夜景の綺麗なレストランに旨い店はない?

オールアバウトのガイドになって2年半の間、フレンチの楽しさを広めることを目的に微力ながらガイド記事をコツコツと書いてきた。そんな中で100本近い記事の履歴を改めて見てみるといくつか傾向があることがわかった。人気スポットの「高層階」にあるレストランがほとんど取り上げられていない!のだ。

丸ビル
赤を基調としたエクステリア
それには理由があって、何を隠そう私は高所恐怖症。だから高いところにあるレストランには自分から行こう!と誘うことが滅多にない。高層ビルから下を見ると吸い込まれそうになり、正直食事どころではないのだ。パークハイアット東京のNYバーは好きなのだが、52階のエレベータが空くと目の前は「!」である。普通の女性はその景色にうっとりし、エスコートする男性はにんまりするのだろうが、私は仮に行ったとしてもなるべく壁側をゆっくり歩き、席も窓側、つまり眺めのいいところは必ず避ける。音楽が聞ければいいのである。

もう一つ理由がある。夜景の綺麗なレストランに旨い店はない、という甚だ根拠があるのかないのかよくわからない妄想に捉われている。美しい女性と綺麗な眺めのせいで料理に対する集中力が薄れるのでは?と思うのだが、綺麗な眺望にも当然ながら高価な建築コストと家賃がキチンと反映されており、その分の料金がしっかりしっかり含まれている。ひねくれものの私はそんなことも考えてしまい、どうもフレンチやワインを楽しむことに集中できない。

サンス・エ・サヴール
モダンな店内の雰囲気
しかしながら、そんなことを知らない友人から、どうしても行きたいレストランがあるというので、迷いつつも出掛けたのが丸ビルのサンス・エ・サヴールだ。そう言えば丸ビルってつい最近完成して話題になったなあ、などと考えていたが実はもう完成してこの9月で2年が経とうとしている。開店当時のどたばたした評判も今は昔、落ち着いていい感じになってきたという評判もちらほら耳に届く。接待需要も一息着いたらしい。

五感の庭

サンス・エ・サヴールは高級レストランチェーン展開会社である「ひらまつ」がフランスの3つ星レストラン(98年のミシュランガイド)とコラボレートしたレストラン。
ジャック&ローラン・プルセル兄弟が切り盛りするル・ジャルダン・デ・サンスは南仏の街、モンペリエで名声を誇る。店名を訳すと「五感の庭」。緑溢れた環境の中で、五感をフルに働かせて、このレストランでの食事や滞在を楽しんでいただきたい、という意味がプルセル兄弟によって込められている。

さて、意を決してレストランに到着すると案内された席はお台場方面が一望できるところ。
真夏の午後7時はまだまだ明るく、近隣のオフィスビルと遠くに見える東京湾の眺めが、手が届くかのように、すぐそこにある。ただし雑多な高層建築に美しさを感じるかどうかは別にして。

写真のタイトル
夜景よりも蒼い色の変化に気持ちが踊る
シャンパーニュを飲みながらの時間が素晴らしい。それは景色ではなく、暮れ行く空の変化に対して。高校時代受験勉強していた頃、北海道の冬の朝は蒼く霞みながら段々と明るさが滲み出てきた。そんな時代から25年経った東京の夕暮れは朝夕の違いはあれど昔の風景をやんわりと思い出させる。その蒼さは段々と濃さを増していき、シャンパーニュの泡が消えかかる頃にはすっかりと夕闇に包まれていた。

何故か高所恐怖症のことも忘れ、すっかりと食事と向き合う姿勢になっていたことには自分でも驚いた。

さあそろそろ行こうか、サンスの食卓へ。