不動産市場の動向について、毎月さまざまな統計データや指標などが発表され、みなさんも興味をもってご覧になることが多いのではないでしょうか。
とくに、市場の動きや価格の上昇・下落を示すデータには敏感な人も少なくないでしょうが、価格が上がった、下がったと一喜一憂する前に知っておきたい、市況データ読みこなしの主なポイントをまとめてみました。
無料のデータは限られている
不動産市況を分析した多くのデータが各社のホームページで公開されたり新聞などで報道されたりしますが、改めていうまでもなくこれらの基礎資料を集めて分析し、発表データとして加工するまでには大変な労力が費やされています。とりわけ調査研究を主業務とする会社では、加工データをすべて無料で公開したのでは何の意味もありません。
他の営業内容を補完する目的で加工データをすべて無料公開するところがあるにせよ、基本的に無料部分はデータ全体の中のごく一部なのです。重要なデータの大半は「有料サービス」部分にあると考えてよいでしょう。
市況データのエリア背景を考えてみる
たとえば、「東京都区部の分譲単価は前年同月比○○万円(○.○%)アップ 」のようなデータがあったとき、あなたならどう考えるでしょうか?「うわぁたいへん、価格が上がり始めている」と考えてしまっては早計です。その裏側にある要因を考えなければなりません。
分かりやすく極端な例をあげると、(実際にはあり得ないことですが)何らかの事情で東京都千代田区以外の区では新規マンション供給が激減し、千代田区のみで大量の新規マンション供給があった場合、 “都区部” のマンションの平均単価は数倍に跳ね上がるでしょう。
しかし、これは個々の地域で単価が上がったこととは違うはずです。
もちろん、そのように極端な背景があればそれに応じた断り書きもつくでしょうが、そうでない場合でもデータの裏側にある動きをみることが必要です。
実際に2007年頃にあった例では、東京都港区の新築分譲マンション単価が前年同期比90.1%のアップ、価格が同99.5%のアップと、ほぼ2倍の水準になっていました。
また、駅別のデータでは「広尾駅」の単価が同123.8%のアップ、価格が同469.8%のアップとなり、何と1年でほぼ6倍に迫る価格上昇を記録していたのです。
これは供給数が激減した代わりに、高級・高額物件がまとめて売り出されたことによる「平均」数字のマジックでしたが、当時は、その上昇率の数字だけを大きく取り上げて報じたマスコミもありました。
都心部でのシェアが大きく増加しているときなどには、一つひとつのエリアでは価格が下がっているのに、新規分譲物件を平均すると価格(単価)が上がっている、というデータが出ることもあるのです。
なお余談ですが、東京特別区は23区、大阪市は24区で、どちらも大都市であることに変わりはありません。面積も同じくらい……と考えがちですが、実は品川区・大田区・世田谷区・杉並区・練馬区の5区を合計した面積と、大阪市の24区を合計した面積がほぼ同じです。
逆にいえば東京都区部はそれほどまでに広く、市場特性も都心部の区と周縁部の区では大きく異なるのですから、「都区部平均」のデータにはそれなりの限界があるといえるでしょう。
加工されたデータのサンプル数を考える
新築分譲マンションについては比較的資料を収集しやすく、大半のマンションを網羅したデータ分析がされています。しかし、建売住宅や土地分譲では、とくに中小業者が販売する物件の資料収集が難しく、大手業者の物件のみ、あるいは、一定規模以上の中~大規模開発物件のみを分析したデータも少なくありません。このような場合には、基礎資料が郊外物件に偏りがちなことも考慮すべきです。
また、中古のマンションや一戸建て住宅、個人が売主の土地などではさらに資料収集が難しく、データ分析に用いたサンプル数が極端に少ないものも見受けられます。このようなデータは少しの要因でも変動しやすいものですから、参考にする場合は気をつけなければなりません。
ちなみに、中古物件や土地の成約データを収集しやすいはずの「東日本不動産流通機構」(東日本レインズ)による数字をみても、毎月の新規登録件数に対して、成約件数は5分の1程度にすぎず、すべての成約物件が収集されているとは考えられません。
これは不動産業者が成約事例を登録しなければならないところ、それを怠っているケースが多いことに原因がありそうですが、流通機構ですらこのような状況ですから、ほかの研究機関、調査会社が中古物件などのデータを集めるのは容易ではないはずです。
そのようなデータのサンプル数が少なくなってしまうのも仕方のないところでしょう。
また、ある民間調査会社が「物件登録数が減少(あるいは増加)」などとするデータを発表した場合にも注意が必要です。
一般的に取り引きが活発になれば登録物件数が増加、市場が冷え込めば登録物件数は減少と考えがちですが、それとは逆に、売れないから何とか売ろうと登録物件数が増加し、取り引きが活発で動きが早くなれば登録の必要性すらないために登録物件数が激減する、といったことも考えられるのです。
そのデータを収集・保有する企業などの特性も考慮しなければなりません。
複数のデータをみて総合的に判断することが必要
市況データなどは、それに用いる資料の収集方法、対象エリア、サンプル数などの違いにより、分析データも異なるものになります。各種データの多くには注釈などが記されているでしょうから、それがどのような分析方法、対象によるものなのかをよく確認することが必要です。また、そのデータに表れた数字の背景を常に意識することも欠かせません。単発のデータに左右されるのではなく、各種データを組み合わせ、社会的な動きも考えながら総合的に判断することが求められるのです。
さらに、毎月のデータだけでなく、四半期、半年、年間のデータも合わせて傾向を探ることも考えてみましょう。
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