2種類の鯛
冒頭に書いた伊勢海老のグリエ(網焼)は、もちろん海老自体のクオリティもあるが、その研ぎ澄まされたスープにある。長い時間をかけて抽出された出汁をゆっくりと煮詰めて旨味の本質だけをわずかにしたためる。私はここにフランス料理の奥深い技術を垣間見た気がした。どこの誰が作った素材が旨いとまことしやかに語られる時代だが、これまで何度も書いてきたようにフランス料理は素材を引き立てる技術にあることは間違いない。
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ソースにはシェフの優しさが込められれているような気がする。 |
次から2種類の鯛の饗宴が始まる。まずはバジルの風味を効かせたマトダイとその軽いスープ仕立て。アンティチョークの苦味がマトダイから出る甘みと重なり微妙なコントラストを表現する。間に挟まれるスープドポワソンは5種類の魚を裏漉しした、これはもう表現しようもない圧巻ともいうべき逸品。これも別に何びっくりするような料理ではないが素直に「美味しさ」を感じることができるフランス料理であることも間違いない。
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鱗のカラッとした仕上がりは見事 |
ラストを〆るメインはアマダイのポワレ。カリッと揚げた鱗の歯応えはサクっと脳に美食の刺激をもたらすもの。ホワイトアスパラと白ワインとバターを効かせたソースは定番だが、一瞬の隙もないほどの完成度。メインディッシュとしての満足感はかなり高い。シェフの集中力と安定した技術が見て取れる、これまたザ・フランス料理と言えるものだ。
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ここにキャプションを入れてください |
魚介類と調理法と上手に組み合わせて「南葵文庫」を彩るシェフ、金野茂氏は開店以来この地でひたすら料理を作り、料理を追い求める。海が近いからと言っていい素材がいつもあるとは限らない。いい素材を選ぶのもシェフの技術だ。そこには地元の生産者や流通ルートとの信頼関係があるに違いない。
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素材と技術が噛み合った完璧なスープ・ド・ポワソンと言っていい。 |