スイスに届いた突然の父の訃報
留学の目的でカナダに赴いたとき、生活費をセーブしたいこともあって、2年間は絶対に帰るまいと心に決めていました。年末年始だ夏休みだと帰国するクラスメートたちを横目に、私はひたすらガマンして過ごしていたのです。しかし、途中で移民ビザを取得することができ、これからは仕事もできて収入を得られるからそれほどお金を気にしなくてもいい、報告も兼ねて一度日本に帰ろうか、と……。
そして1年9カ月ぶりに帰国。
そのとき、夫(当時はまだ友達)も日本語の勉強のために日本に来ていました。1カ月のコースを終了した後、私の家に来て数日滞在。私も1カ月半の帰国日程を終えて、一緒にカナダに戻りました。
別れるとき、父は弱ってはいたけれど、すぐにどうこうなるというほどではありませんでした。ただ、体力も気力も衰えてきた父を見て、心の中では、また覚悟を新たにしたのです。
「これから数年間は、不安な状況が続くだろう。何かあったらすぐ日本に帰れるようにしておかなければ……」
恐れてもいました。
いつどんな連絡があるか……。“倒れた”か“入院”か……。
父は一度、心筋梗塞になっていましたから、その可能性は充分ありました。
カナダに戻ってから3日後、私はヨーロッパに旅立ちました。夏からのツアーガイドの仕事を既に決めていたため、その前に念願のヨーロッパ旅行をしたいと思っていたのです。この先働き始めたら、おそらくそんな時間は取れなくなるだろうという思いがありましたので……。
そして、1泊目はスイスの彼の家にお世話になることにしました。
スイスに着いて、彼のご両親と初めて対面し、一緒に夕食をとった後、疲れているでしょうから今日はゆっくり休んでねと言われ、早めに部屋にひきあげて……。
その翌朝、突然日本からの電話でした。まだ荷物もほどかないうちでした。
衝撃と冷静さと
訃報を聞いたときの自分の心情は、不思議と今でも鮮明に覚えています。まず「えっ?」という驚き。別れたときは元気でいましたから、信じられない思いでいっぱいでした。
そして「いつ? どうして?」という気持ち。
「なんでこんな突然に?」というやり場のない思い。
その一方で「ああ、とうとう来たか……」という感情も。
覚悟していた事態が実際に起こってしまった、自分の身に“その時”がついに来てしまった……。これから数年続くだろうと覚悟していたのに、こんなに早く。
ショックと冷静さが入り混じった気持ちで、私は受話器を握り締めたまま、呆然と立ち尽くしていました。近くで事態を察し、心配そうな顔をしている彼とご両親の気配を感じながら……。
■一刻も早く帰国しなければ。しかし……