坑道を掘って貯蔵庫にする
山崎貯蔵庫にある経年による原酒蒸散を示す展示。この見せ方が変わる日がくるかもしれない。 |
だが当面、ワインのぶどうほどに神経質になる必要はないのではなかろうか。大麦はもともと冷涼な地域での作物で、品種改良のテンポが早い。EU、ロシア、ウクライナ、オーストラリア、カナダ、アメリカなどの生産量の多い国々が品種改良を試みながら、温暖化対策をおこなっていくような気がする。このあたりがぶどう品種とその実りに依存するワインとは大きく異なる。
ウイスキーの場合、最も影響が出るのが樽熟成。気温が上がれば貯蔵中の原酒の蒸散が増し、この欠減によるロスは大きい。
貯蔵庫にエアコンを設置して管理すれば、と思われるかもしれないが、樽は乾燥を嫌うし、大きな貯蔵庫の設備、維持となるとそのコストたるや膨大で割に合うものではない。天井に大型ファンを設置して空気を対流させるぐらいしかできないのではなかろうか。
あとは坑道を掘って貯蔵庫としたり、廃坑を使うといった手もある。これが一番いい方法かもしれない。
考えられるのは樽の大型化と気密化。小さなバーボン樽では欠減というロスがはなはだしく、大型化するだろう。気密化は樽の表面にワックスを塗るといった策。これは外気を取り込んで熟成する原酒にどういう影響が出るか、実験してみないことにはわからない。
温暖化による現状維持は無駄な投資
まあ、単純に温暖化がすすめば熟成年数はいまより短くなり、過熟といった現象に陥る。すると強くつき過ぎた樽の木香を除去するために活性炭を使ったりする。結果、すっきりとした香味タイプのウイスキーが生まれていくことになる。それと、気温が上がりすぎると、まったりと熟成感のある香味を飲み手が求めるか、といった問題もある。ストレートよりもロック、ロックよりもハイボールといったすっきりとした味わいを求める傾向になるかもしれない。
いま言えることは、温暖化がすすめば、現状品質を維持することを目指すのは、継続性を考えると無駄な投資が多いということ。ある程度、香味品質が変わるのは仕方ないだろう。
だからね、いまわたしたちは非常に幸せな状況にあるといえる。エイジングがどうのこうのと言いながら、昔と違って熟成感のある洗練されたウイスキーを飲んでいるのだから。100年後はわかんないよ。あるいは温暖化に見事に対応し、技術革新がすすみ、もっと素敵な香味になっているかもしれないしね。でも生きていないだろう。
いまを後世に伝えたいのなら、みんなで温暖化がこれ以上すすまないよう努力するしかないんだけどね。
INDEX『ウイスキーの歴史と製造法』もご覧いただきたい。
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