ワイン/ワイン産地と生産者のレポート

鬼才ビービー・グラーツ。その秘密に迫る(2ページ目)

フランスのワイン展示会『ヴィネクスポ』で、ナンバー1に選ばれてしまったイタリアワイン『テスタマッタ』。まさにトスカーナの風雲児、ビービー・グラーツ氏が語る、彼のファミリーとワインのストーリー。

執筆者:橋本 伸彦

最善を尽くすために考える

ブドウの樹齢は15年から60年。トスカーナの最高級品種サンジョヴェーゼが主だが、地元品種コロリーノとカナイオーロ、そしてわずかだがマルヴァージアやモスカート・ネッロ。なにやら賑やかなこの構成は、サンジョヴェーゼ単体やメジャー品種とのブレンドでは出せない奥深さを、テスタマッタというブレンドの仕上がりに与える。

一本の樹から5~7本の枝を垂直・並列に伸ばし、それぞれの枝にひと房のブドウをつける。どのブドウも日光を充分に浴びるように念入りに仕立てる。いろいろと場所や場合に応じて違ったやり方を試してみて、最終的にこれがいいという結論に行き着いた。偶然やってみて発見したことも多い。変わったやり方と言われるが、自分にとっては必然的だし、そのやり方でよい結果が出ればいいので、「正解」にはこだわらない。

さすがもとステンドグラス職人。絵で説明するのもお手のもの

2000年の順調な収穫で初めて自分のワインを造り、2001年は非常によく出来た。2002年は寒さと雨で難しかったが、2003年は逆に暑過ぎてブドウが心配だった。ワイン生産者としてはまだ年数が短いので、毎年最善を尽くすのみ。今のところ、その結果はとんでもなく濃くて迫力のある、それでいて内側に繊細さや複雑さを内包したワインとなっている。

たとえば2002年。テスタマッタは全体のうち最良の3割の樽を使い、あとの7割はセカンドワインのグリッリとしてほぼ半値でリリースした。テスタマッタのほうを試飲してみると、風味からして非常によく出来ている。2000年や2001年と比べてもオフヴィンテージによくあるガッカリ感がなく、手は尽くしたため意外なほどしっかり旨いことが、味わいから感じられる。良心的である。

極端さと気楽さ

笑顔がとてもいい
テスタマッタは実売価格で1本1万円ちょっとという値段。しかし、小樽で発酵させながら彼自身がスタッフと一緒に櫂(かい)でつついて抽出しているような手作りワインの、そのまたいちばん美味しいところだ。文句は言えまい。予算が足りなければ弟分のグリッリを飲めばいいだろう。

最近ではカザマッタという廉価版も出している。「テスタマッタは自分の極端な性格が出ていてね、まあそれとは反対に気楽で親しみやすい面もあるわけだから」普段飲みや若いひと向けにと、栽培の指示を出した買い入れブドウで作ったら、ニューヨークでいきなり5万本以上売れ、白はその3倍売れた。「うちみたいに小さいところは、たくさんの人に知ってもらうのも大事だしね」と考えている。

現在の醸造所は余りにも手狭になってきている。「もう少し人間らしく働けるところが必要なんでね、今の場所の近くに新しいワイナリーを作ろうと思ってる。この間、市長や都市計画の担当者と会ったけれど、ワイン以外については役所の言うことを聞くように、と釘をさされたよ」と笑う。彼の意志の固いことは、イタリア人の間でもよく知られているようだ。


輸入元:ヴィントナーズ 03-3560-6131
 

→Page1 こんな男、ちょっといない。
・ Page2 グラーツのワイン造り、現在進行形。


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