ここがラビリンスへのエントランス

中国茶のラビリンスへ

渋谷から今でもローカル線の面影を残した井の頭線に乗って二駅目、駒場東大前で電車を降りて、そのまま東大教養学部のキャンパスを突っ切ると、その裏門のすぐ左手にあるのが今古茶藉(ここんちゃせき)。

そう、ここは中国茶のラビリンス(迷宮)。このお店に迷い込んだら、きっと抜け出せないそんなお店だ。

お店の入り口の上の部分には、「今古茶藉」と書かれた看板が掛かっている。日本人にしてみると、「古今」が馴染みだがなぜか裏返っている。だからお店の名前は以外に覚えやすい。

オーナーの簡 金玉(カン キンギョク)さんが「生活に溶け込んでいる“中国茶”を知ってもらいたい」と7年前にこの店をオープンした。

高く積み上げられた茶の缶
そしてドアを開けて一歩中に足を踏み入れると、巷にあるおしゃれな中国茶専門店を想像して訪問する誰もが、おそらく絶句するに違いない。なにしろそれほど広くない店内には、所狭しと様々なものが陳列されている。いや陳列ではなく、もしかしたら放置かもしれない。

その中には茶器、茶葉の袋、茶の本、茶道具などなど。店に足を踏み入れて、一体どこに腰を下ろせばいいのか悩んでしまうこと必死だろう。テーブルと思われるのは2つ。茶盤の乗った入り口付近の机と右奥にある比較的大きなテーブル。

しかし、さらに驚くのは、その大きなテーブルの背後に山積にされた丸く白い缶の壁。「ここはペンキ屋の倉庫か?」と思わせる缶の積み上がった風景は、中国茶専門店であることを瞬間忘れさせる。しかし、その缶には「鉄観音」、「黄山毛峰」、「雲南金芽」などと書かれたネームタグが張られており、かろうじて中国茶専門店だったのだと思わせる。

碧螺春の新茶の包み

すごすぎる茶譜

どのお茶にも摘まれた時期や場所などが書かれており、その種類には唖然とする。同じ種類のお茶だが摘んだ日が違うとか、同じ日に摘まれたお茶だが茶園や製茶した場所が違うなどというお茶がそれこそ山のようにあるのがこのお店なのだ。

たとえば2005年の春茶。同じ梅家塢(メジャウ)で摘まれた龍井(ロンジン)茶だけをみても、その種類は10種類に及ぶ。しかも一つ一つ何時、どのように製茶されたのかをきちんと管理している。

たとえば茶譜のロンジン茶の一番上にあるお茶だが、03月29日に梅家塢にある農家で摘まれ手炒りで製茶されたもの。その下には同じ農家のものでは翌30日から4月1日まで毎日摘まれたものがそろっているのだからすごい。

店を訪問した日に4月5日と6日の東山碧螺春を飲み比べさせてもらった。同じ茶園の一日違いのお茶と同じ日の違う茶園の3種類だ。4月5日のお茶は非常に小さな芽のお茶で、碧螺春と呼ぶにはやや味わいが軽やかで茶葉も鮮やか。一方同じ茶園の一日後のお茶は、これが一日の差か?と思われるほど大きく育った茶葉で、味わいにもボディーが出てきている。

一方、その6日の別の茶園のお茶をさらに比べてみると、製法の違いが一目瞭然。他の2つが茶葉を炒めるときに、途中で釜を綺麗に拭き焦げないようにする。一方このお茶は最後まで一気に炒める。そんなことがお茶の味わいや香り、さらに茶の湯の色にまで影響するのだ。こんなことを体験できる専門店はあまりない。

 
数種類の飲み比べ 右の画像の一番左が一気に炒り上げたもの。