多く、円安も建築費を押し上げる大きな要因となっています。
 

2020年以降は建築費が下がるのか?

2020年の東京五輪が終われば建築費高騰の波も収まり、不動産価格も下がるのではという期待を漠然と持っている人も多いのではないでしょうか。

確かに、2020年の五輪開催に向けて競技会場の建設や道路改修、電線地中化工事などのインフラ整備が急ピッチで進められており、建設ラッシュの終了とともに、建築費についても一旦落ち着きを取り戻すように見えます。

しかし、東京五輪は、リーマン・ショックや度重なる震災、アベノミクスの影響による人手不足などの、数ある建築費上昇要因の中の一つに過ぎません。五輪が終了したからといって、それだけで下落に転換することは期待できないでしょう。

建築費高騰の主な要因が人件費である以上、建設業界の人材が充実しなければ根本的な解決にはなりません。しかし、高い技術を持つ職人を短期間で増やすことは現実的に困難です。建設業界不遇の時代にいったん途絶えてしまった職人の技術継承や、新たな人材育成には時間がかかります。労働者不足に起因する人件費高騰は当分解消されないでしょう。

なお、中長期的に見れば、現状の職人不足の問題は、建設業者の業績下押し要因になるばかりでなく、我が国のインフラ維持が困難になるという側面もあります。業界だけの問題では済まされず、建設業界の人材確保、育成や、新たな技術の活用による生産性向上などについては、国をあげての対応が求められるところです。

実際に、建築や大規模修繕を五輪以降に先延ばししている方も多くいらっしゃるようですが、それはあまり期待できないかもしれません。
 

建築費が下がるまで待つべきか?

同じ建物を建てるのであれば、当然ながら建築費が安い方が事業収支は良くなります。建築費が落ち着くまで待ち、下がってから実施するのが得策のようにも見えますが、それもケースバイケースと言えます。

例えば、老朽化し家賃も入居率も低下、修繕費用も増加の一途をたどるような物件があったとします。収支が年々悪化しているような状態であれば、たとえ建築費が高騰している時期であっても、建て替えを進め高い家賃を得られる状態にすることで、収支が改善されることになります。新しい建物であれば、老朽化と闘うストレスからも解放されるでしょう。

単純に建築費のみに着目してしまうと、建て替えを進めないことにより発生する機会損失を見逃しがちです。健全な賃貸経営を目指すのであれば、一部の要因にとらわれることなく全体を俯瞰し、建て替えた場合と建て替えなかった場合の収支を正確に比較検討することが重要です。

建築費が下がるまで何年かかるかは予測が難しいところですが、現在の職人不足の状況が急激に改善することは考えにくく、また、地方の大型プロジェクトが目白押しでもありますので、建築費が高止まりする可能性は大いにあると考えられます。

賃貸住宅の建築、建替え、大規模修繕などについては多額の投資が必要になり、また、個別事情も大きく影響します。東京五輪に踊らされることなく、経済動向を慎重に見極め、オーナーさんの安定収入へと繋げていただきたいと思います。
 
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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