……いただくのは好きだけれど、書くのは苦手。
多くの方がそんなふうに答えます。確かに、電話やメールで用が足りてしまいますから無理もありません。でも、手紙には電話やメールにはないぬくもりがありますし、手紙でしか伝えられないものがあります。
苦手な理由は?
……どう書いていいかわからなくて面倒。「拝啓」のあとの「時候の挨拶」で筆が止まってしまう。
カジュアルな手紙なら気を遣うこともありませんが、大人の社会ではそうもいかず、面倒なことも多いでしょう。そこで今回は多くの方に共通する苦手ポイント、時候の挨拶(季節の挨拶)をとりあげます。
<目次>
時候の挨拶は省略してもいい?
![]() |
裏面に色がついた心憎いデザイン……便箋や封筒にはその人のセンスが表れます。(協力:オリジナル文具の裏具) |
前文【頭語(拝啓など)→時候の挨拶→相手の安否を気遣う→自分の安否を伝える】
↓
主文【本文】
↓
末文【相手の健康・繁栄を祈る】
↓
後付【結語(敬具など)→日付→署名→宛名】
基本的には、用件を述べる前に前文で挨拶し、主文に入ります。「前略」を使えばこの前文を省略できるので時候の挨拶もいりませんが、手紙は心も一緒に運ぶもの。できるだけ前文を省略せず、季節も一緒に届けたいですね。
時節の挨拶は、文例集から選べばいい?
時候の挨拶にはよく使われるものがあり、文例が紹介されています。例えば、6月の文例として「入梅」「若葉青葉の候」「うっとうしい梅雨の季節」などが紹介されています。これをこのまま使えば簡単カンタン。でも、本当にそうでしょうか?
時候の挨拶を比べてみましょう
![]() |
ちょっとしたご挨拶には、季節の絵葉書を選んで |
- A 「入梅の候」
- B 「うっとうしい梅雨の季節となりました」
- C 「雨に濡れた紫陽花が 美しく映える季節となりました」
- D 「雨雲の下 色とりどりのパラソルの花が咲いています」
- E 「久しぶりの晴れ間 窓を開け放ち すがすがしい風で家中をいっぱいにしました」
時候の挨拶ひとつで、印象が違います
A~E、どれも時候の挨拶として成立していますが、それぞれ読んだときの印象が違いますね。- Aは、お行儀はいいけれど、儀礼的で読み飛ばして終わってしまいそう。
- Bは、「うっとうしい」というネガティブな言葉が、気持ちを沈ませてしまいます。季節の挨拶なので、気持ちが明るくなる内容にしたほうがいいでしょう。
- Cは、梅雨の美しい風景をとりあげ、しっとりとした情景が浮かんできます。
- Dは、日常の中で目にしたものを情緒的に表現し、梅雨の楽しい一面を思い起こさせます。
- Eは、晴れた日のすがすがしさを綴ることで、読み手の気持ちまで爽やかにしてくれます。
あなたの心に届くのはどの挨拶ですか? どんな挨拶をされたら嬉しいでしょう? それはそのまま、あなたが手紙を書くときにもいえることです。
そうはいっても、文例集から抜き出すほうが楽ですし、考えるのが苦手だから嫌なわけで……そこで、心に届く時候の挨拶を書くヒントをご紹介します。
抜き出しただけの文は退屈です
![]() |
誰かに手紙を書きたくなる……そんなアイテムを探したい。 (協力:オリジナル文具の裏具) |
儀礼的な挨拶はお行儀が良いけれど、退屈なのです。文例集は例にすぎませんから、抜き出すのではなく自分の気持ちを添えて活用しないと、冷たい文字になってしまいます。マニュアル通りの接客が見透かされてしまうのと同じです。
下手でもいい。素直に、自分の言葉で
![]() |
筆でさらさらと……も夢ではないのです |
例えば……
●ちょっと外を眺めてみる
「雨に洗われた若葉が、青々としています」
「窓ガラスをたたく雨が 幾何学模様を描いています」
●身近な出来事を思い返してみる
「昨夜から降り続く雨に 新しいピンクの長靴をおろして 娘が嬉しそうに登校していきました」
「梅雨空をみて 今朝はどの傘にしようかと迷うのも 密かな楽しみになりました」
●思い出を綴ってみる
「水たまりを通るたび 長靴ではしゃいでいた頃を懐かしく思い出します」
「梅雨空を眺めていたら 一緒に雨宿りをしたときのことを思い出しました」
少々下手でもいいのです。相手の心に残るのは、上手い下手よりもあなたの素直な気持ちなのですから。
手紙と一緒に季節を届けたい……そんな思いが相手の心に届くはずです。