土地活用のノウハウ/土地活用の相続・法律問題

その土地契約、大丈夫?契約・決済・融資条項の注意

不動産を買ったり売ったりする経験は、そう幾度もありません。その意味から、土地を売るときに一般の人が気付きにくいリスクが数多くあります。土地を売ろうと思っても売れないリスク、土地を売ってから思わぬ損失を被ってしまうリスクなどがあります。具体的には、契約の方式・代金決済の方法・融資が付かない場合の解約条項などがあります。

谷崎 憲一

執筆者:谷崎 憲一

土地活用ガイド

土地を売るときは要注意

土地を売るときのリスクは?

土地を売るときのリスクは?

不動産会社を経営していたり不動産投資家であったりしない限り、不動産を買ったり売ったりする経験は、人生の中でそう幾度もあることではありません。一般の人では気付きにくいリスクが、不動産の売買には数多くあります。今回は、土地を売るときに注意すべきリスクについてご説明したいと思います。

「土地を売ろうと思っても売れないリスク」。たとえば、いったん成立した契約がトラブルによって白紙解除されてしまうことがあります。

「土地を売って思わぬ損を被ってしまうリスク」。たとえば、引渡し後、瑕疵が発見されるなどのトラブルによって長期に問題を抱え込むことがあります。

まず、土地を売ろうと思っても売れないリスクの事例からお話ししましょう。


思わぬ土地価格急落で焦燥の日々

もし、バブルがはじけたら‥‥

もし、バブルがはじけたら‥‥

3年ほど前、「プチバブル」と呼ばれた土地価格の上昇期、相続税の多額の納税義務が生じたKさん。土地の物納や延納という手段もありましたが、調べた結果、「土地を売却して現金で相続税を納めた方が有利」と判りました。そこで、先祖代々受け継いできた土地の一部を売り、その代金をもって納税にあてる決断をしました。

すると間もなく、あるマンションデベロッパーから「5億円で買いたい」との申し出があり、売買契約に至りました。契約の内容は、契約時に手付金3,000万円、「5ヵ月後」の引渡し決済時に残金4億7,000万円と約定されました。

ところが、手付け契約の直後から土地相場が急速に下落。Kさんの周辺でも、「苦しくなったデベロッパーが土地購入の代金を決済できなくなった」との話がちらほら出始めるようになりました。そのため、Kさんも、「解約を申し出されるのではないか……」、不安の日々が始まりました。

こうした場合、デベロッパー側から「やはりKさんの土地を5億円では買えません」と、解約の申し出がされると、そのパターンは二つに分かれます。

1.手付解除できる期間内の場合……
 (期間の長さは取り決め自由。契約日から1ヶ月くらいが多い)。デベロッパー
 は、Kさんに差し入れた手付金3000万円を放棄することで、契約解除が成立しま
 す(なお、逆に売主=Kさん側から解除する場合は、売主は手付金の倍を買主
 に渡します。つまり「手付金の返却」+「同額のお金の支払い」)。

2.手付解除期間が過ぎたあと……
 契約内容に則って処理がされますが、一般的には約定された売買価格の20%
 程度がペナルティとして設定されます。つまり今回の場合、デベロッパーは5億
 円×20%=1億円をKさんに支払えば、この契約から撤退できることになります。

Kさんは深く心配しました。土地相場の下落は予想以上に大幅、かつ急速です。

「手付放棄、あるいは1億円のペナルティを支払ってでも、デバロッパーは解約を望むのではないか?」実際、決済が不調に終わる事例がその頃いくつも発生していました。もしもそんなことになれば、一番大事な相続税の納税を含め、Kさんの今後の資金計画は大幅に狂ってしまうのです。

最悪の場合、「そのペナルティさえ約束どおり払ってもらえないようなことになってしまうのではないか……」。

しかし、幸いでした。Kさんの契約相手であるデベロッパーは、資金的な体力もある誠実な会社でした。解約を申し出ることなく、相場の大幅な下落の中、Kさんの土地を約束どおりの5億円で決済してくれました。


危ない橋を渡っていたかもしれないKさん

石橋を叩いて計算しましょう

石橋を叩いて計算しましょう

ひと安心のKさん曰く、「実は、このデベロッパーのほかに、私の土地をもっと高く買いたいと言ってきた会社があったのです。ただしその会社の条件は、手付金はゼロで、残金は決済日に一括払いするというものでした。私は不安を感じ、断ったのです」、とのこと。当時の状況を思えば、賢明な判断だったかもしれません。

不動産売買における代金決済の方法には、大きく分けて2つの種類があります。
1.一括決済
2.手付金をやり取りし、一定期間後に残金を決済

イレギュラーケースとして、2.の変則的なかたちで、手付金はゼロのまま一定期間後にまとめて全額を決済する、いわゆる「ゼロ-100」方式があります。この「ゼロ-100」方式を条件としてくる買主は、契約からの安易な逃げ道をはじめから準備しておこうと考えている可能性が少なくありません。

