光を求めた建築様式=ゴシック
左上が北ファサードのバラ窓。その下が5連ランセット窓で、右は身廊のクリアストーリー。天気や太陽の位置で光は刻々と変化する
たしかにゴシックの上へ上へ伸びるデザインはまるで木々の幹のよう。骨格のように飛び出す梁や柱は枝のよう。細やかな彫刻は花や葉を思わせる。のちの時代、ローマ時代の様式を模したロマネスクに対して、森を思わせるこのようなデザインをゴシックと呼ぶようになる。
西ファサードのバラ窓と3連ランセット窓。バラ窓の主題は「最後の審判」
たとえばドーム。ドームにすると小さな窓を周囲にぐるりと取り付けることができるので明るくなる。少ない光をドラマティックに見せるために、扉口から信徒席にかけての身廊を暗くして、その先の内陣(聖職者の空間。チャンセル)や至聖所(祭壇や聖餐台のある場所。サンクチュアリ)をドームや半ドームの下に置いて明るくする。ビザンツ様式の教会やイスラム教のモスクでドームが多用されている理由のひとつがこの光の効果のためだ。
光をいかに神々しく見せるか? 厚い壁の中で、闇の中を横切る光をドラマティックに見せたのがロマネスク建築なら、壁を柱に変えて大きな窓を作って光をふんだんに取り入れたのがゴシック建築なのだ。
ゴシック建築の基礎知識
側廊の内部。天井の×字が四分ヴォールト。ヴォールトとヴォールトの間にある山型が尖頭アーチ。尖ったアーチにすることで天井はアーチより高くなった
ヴォールトに縁のような「リブ」をつけたものを「リブ・ヴォールト」といい、×字にすると「四分ヴォールト」になる。この四分のリブ・ヴォールトがシャルトル大聖堂の特徴で、それまでの六分や八分ヴォールトに比べ、より大きな窓枠が確保できるようになった。
・ヴォールト(Wikipediaによる解説。イラストつき)
身廊から飛び出しているアーチがフライング・バットレスで、その下が側廊。ロマネスク建築ではこの側廊がもっと上まであり、壁で身廊の重みを支えた
巨大な柱、尖頭アーチ、交差リブ・ヴォールト、フライング・バットレスなどの工夫により、壁に覆われていた教会堂は骨組状の建物になった。骨組であるから軽く、より高い建物が可能となり、また柱と柱の間を利用して窓を作って多くの光を取り込めるようになった。
天へ翔け上がるような構造、木々のような棘々しい意匠、木漏れ日のような光……ゴシック建築の特徴はこうした工夫からもたらされた。そしてその最高峰のひとつがシャルトル大聖堂なのである。