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シャルトル大聖堂:フランスが誇るゴシック建築の傑作(2ページ目)

深い森を思わせるゴシックの荘厳な空間に舞い降りる青い光。この不思議な光をもたらすステンドグラスは再現不能といわれ、人々はその奇跡的な青を「シャルトル・ブルー」と称賛した。今回はゴシック建築の基礎知識と共に、パリから1時間で訪れることができる世界遺産「シャルトル大聖堂」の見所・観光情報・歴史を紹介する。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

光を求めた建築様式=ゴシック

北ファサードのバラ窓と5連ランセット窓

左上が北ファサードのバラ窓。その下が5連ランセット窓で、右は身廊のクリアストーリー。天気や太陽の位置で光は刻々と変化する

ゴシック建築の「ゴシック」とは、もともと「ゴート風の」という意味だ。ゴートとは東ゲルマンの一民族を示し、もともとは、先進国だったローマに対し、森の中で暮らす蛮族といったイメージから、ゴート風=野蛮というような意味に使われていたようだ。

たしかにゴシックの上へ上へ伸びるデザインはまるで木々の幹のよう。骨格のように飛び出す梁や柱は枝のよう。細やかな彫刻は花や葉を思わせる。のちの時代、ローマ時代の様式を模したロマネスクに対して、森を思わせるこのようなデザインをゴシックと呼ぶようになる。
西ファサードのバラ窓と3連ランセット窓

西ファサードのバラ窓と3連ランセット窓。バラ窓の主題は「最後の審判」

昔から、いかに光を取り込むかという問題は建築家たちを悩ませてきた。特に石で建物を造る場合、天井の石の重みを支えるために、どうしても厚い壁が必要になる。窓は大きくできないし、高くすることもできない。

たとえばドーム。ドームにすると小さな窓を周囲にぐるりと取り付けることができるので明るくなる。少ない光をドラマティックに見せるために、扉口から信徒席にかけての身廊を暗くして、その先の内陣(聖職者の空間。チャンセル)や至聖所(祭壇や聖餐台のある場所。サンクチュアリ)をドームや半ドームの下に置いて明るくする。ビザンツ様式の教会やイスラム教のモスクでドームが多用されている理由のひとつがこの光の効果のためだ。

光をいかに神々しく見せるか? 厚い壁の中で、闇の中を横切る光をドラマティックに見せたのがロマネスク建築なら、壁を柱に変えて大きな窓を作って光をふんだんに取り入れたのがゴシック建築なのだ。 

ゴシック建築の基礎知識

側廊の内部

側廊の内部。天井の×字が四分ヴォールト。ヴォールトとヴォールトの間にある山型が尖頭アーチ。尖ったアーチにすることで天井はアーチより高くなった

シャルトル大聖堂の天井を眺めてみよう。天井の×の字状の構造が交差四分のリブ・ヴォールトだ。「ヴォールト」とは、アーチを重ねていって、円柱をふたつに割ったような形をいう。この半円柱をクロスさせると交差ヴォールトになり、これで天井の重みは4点に集約され、天井は柱だけで支えられるようになる。

ヴォールトに縁のような「リブ」をつけたものを「リブ・ヴォールト」といい、×字にすると「四分ヴォールト」になる。この四分のリブ・ヴォールトがシャルトル大聖堂の特徴で、それまでの六分や八分ヴォールトに比べ、より大きな窓枠が確保できるようになった。

ヴォールト(Wikipediaによる解説。イラストつき)
シャルトル大聖堂のフライング・バットレス

身廊から飛び出しているアーチがフライング・バットレスで、その下が側廊。ロマネスク建築ではこの側廊がもっと上まであり、壁で身廊の重みを支えた

今度は外に出て、身廊の外側を見てみよう。身廊から飛び出している肋骨のようなアーチがフライング・バットレス(跳び梁)だ。それまでは壁で身廊を支えていたが、この骨のような構造でヴォールトからの力を外に逃すことに成功した。

巨大な柱、尖頭アーチ、交差リブ・ヴォールト、フライング・バットレスなどの工夫により、壁に覆われていた教会堂は骨組状の建物になった。骨組であるから軽く、より高い建物が可能となり、また柱と柱の間を利用して窓を作って多くの光を取り込めるようになった。

天へ翔け上がるような構造、木々のような棘々しい意匠、木漏れ日のような光……ゴシック建築の特徴はこうした工夫からもたらされた。そしてその最高峰のひとつがシャルトル大聖堂なのである。 
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