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ハードボイルドの巨匠・矢作俊彦(2ページ目)

国産ハードボイルドの草分け的存在・矢作俊彦の「幻の短編集」が復活。この機会に他の作品群も御紹介しましょう。

執筆者:福井 健太

矢作ハードボイルドの集大成

『ロング・グッドバイ』
米軍基地を飛び立った男は戻ってくるのか? 二村刑事の人捜しの行方は? 19年ぶりのシリーズ第3弾。
2004年度の日本冒険小説協会大賞に選ばれた『ロング・グッドバイ』は、神奈川県警刑事・二村永爾を主人公にしたシリーズの第3作。1978年の『リンゴォ・キッドの休日』、1985年の『真夜中へもう一歩』以来、実に19年ぶりのシリーズ最新刊である。殺人容疑者ビリー・ルウの失踪に関与したため、二村は責任を問われて捜査一課を外されてしまう。やがてビリーの操縦するジェット機が台湾で消失し、二村のもとにビリーの手紙が届けられる。世界的バイオリニストであるアイリーン・スーの養母・平岡玲子の捜索を頼まれた二村は、玲子のマンションに弾痕を発見するのだが……。タイトルの「THE WRONG GOODBYE」がレイモンド・チャンドラーの『長いお別れ(The Long Goodbye)』を踏まえていることは一目瞭然。かつて「ハードボイルドなんか好きじゃない。チャンドラーが好きなだけだ」と発言した矢作は、本作を通じてチャンドラーの批評と再構築を試みたのである。

「幻の短編集」が完全版で復活

『マンハッタン・オプ』
ラジオドラマをもとに書かれた63の物語。ハードボイルドの神髄を味わえる珠玉の作品集だ。
旧刊の話が多くなったので、最後に最新刊(復刊だが)を挙げておこう。2007年の10月から11月にかけて刊行された〈マンハッタン・オプ〉シリーズ全4巻には、マンハッタンに住む名無しの探偵「私」の活躍を描く63編が収められている。1980年から1983年にかけてFM東京(現在のTOKYO FM)で放送されたラジオドラマを小説化したもの――と書けば解るように、1話の長さは文庫本で約20ページに過ぎないが、ハードボイルドの風味は多彩なシーンに宿るものだ。魅惑的な「断片」を一度に楽しめる本シリーズは、いわば宝石箱のような輝きを放っている。矢作ハードボイルドの入門書としても格好のシリーズと言えるだろう。

【関連サイト】
矢作俊彦オフィシャルサイト…矢作俊彦の公式サイト。小説版「気分はもう戦争」の冒頭が読めます。
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