不動産売買の法律・制度/不動産売買の手続き

売買契約の意義をよく理解しておこう

住宅を購入するときの一連の段取りのなかで最も重要な売買契約ですが、その行為の意味を正しく理解しておかないと取り返しのつかないことにもなりかねません。売買契約の意義を確認しておきましょう。(2017年改訂版、初出:2009年3月)

執筆者:平野 雅之


売買契約を締結する……その行為の重要性については、これまでもいくつかの記事で取り上げてきました。

家族

売買契約に失敗をして、家族が凍りつくことになりませんように!

また、最近では「消費者が賢くなった」「住宅の買主がよく勉強している」といった声が不動産業者の間からもときどき聞かれるようになってきています。

しかし、まだ売買契約に対する認識が不十分な消費者も少なくないようです。軽い気持ちで契約を結んで失敗したが何とかならないのか、といった無理な相談も寄せられます。

そこで今回は「売買契約締結という行為の意義」について確認しておくことにしましょう。


仮契約というものはない

よくありがちな誤解のひとつに「仮契約」というものがあります。これは、売買契約を締結して手付金を支払ったときが「仮契約」で、残代金を支払って物件の引き渡しを受けるときが「本契約」といった考え方です。

しかし、不動産の売買契約では特殊なケースを除いて「仮契約」というものはありません。初めの契約自体が「本契約」そのものなのです。

「一括決済」という取引方法をご存知でしょうか?

これは不動産業者や一般法人、あるいは投資家などが買主となる売買契約でときどきみられるものですが、売買契約締結と売買代金全額の支払い、物件の引き渡し、所有権の移転登記手続きまでをすべて同時に行なってしまう方法で、「一発登記」などともいわれます。

現代のように不動産が高額でなければ、これが本来の取引方法だともいえるでしょう。

ところが、一般的に住宅ローン申し込みから実行までの期間を要したり、新築物件は建築工事の途中だったり、中古物件は売主が明け渡すまでの日数が必要だったりする場合が大半です。

そのためにこの「一括決済」の段取りのなかで、残代金の支払いと物件の引き渡し、それと登記申請手続きの3つだけを後回しにしたものが、広く行なわれている「契約~決済」の取引方法なのだと考えることができます。


山場は、初めにやってくる

そのように考えれば、初めの売買契約締結行為がいかに重要なのかがお分かりいただけるのではないでしょうか。売買契約書に署名をしてハンコを押せば、もう後戻りはできないのです

自分からその契約をやめようとすれば、支払った手付金を放棄するしかありませんし、そのタイミングによっては売買金額の10%あるいは20%といった違約金を支払わなければならないことにもなりかねません。

一連の売買契約の流れのなかで、最も大きな山場が初めにいきなりやってくるわけですが、この時点では購入物件に出合ってからの日も浅く、物件に対する理解や認識が不十分なことも多いでしょう。

おまけに不動産業者の営業担当者とのやり取りもまだ少なく、意思の疎通がうまくできないこともあるはずです。

そのようななかで迎える “山場” ですから、決して安易に考えてはいけません。


認印でも売買契約書の効力は同じ

売買契約書への押印は一般的に「買主は認印でもかまわない」ということになっているため、その効力を軽く考えてしまう買主もいるようですが、決してそのようなことはないのです。

普通に考えれば「売主を騙してお金を支払う」などといった買主側の詐欺は成立しないため、売買契約締結のときに「買主の印鑑証明書」を添付するほどのことは求められていません。

印鑑証明書がなければ、それが実印か認印かは本人しか明確に区別することができないため、結果的に「認印でもよい」となっているのに過ぎず、実印なら正式な契約書、認印なら仮の契約書などということではないのです。

実印であろうと認印であろうと、売買契約書の重みは同じです。

また、売買契約書に売主と買主が署名押印をした時点から、お互いの義務や権利、法的な拘束力も生まれます。

売買契約書の中身(約款:やっかん)に自分の意思とは反することが書かれていたとしても、署名押印をすればそれに「合意したもの」として扱われますから、不明な点を残したままで売買契約を締結することも避けなければなりません。


「住宅ローンが通るまでは仮契約」でもない!

融資利用の特約が盛り込まれた売買契約では、契約締結後に金融機関に対して住宅ローン借入れの申し込みを行ない、それが承認されなければ契約を白紙解除することができるため、このような売買契約を「仮契約だ」と考えてしまう買主もいるようですが、それも間違いです。

融資利用の特約は、あくまでも「正式な契約のなかでの特約」なのであって、売買契約そのものは署名押印をした時点で有効に成立しているのです。

融資利用の特約があったとしても、その契約を自分の意思によってやめようとすれば、支払った手付金の放棄や違約金の支払いを求められることは当然です。

なお、住宅ローンの事前打診を口実に「仮契約だから」と、十分な説明のないままで売買契約書への署名押印を迫る不動産業者もあるようですが、このような “仮契約もどき” が好ましくないことはいうまでもありません。

物件や契約内容について十分な説明を受け、自分の購入意思がしっかり固まっているのならまだしも、そうでないのなら極力避けるべきです。

もし、どうしてもそれに応じなければならない事情があるときには、「必ず後日に正式な売買契約をすること」および「その仮契約には拘束されないこと」のふたつを明確にしてもらわなければなりません。


とりあえず契約……は絶対にNG!

同じ住宅の契約でも、賃貸の場合には手付金のニュアンスが若干異なっており、「契約するかどうかはまだ確定していないが、とりあえず物件を押さえてもらうためのお金」として取り扱われるケースもあるでしょう。

しかし、売買契約の場合における手付金は「契約が成立したこと」を前提として授受されるものであり、決して物件を押さえることが目的のものではありません。

売買契約の前に購入の意思を示すためのお金としては、「申込み証拠金」や「交渉預かり金」などがありますが、これらは契約が成立しなければ全額返金されるべき金銭です。申込み証拠金などを支払う際には、預かり証などにその旨の記載があることをよく確認してください。

この申込み証拠金や交渉預かり金などと、手付金との性格の違いをしっかりと理解しておくことが欠かせません。

売買契約締結という行為の意義についてあれこれと説明しましたが、いずれにしても「とりあえず契約して、後でよく考える」も「とりあえず契約して、後から家族に相談する」も「物件を押さえてもらうために、とりあえず契約する」も、どれも絶対にNGです。

売買契約には最大の慎重さをもって向き合うことが大切です。


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売買契約の成立時期
手付金と申込み証拠金はどう違う?
不動産売買の「仮契約」と「本契約」

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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