同ヴィンテージのピノ対決
メインの肉料理はオレキスの看板料理である『仔羊背肉のグリーンカレー風味 ココナッツとミント風味のバスマチ米添え』。以前も記事にしたが、東南アジアのグリーンカレーの香りをそのままに辛さのないペーストを独自に調合する。アジアのグリーンカレーとフランスの仔羊ロティ、すなわち東洋と西洋が混在する一皿である。山本シェフによると「しっとり仕上げるために骨付きのまま低温で加熱する。提供温度が低いと指摘されることもあるが、温度を高めると火入れが進んでしまうというジレンマをはらんだ低温調理」ということだ。
「低温調理」はさまざまなやり方があるが、食材を真空パックに密閉して温湯で加熱する「スー・ヴィドSous-vide」を指す場合が多い。フォアグラのテリーヌを加熱調理する際に油が滲み出して目減りしないよう、1979年に開発された料理技法だ。肉や魚の蛋白質は熱を通すと凝固し、68℃で水分が外部に抜け出す分水作用が始まり、縮んだり硬くなったりする。分水作用が起こらないよう、低温(60~65℃前後)で長時間かけて火を通すと軟らかく仕上がる。この仔羊を噛むと肉汁がほとばしるのは、そのためである。また、最後に皮目を焼いて焦げ目をつけることによって香ばしさも加えている。
ヴォーヌ・ロマネの特級畑ロマネ=サン=ヴィヴァン 1996年(トマ=モワイヤール) |
マルカサンのふくよかさの後に味わうこともあり、かっちりと引き締まって静謐な印象だ。ゆっくりと開いた香りに見せるのは、繊細でしっとりとした表情で、どちらかといえば仔羊そのものと合う。それに対して、マルカサン赤の方がグリーンカレーやココナッツの甘く温かい香りも含めてこの料理全体によくなじむ。