第二幕(1973年)
イメージ(ブロードウェイ版)。有名なスカート逆はきファッションです |
56歳になり、髪が薄くなったイディ(大竹しのぶ)は、常にスカーフを頭に巻き、スカートを上下逆にはき、「ある物で工夫した」格好で過ごしています。思わず笑ってしまうようなキテレツなファッションでなのですが、なんとこのスタイル、後にジョン・ガリアーノはじめ多くのファッション関係者に「新しい」と評価され、有名になったのだそうです。そんな格好で、マーチに合わせて歌ったり踊ったりする姿は、ある意味キャンプ! ドラァグクイーン・ショーに通じる楽しさです。
80歳近くなったイディス(草笛光子)は、体の自由もきかないため、娘の手助けなしには生活できません。それでも、栄華を極めていた頃、お抱えの作曲家に作らせた歌を歌い、プライドを失わずに生きています。
二人は、いつ死んでもおかしくないような荒んだ環境であるにも関わらず、歌い、踊り、ショービジネスへの夢を失わず(驚きです)、猫とともに奇妙に明るく生きています。スポットライトを浴びることこそ人生!という生き様は、僕らが強く共感するところです。(「はみだし者」という意味でも…。亜門さんはさすが、その辺りを本当に素晴らしく演出しています)
そして、二人は毎日、罵り合いながら暮らしています。「アタシの結婚を台無しにした」となじる娘に、母は「あんな家に嫁に行かなくてよかったんだ」と言います。しかし、母は娘なしには生きていけないし、娘は、家を出て自由になることを夢見ながらも、自分がいなければ母が生きていけないことをよくわかっていて、離れられず…そうして、精神を病んでいくのです。
この母娘の姿が自分の経験とシンクロし、心を揺さぶられる人はきっと多いと思います。汗がじっとりにじみ、背筋が寒くなり、眠っていた何かが叩き起こされるような…。社会的マイノリティであるがゆえに、心の傷を負い、依存症などの「関係性の病」を患うことが多い僕らにとって、二人の姿は決して他人事ではないのです。
しかし、母娘の姿がどんなにゆがみ、病んでいるものに見えたとしても、彼女たちにとってはまぎれもなく「愛」なのだ…というメッセージは、深い「癒し」を与えてくれると思います。
『斜陽』のような没落貴族のお話かと思いきや、いやはや、もっともっと深く、凄まじい作品でした。
こんなスゴイ舞台、めったに観られるものではありません。