今回の場合も、手付金放棄というリスクを抱えていないこの買主は、相場の下落が始まるや、さっさとKさんとの契約から逃げ出してしまっていたかもしれません。さらに悪質な場合、「約定のペナルティを払ってくれ」との要求に対しても、のらりくらり……の態度をとった可能性もあるでしょう。

そうなると、Kさんの手元には日々どんどん価格の下がっていく土地が残され、Kさんは相続税の納税義務を果たすために焦りの毎日を過ごしながら、あらためて買主を探すことになります。

その結果、別の買主に土地を安く買い叩かれていたかもしれません。また、契約がはっきりと合意解除されないうちに、条件の良い別の会社に売ろうとすれば、二重契約のトラブルになるリスクもあります。

土地取引は、安全第一が基本です。「高く買いますよ」の言葉に目がくらむことなく、より誠実に契約を履行してくれそうな買主を選んだKさんの判断は、おそらく正解でした。

ところで上記の代金決済の方法のうち、実際は2.の「手付+残金」の場合が多く、1.の現金決済はあまり見られません。なぜでしょうか?

通常、不動産取引には大きな資金が必要となり、それを自己資金で賄える場合が少ないことがその理由です。

噛み砕いて言えば、
・買主は大抵、金融機関の融資を受けて、資金調達します。
・金融機関の融資には、一定の審査期間が必要となるのが一般的です。その
 場合は、まず調印された売買契約書を確認してからの本審査になります。
・金融機関は、物件の「担保能力」だけでなく、買主が個人の場合は「買主の属
 性」や「支払い能力」、事業用物件であれば「収益性」等を勘案し、融資を行うか
 どうかを審査します。

金融機関に融資を実行してもらうためには、「売買契約の成立」と、「審査に要する期間」が、通常必要なものとなるわけです。

「審査 → 融資の決定 → 手続き →融資実行」

以上のプロセスにかかるある程度の期間内、買主が契約遂行の意思を明確にしておく手段として、手付金がやりとりされるということになります。


買主に融資がつかないと売主にも打撃が……

不動産の売買契約においては、買主による資金調達の成功・不成功が、どのようなプロセスで決まるのか、しっかりと把握しておくことが大切です。

買主が金融機関の融資を利用する場合、万一審査不合格となってしまうと、大抵、買主は契約を履行できません。手付金を没収されたり、ペナルティの支払義務が発生したりします。

しかし、審査不合格は、通常の場合、買主が故意にひき起こしたことではありません。それによって手付金没収やペナルティの支払いを迫られるリスクがある場合、契約の成立が難しくなります。そこで、一般的には、「ローン特約」という条項が契約の中に設けられることが多く見受けられます。

ローン特約は、「○○日までに融資が成立しない場合、契約は白紙解約される」、
「その際、ペナルティの支払義務はなし」と、約定されます。審査の結果、買主が金融機関から融資をしてもらえない、となった際にこの特約が発動されるのです。

発動された場合、売主の手元にある手付金も、無条件・無利息で買主に返還しなければなりません。

つまりローン特約の発動によって、その契約は初めから無かったことにされるわけですが、これが現実となった場合、やはり売主にとってはあてにしていたお金が入らなくなるわけですので、お金の使用用途が決まっている場合はその計画が狂う原因となります。

予防策としては、「金融機関に融資を断られてしまいそうな不安な相手を選ばない」ことが大切、ということになります。

融資決定を待つための期間は、通常は契約日(多くはその日に手付金のやり取りがされます)から2週間~1ヶ月程度に設定される場合が多いようです。

以上を心得た上で、更に気をつけたいのは、買主から「金融機関の回答が長引いている」などの理由で、期間内に延長を申し出されたときです。安易にこれを認めると、引き伸ばしをされた挙句に審査不合格・白紙解約となり、貴重な時間を無駄にさせられることがあるのです。私の知る例では、期限を8回にもわたって引き伸ばされ、結局、白紙解約。その間に1年の月日が流れていた……というケースもあります。

決済日の延長申し出は、そもそも契約違反ですが、双方合意すれば成立する話です。安易に応じることなく、「なぜ金融機関の回答が長引いているのか」、その理由をしっかりと確認し、応じるのか応じないのか、応じるとすれば条件を付けるべきなのか、堅実に判断したいものです。

個人が土地を売る場合、特に理由無く「そろそろ売却しようか」というケースはあまり多くありません。先程のKさんのような相続税の納税や、事業資金の調達、新たな不動産の購入など、資金の使途が決まっている場合が多いのです。

よって、以上に述べたような思わぬアクシデントによって資金計画が狂うことは、売主にとって大変大きなリスクです。判断・手続き、それぞれの局面ひとつひとつをないがしろにせず慎重にあたっていきたいものです。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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