フランス時代の痛快食べ歩き
「最初はさすがにたいへんでしたよ。暇なときも多く、そんなこともあって料理教室を始めたんです。そしたらそれがなかなか楽しくて。これまで130人位の生徒さんに恵まれて今もずっと続けているんですよ」若いのにたいしたもんだ、と思うが飄々とした松島シェフからはそんな苦労はまるで感じさせない実に爽やかなエネルギーがある。
大阪の辻調を卒業後にフランス校に留学。その頃はとにかく楽しかったと話す。フランスに行くまで日本では「フランス料理」をほとんど食べたことがなかったという彼は現地では休みの日には昼夜と食べ歩いたそうだ。一年で80軒。今月はフォアグラ月間と決めたフォアグラばかり食べる。チーズ、デザートまでしっかり食べ、その結果料理の知識と体重は驚くほど高まったと笑い飛ばす。いや、とにかく食べ歩き話は痛快そのものだ。
「ここ1年くらいでやっとフランス料理が自分のモノになってきたかな。」
それは例えば産地から直接届けられる野菜を使って料理をするときに味を加えるのではなく、中にあるものをどうやって引き出すかということに集中し、そしてそれが思い通りの味に仕上がるようになってきたことを意味する。
その日の夜はほぼ満席だった。
アミューズのあと、前菜は蛸、アサリ、ホタテと春キャベツのサラダ仕立てから。蛸が新鮮すぎてナイフのキレが追いつかず、ライヨールのナイフを使って一気に運び込む。見た感じ、ごく普通の魚介類の温製サラダなのだが素材のクオリティ、熱の通し加減、塩のバランス、春キャベツの茹で具合など一番いい状態で皿に彩られる。味わいを加えた料理ではなく、自然に引き出したように感じるこの料理はあわせた白ワインによってより複雑
味を増して美味しく感じるのだからたまらない。
素材のクオリティはかなり高い |
新玉葱のポタージュには豚と新じゃがのクロケットが浮かんでいる。ごくごく一般的な野菜を正確な技術でフランス料理に仕上げるお手本のような料理。まろやかさとクロケットの香ばしさが余韻長く舌の記憶に残る。