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手紙の書き方……心に届く時候・時節の挨拶

手紙といえば文例集に頼りっぱなし…「拝啓」のあとの「時候の挨拶」で筆が止まってしまうあなたに、苦手意識をなくす季節の挨拶をご紹介します。

三浦 康子

三浦 康子

暮らしの歳時記 ガイド

和文化研究家、ライフコーディネーター。わかりやすい解説と洒落た提案が支持され、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、ウェブ、講演、商品企画などで活躍中。様々な文化プロジェクトに携わり、子育て世代に「行事育」を提唱している。著書、監修書多数。

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ペンを握って数十分……あなたも経験ありませんか?

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手紙は好きですか?
……いただくのは好きだけれど、書くのは苦手。

多くの方がそんなふうに答えます。確かに、電話やメールで用が足りてしまいますから無理もありません。でも、手紙には電話やメールにはないぬくもりがありますし、手紙でしか伝えられないものがあります。

苦手な理由は?
……どう書いていいかわからなくて面倒。「拝啓」のあとの「時候の挨拶」で筆が止まってしまう。

カジュアルな手紙なら気を遣うこともありませんが、大人の社会ではそうもいかず、面倒なことも多いでしょう。そこで今回は多くの方に共通する苦手ポイント、時候の挨拶(季節の挨拶)をとりあげます。
<目次>

時候の挨拶は省略してもいい?

裏面に色がついた心憎いデザイン……便箋や封筒にはその人のセンスが表れます。(協力:オリジナル文具の裏具)
改まった手紙には形式があります。

前文【頭語(拝啓など)→時候の挨拶→相手の安否を気遣う→自分の安否を伝える】

主文【本文】

末文【相手の健康・繁栄を祈る】

後付【結語(敬具など)→日付→署名→宛名】

基本的には、用件を述べる前に前文で挨拶し、主文に入ります。「前略」を使えばこの前文を省略できるので時候の挨拶もいりませんが、手紙は心も一緒に運ぶもの。できるだけ前文を省略せず、季節も一緒に届けたいですね。
 

時節の挨拶は、文例集から選べばいい?

時候の挨拶にはよく使われるものがあり、文例が紹介されています。例えば、6月の文例として「入梅」「若葉青葉の候」「うっとうしい梅雨の季節」などが紹介されています。これをこのまま使えば簡単カンタン。

でも、本当にそうでしょうか?
 

時候の挨拶を比べてみましょう

ちょっとしたご挨拶には、季節の絵葉書を選んで
ここに6月に届いた手紙が5通ありますので、それぞれの時候の挨拶を抜き出してみました。
 
  • A 「入梅の候」
  • B 「うっとうしい梅雨の季節となりました」
  • C 「雨に濡れた紫陽花が 美しく映える季節となりました」
  • D 「雨雲の下 色とりどりのパラソルの花が咲いています」
  • E 「久しぶりの晴れ間 窓を開け放ち すがすがしい風で家中をいっぱいにしました」
 

時候の挨拶ひとつで、印象が違います

一筆箋にも、さりげなく季節を感じるフレーズを入れると素敵です

一筆箋にも、さりげなく季節を感じるフレーズを入れると素敵です

A~E、どれも時候の挨拶として成立していますが、それぞれ読んだときの印象が違いますね。
 
  • Aは、お行儀はいいけれど、儀礼的で読み飛ばして終わってしまいそう。
  • Bは、「うっとうしい」というネガティブな言葉が、気持ちを沈ませてしまいます。季節の挨拶なので、気持ちが明るくなる内容にしたほうがいいでしょう。
  • Cは、梅雨の美しい風景をとりあげ、しっとりとした情景が浮かんできます。
  • Dは、日常の中で目にしたものを情緒的に表現し、梅雨の楽しい一面を思い起こさせます。
  • Eは、晴れた日のすがすがしさを綴ることで、読み手の気持ちまで爽やかにしてくれます。

あなたの心に届くのはどの挨拶ですか? どんな挨拶をされたら嬉しいでしょう? それはそのまま、あなたが手紙を書くときにもいえることです。

そうはいっても、文例集から抜き出すほうが楽ですし、考えるのが苦手だから嫌なわけで……そこで、心に届く時候の挨拶を書くヒントをご紹介します。
 

抜き出しただけの文は退屈です

誰かに手紙を書きたくなる……そんなアイテムを探したい。
(協力:オリジナル文具の裏具)
5つの文例を紹介しましたが、比較してみると、自分の言葉で書いているかどうかがわかるでしょう。

儀礼的な挨拶はお行儀が良いけれど、退屈なのです。文例集は例にすぎませんから、抜き出すのではなく自分の気持ちを添えて活用しないと、冷たい文字になってしまいます。マニュアル通りの接客が見透かされてしまうのと同じです。
 

下手でもいい。素直に、自分の言葉で

筆でさらさらと……も夢ではないのです
でも文章を考えるのは苦手……なんて思わないでください。高尚なことを書こうなんて思わず、感じたことを素直に、自分の言葉で表現すれば良いのです。ネガティブな表現を避けて季節の良さに目をむければ、あなたらしい季節の挨拶になるのです。

例えば……
●ちょっと外を眺めてみる
「雨に洗われた若葉が、青々としています」
「窓ガラスをたたく雨が 幾何学模様を描いています」

●身近な出来事を思い返してみる
「昨夜から降り続く雨に 新しいピンクの長靴をおろして 娘が嬉しそうに登校していきました」
「梅雨空をみて 今朝はどの傘にしようかと迷うのも 密かな楽しみになりました」

●思い出を綴ってみる
「水たまりを通るたび 長靴ではしゃいでいた頃を懐かしく思い出します」
「梅雨空を眺めていたら 一緒に雨宿りをしたときのことを思い出しました」

少々下手でもいいのです。相手の心に残るのは、上手い下手よりもあなたの素直な気持ちなのですから。
手紙と一緒に季節を届けたい……そんな思いが相手の心に届くはずです。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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