小崎まり選手とロンドンマラソン参戦
笑いに包まれて送りのバスを待つ。これから大一番とは思えぬ和やかさ |
今年のロンドンマラソンは、北京五輪メダリスト、ベルリン世界陸上メダリストに加え名だたるランナーが名を連ね、世界一決定戦と期待を集めていた。が、直前になってのアイスランドの火山噴火による影響で、選手の入国がままならないというアクシデントに見舞われ、関係者を直前までやきもきさせた。かくいう、筆者も便がとれたのが搭乗前々日の22日というきわどい日程だった。
日本からの招待ランナーは、男子が入船敏(カネボウ)、松宮隆行(コニカミノルタ)の両選手、女子は世界陸上銀メダルの尾崎好美(第一生命)、期待のママさんランナー赤羽由紀子(ホクレン)、そしてミセスランナーの小崎まり(ノーリツ)の3選手。やはり苦労しての現地入りとなった。
衆目を集めていたのは尾崎、赤羽の両選手で、日本でテレビ放映したテレビ東京のWEBサイトで紹介されていたのもこの両選手だけ。それもそのはず小崎選手の出場は、2月になってから決定したとのことだ。赤羽、小崎選手は共に1月に開催された大阪国際女子に出場し赤羽選手は途中棄権、小崎選手は失敗レースとなった2007年大阪世界陸上以来の久しぶりのフルマラソン公式レース出場で、日本人1位の3位(2時間26分27秒)となったが、初マラソン女子日本3位記録の2時間23分30秒の自己ベストには遠い。34歳という年齢もマスコミの評価に反映していただろう。おまけに十分な準備が積めているのか、という危惧もある。
緊張をほぐす選手とのコミュニケーション術
「現場」を離れてもコミュニケーションは完璧 |
小崎選手を送り出した三村氏は「彼女、今日は調子がいいようですよ」とひとこと。三村氏が小崎選手のシューズを手懸けるようになって15年。小崎選手の調子は手に取るようにわかる。小崎選手の出身高校は女子陸上長距離の名門宇治高校(現立命館宇治高校)。陸上部のトップグループに入れると特注のシューズを作れたそうだが、当時の小崎選手はそのトップグループに入れず、監督に内緒でアシックスの三村氏を訪ねてシューズを作ったという。
シューズで脚長を矯正した
「彼女はね脚の長さが1cmも違っていたんですよ。これでは走れない。故障を起こしてしまう。それもシューズで矯正していくと長さが近くなっていくんです。今の差は2~3mm、違っても5mm以内に納まってます」シューズによって脚の長さを補正するだけではなく、矯正できるということは初めて知った。ランナーの足は変化するという。これは筆者もいっかいの市民ランナーながらそれは経験している。トレーニングによって変わるし、その時の状態でも変化するという。フルマラソンでいえば、スタート時とフィニッシュ間近では足は変形している。気温、湿度、速度、さまざまな要素がからみあってくる。したがって、たまに足を採寸したぐらいでは最適のシューズは作れないのだ。その選手のことをとことん知り尽くしていなければ「最適」のシューズはできない。
高橋尚子さんも左右の長さが8mm違い、シドニー五輪時に当人が左右同じシューズを希望したにも関わらず、三村氏はその長さを補正したシューズを本人に隠して提供したという話はよく知られている。もし結果を残せなかったら責任を問われることになる決断だったはずだが、氏に覚悟と揺るぎない自信があったからこそできたことだろう。