面白いジビエというのは、スコットランドから届いた森鳩であった。その森鳩だが輸入業者を介して、新聞紙に包まれて羽がついて内臓も入ったまま届けられる。写真を載せるとそのグロテスクさに食欲をなくしてしまうのもジビエの特徴?である。見た目と、調理して皿の上に乗ったときの印象がこれほど違う素材もないのではないか。また、ジビエは先に内臓を取り除いてしまうと肉の旨みが劣化してしまうので、調理はすばやく行わなければならない。そう、まずシェフは羽を毟り、内臓を取り出し、血を絞り取るところからスタートするのである。
さあ、待つこと20分。その血と赤ワインでできたソースがひかれたその皿には、赤々とローストされた森鳩がいた。肉は歯ごたえがあり、噛むと、同居していた甘味と苦味が順番に舌を楽しませてくれる。肉をローストしてでた脂に内臓から絞った血と赤ワインからそのソースが出来上がる。心臓や砂肝や肝臓はペーストにして付け合せとして皿に同居する。肉、ソース、付け合せのすべてが一体となってこちらに迫ってくる。
当然ながら「臭みやクセのある肉」だ。
さらに素晴らしいのは、言うまでもなく赤ワインとの取り合わせ。口の中に広がる肉の味わいがワインを飲むことによってさらに変化する。まるで第二のソースといったことが言える。めくるめく食の快楽とはこういうことを言うのか。
また前菜にはスープ・ド・ガルビュというランド地方独特の野菜スープを選んだ。白豆、芽キャベツ、黒豚の骨や皮、生ハムで煮込んだしっかりとしたスープである。私はこの半年で何度このスープを食べに来たかわからないくらいだ。
さてジビエの話に戻そう。これまで最高のジビエ体験は「山鴫(やましぎ=ヴェキャス)」を食べたときのことだ。鴫は日本やフランスでは禁猟となっているため、スコットランドやベルギーから輸入されることが多い。一見カラスのような風貌なので、調理前は絶対に見ない方がいいだろう。また届くまで状態がわからないため、ソースに使う血の量の多さや内臓の状態がわからないといった料理人にとっての不安要素もある。でも考えてみると自然を相手にするということはこういうことだ。
ベキャスは肉の中に苦味や甘味を超越した香りがあり、とにかく美味いの一言だ。フランスでも最高のジビエとされているのもうなずける。真鴨などは一羽で2人分取れるがベキャスの場合は一皿しか作れないのでその分値段は張ることは覚悟しなくてはならない。だいたい1羽5000円位はするだろう。
そんなジビエはどれもはっきり言ってクセ(苦味、臭み)がある。しかしそれは記憶に残るクセで、食べることが大好きな方なら麻薬のように取り付かれることになるだろう。
人の手を借りず自然の中で育った動物が人の手を借りて最高の料理に変身する、これを自然の恵みと言わず何と言おうか。尊敬するコートドールの斉須シェフはこう言っている。
「料理。それは地上に恵みをもたらす自然に対し、限りない感謝の言葉を伝える言語である。」と。
ちなみにこの森鳩のローストは一皿たった2500円である。(要予約)
2003年秋にも再訪したが、「鴨の心臓の串焼」(1500円)はぜひ味わってみたいお勧めの一串である。
この冬、頬緩む至福のときがここにある。
ただし小さいレストランであり、シェフ一人、サービス一人、それもサービスは最近代わったばかりでまだぎこちないが、その辺は割り引いてご訪問いただきたい。
■コム ア ラ メゾン
東京都港区赤坂6-4-15
03-3505-3345
営団千代田線・赤坂駅6番出口から徒歩3分
ランチ11:30~14:00/ディナー18:00~02:00
毎週日曜日
カードはVISAのみ
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