梅雨も明けていよいよ夏本番! 暑さにぐったりしてませんか? 太陽の下で季節を満喫するのもよいですが、涼しい部屋の中でスカッとする小説を読むのはいかがでしょう。

ミステリーは人が死ぬものも多いですし、結末に救いのないものもある。気分爽快とはほど遠いイメージがありますが、いろんな意味で、読後感スッキリの作品もあるんです。

誰も死なない、鮮やかな誘拐劇が爽快!天藤真『大誘拐』

大誘拐―天藤真推理小説全集〈9〉
「週刊文春」が選ぶ「ミステリーベスト10」の20世紀国内部門第1位に輝いた名作。
読後感の爽やかさが際立つ作品といえば『大誘拐』。映画化もされた、天藤真の代表作です。

紀州随一の大富豪、柳川家の女主人、とし子刀自。ちなみに「刀自」(とじ)とは、年配の女性に対する敬称だそうですが、この言葉を本書を読んで初めて知りました。80歳を過ぎても活力あふれる刀自は、所有する広大な山林を歩いていたある日、3人組の若者に誘拐されます。恵まれない境遇に育ち、刑務所で出会った彼らの目的は、身代金を元手に人生をやり直すこと。

ところが、さらわれても落ち着きはらっている刀自に、3人は調子を狂わされっぱなし。計画はあっさり看破され、隠れ家まで教えてもらう始末。挙句の果てに身代金の額を5000万円と言うと怒られてしまいます。

端たは面倒やから、きりよく百億や。それより下で取引きされたら、末代までの恥さらしや。ええな。百億やで。ビタ一文負からんで。…P159

とにかく豪快で頭がよくて茶目っ気のある刀自と、彼女に振り回されるお人好しの誘拐犯が巻き起こすドタバタがおかしい。そしてスケールが大きくて鮮やかな誘拐劇にワクワクします。おまけに人はひとりも死なないし、結末も気持ちいい。「週刊文春」が選ぶ「ミステリーベスト10」で、20世紀国内部門第1位に輝いたのも納得の名作です。

豪快なお金持ちっぷり、豪快な使いっぷりが爽快!筒井康隆『富豪刑事』

富豪刑事
フカキョン主演のドラマ化も話題に。
『大誘拐』のとし子刀自も豪快でしたが、豪快なお金持ちと言えば神戸大助。キャデラックを乗りまわし、葉巻を半分もすわずに捨て、10万円以上のライターを置き忘れる。そんな彼は、なぜか刑事をしています。捜査が行き詰まったとき、彼は豊富な資金を活かして、犯人を追いつめる。大富豪の父親も、それを喜んでいるのだから驚きますよね。

お坊ちゃん刑事が湯水のように金を使って事件を解決するというと、ちょっと嫌味ったらしい話と思うかもしれませんが、さにあらず。まったく金に執着のない大助の態度は、妙に清々しいのです。

容疑者をしぼりこむために豪華絢爛なパーティをひらいたり(「富豪刑事の囮」)、密室殺人の謎を解くために会社をひとつ設立してしまったり(「密室の富豪刑事」)。常人の想像を超える大胆な仕掛けの数々が読みどころ。

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