「住宅の品質確保の促進等に関する法律」に基づく住宅性能表示制度がスタートしたのは2000年10月のことです。当初は新築住宅のみを対象にしていましたが、2002年12月からは既存住宅(中古住宅)も住宅性能表示制度の対象に加えられました。
それから13年近くを経て既存住宅の性能表示制度はどうなっているのか、現在の状況を確認しておくことにしましょう。
既存住宅における住宅性能表示制度とは?
既存住宅(中古住宅)では建物状態のチェックが難しい場合もある
新築住宅の場合には、建築前の段階における「設計住宅性能評価」と工事完了後の段階における「建設住宅性能評価」の2種類に分かれますが、既存住宅の場合には「建設住宅性能評価」の1類型として位置づけられるでしょう。
性能評価を受けた住宅に万一のトラブルが起きたとき、指定住宅紛争処理機関(各地の単位弁護士会)による紛争処理(あっせん、調停、仲裁)を安価に受けることのできる仕組みは、新築住宅も既存住宅もほぼ同じです。
なお、既存住宅における申請は売主、買主または媒介業者のいずれかが行ない、評価書は申請者に対して交付されます。ただし、マンションの共用部分については管理組合が申請を行なうことになります。
住宅性能表示における評価項目は?
既存住宅の性能評価では、現況検査により認められる劣化等の状況に関することのほか、個別性能に関する検査を受けることができます。個別性能(構造の安定、火災時の安定など)については、新築住宅の性能表示が10分野32事項(必須は4分野9項目:2015年4月改定)なのに対して、既存住宅では7分野27事項(および既存住宅のみを対象とした2事項)です。
ただし、これは新築された際に建設住宅性能評価書が交付された住宅の場合であり、それが交付されていない既存住宅では6分野16事項にとどまります。既存住宅における検査は、現地における目視、計測などで判断できるものに限られるためです。
また、これらは選択事項のため、依頼内容によってはさらに少ない事項しか対象にならないことに注意しなければなりません。
活用が進まない既存住宅の性能表示制度
新築住宅における住宅性能表示制度では、2000年10月のスタートから2015年6月までの累計戸数で、設計住宅性能評価書の交付を受けた住宅が255万6,949戸、建設住宅性能評価書の交付を受けた住宅が195万5,398戸となっています。ただし、新築住宅着工戸数全体に対する設計住宅性能評価書交付戸数の割合は、22.3%(2014年度)にとどまっています。その内訳は公表されていませんが、分譲住宅(マンション、建売住宅)で交付を受ける例が目立つことを考えれば、注文住宅や貸家などで性能評価を受ける割合が少ないのでしょう。
それでは、既存住宅で性能評価書の交付を受けたケースはどれくらいあるでしょうか。2002年12月のスタートから2015年6月までの累計は、一戸建て住宅が1,288戸、共同住宅等が3,101戸で、合計4,389戸にすぎません。
およそ12年半で4,000戸あまり、年間平均は350戸ほど、1日平均は1戸に届かない水準です。国土交通省 は、既存住宅への制度拡大の際に「住宅の質についての情報を均一にすることで、既存住宅の流通や住み替えを促進するとともに、適切な維持管理やリフォームを促すこと、住宅ストックの質の向上を促すことができる」としていましたが、その機能を果たしているとは言い難い状況のようです。
なぜ活用が進まないのか
既存住宅における住宅性能表示制度の活用が進まない原因として、まず認知度の不足が挙げられるでしょう。制度自体があまり知られていないため、買主が評価書を求めるケースもほとんど聞いたことがありません。評価を受けるための費用を誰が負担するのか、それによってどんなメリットが生じるのかといった面も明確ではなく、他の制度と組み合わせて有効利用する仕組みにもなっていません。
評価を受けたらそのぶん高く売れたという実例が示されれば、既存住宅の売主による申請が増えることも考えられるでしょうが、そのような動きもないようです。
また、既存住宅における「評価書」は、ある意味で建物の「採点表」であることにも注意しなければなりません。新築の場合のように建物の性能を「保証」するものではなく、評価書を取得していることと良い建物であることは直接の関係がないのです。場合によっては建物の劣化が激しいことの証明書にもなるでしょう。
近年の既存住宅市場活性化を目指した動きの中では、売買前の住宅診断・検査(インスペクション)に主眼がおかれています。既存住宅の性能表示制度とは異なる面も多いため、今後は性能表示制度の見直しを含めた検討が進められることも考えられます。
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