茶樹の発祥の地
東亜半月弧と雲貴高原 |
さまざまな学者がフィールドワークを実施し、ツバキ科の植物の植生を調査し、どこが茶樹発祥の場所であるかを探る研究を現在も続けています。
もともと、茶は照葉樹林にその植生を見出すことができることから、照葉樹林帯起源説が日本の学者の間で提唱されていました。中国中南部を中心に、東南アジアから西に伸びてヒマラヤに達する地域まで、三日月あるいは半月のような形で照葉樹林帯が広がっています。これは「東亜半月弧」と呼ばれる地域です。
1966年に中尾佐助教授が『栽培植物と農耕の起源』の中で「照葉樹林帯文化」を提唱し、それを受け、上山春平教授、佐々木高明教授らが『続・照葉樹林文化』で「東亜半月弧」を提唱したことに始まります。
この地域には、世界でも珍しい植物か生存しており、約2000万年前までの温暖な時代には北半球のどこにでも生育していたであろうと思われる植物が、現在この地域だけに分布しているという特徴もあります。実際に、ツバキ科の植物は世界中の30属500種のうち、15属260種がこの地域に存在しているといわれます。
このような地域で茶樹も誕生したのではないかとの発想は、当時非常に奇抜なものでしたが、その後、ちょうどこの東亜半月弧と重なるような地域を調査した橋本実教授が、一元論を提唱する際に、もっともツバキ科の近縁種が多く存在する雲南省一帯が茶の原産地ではないかとの説を提唱しました。
雲南省西双版納周辺の地図 (「中国まるごと百科事典」地図を加工) |
瀾滄江(らんそうこう:中国領にはいるとメコン川がこの名前に変わる)上流の拉祐(ラフ)族自治県あたりが原産地ではないかとの研究もありますが、現在では、中国西南地域の雲南省西双版納(シーサンパンナ)を中心として、雲南省から貴州省にまたがる雲貴高原がその原産地であるという意見が有力となっています。
この雲南省西双版納や思茅を中心とする地域には、種の原始的生理の特徴が保存され、種が持つ垂直的な進化の状況を示し、原始的形態の群体が分布しているという、茶の原産地の状況をもっともよく示しているといえるでしょう。