不動産売買の法律・制度/不動産売買の手続き

売買契約の成立時期

不動産の売買契約において、その成立時期とはいったいいつでしょうか。取引上のトラブルが起きたときに問題となる「成立時期」がどう判断されるのか、その法的な解釈を知っておきましょう。(2017年改訂版、初出:2002年7月)

執筆者:平野 雅之

【ガイドの不動産売買基礎講座 No.13】

不動産の売買取引にはさまざまな段取りが伴います。その一連の流れのなかで、「売買契約の成立時期」とはいったいいつを指すのでしょうか?

何事もなく売買取引が終わった場合にはあまり気にする必要もないことですが、いざトラブルになるとその成立時期の判断がたいへん重要な問題になりかねません。

以前の記事で、不動産業者を介さない個人間売買の市場ができる兆しがあること、それに対して法整備が必要であることなどを説明しました。まずは、この場合における売買契約の成立時期を考えてみましょう。

個人間の売買取引には、不動産の場合でも民法が適用されます。この民法の規定に従えば、売買契約は双方(売主と買主)の「合意」があったときに成立します。そして、この「合意」は文書による必要はなく、口頭の意思表示だけで十分です。

この口頭の意思表示時点で細かな条件を提示していればともかく、後になって「住宅ローンを使うから、ローンが通らなかったら契約はなかったことにしてくれ」と言っても、売主がダメだと言えば、法的にもダメということになってしまうでしょう。

その後は損害賠償をめぐって法廷で争うことになります。物件が考えていた状態と違ったという場合でも同じことであり、意思表示(契約成立)した以上は、それを実際に購入する法的義務が生じるのです。

それに対して、不動産業者が介在した場合はどうなるでしょうか? 不動産業者が売主のときでも媒介のときでも、いずれの場合も民法ではなく宅地建物取引業法が優先されます。

この宅地建物取引業法によれば、売買契約の前に宅地建物取引士が重要事項説明を行ない、それが終わってから売主と買主がそれぞれ売買契約書に署名押印をして、その時点で初めて売買契約が成立したものとみなされます。

つまり、宅地建物取引士から重要事項の説明を受け、その内容に納得できなければ契約を取りやめても、その段階では売買契約は成立していませんから、違約にもならないのです。

また、契約成立のときに通常は買主から売主へ手付金が支払われますが、これは「契約が成立したこと」を前提として授受されますから、売買契約成立時期の判定基準とはなりません。

それでは、契約の成立は署名のときか押印のときか? そこまで細かく考えても実務上は意味がありません。契約締結の流れのなかで、お互いに2通の売買契約書への署名と押印を並行して進めているのが実際のところでしょう。

なお、売買契約のなかには「停止条件付契約」という形態があります。これは土地の権利が借地権のときに売買条件として地主の承諾を要する場合など、第三者の承諾などが売買成立の条件となるものです。

停止条件付契約のときは売買契約書に署名押印しても、その時点では契約成立とはみなされず、後日その承諾を受けたときに、署名押印時点に遡って契約が有効となります。

したがって、停止条件の承諾が得られなかったときは、初めからその契約が存在しなかったものとして扱われるため、契約を解除することにはなりません。


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