雨の休日、どう過ごしていますか? 傘を持って人ごみの中に出て行くのは億劫というあなたには読書をおすすめ。雨をモチーフにした小説は、なぜか切ないものが多かったりします。植物が雨に濡れると生き生きするように、登場人物に感情移入して涙を流せば、日々のモヤモヤもすっきりするかも!?

雨宿りをする少女をめぐる物語米澤穂信『さよなら妖精』

さよなら妖精
春雨の降る日に出会った少女をめぐる物語。紫陽花の花を見ると切なくなってしまいます。
まずは6月に文庫化する米澤穂信の傑作青春ミステリーをご紹介。

1991年、4月末。高校3年生の守屋路行は、雨宿りをする少女と出会います。彼女はマーヤ。ユーゴスラビア(当時)からやってきました。

覗き込んでくる目、カールがかった黒い髪、白い首筋、「哲学的な意味はありますか?」という口癖。ところどころ怪しいところはあるものの上手に日本語を話し、好奇心旺盛で、将来に明確な目標を持っているマーヤ。対して、部活も勉強も友達づきあいもほどほどで、何も「賭けているもの」がなかった守屋。マーヤとの出会いがきっかけで、彼は変わっていきます。そして1991年6月、ユーゴスラビア紛争がはじまり、マーヤは国に帰っていきました。楽しい思い出と大きな謎を残して。

マーヤは、ユーゴスラビアのどこから来たのか言わなかったのです。15年前は、今のようにインターネットも普及していません。普通の高校生である守屋が、マーヤのその後を知るのはとても難しいことでした。スロベニア、クロアチア、マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、セルビア、モンテネグロ。6つの共和国のうち、マーヤがどこに住んでいるかで、彼女がさらされる危険はどの程度か予測できる。守屋は彼女が残した言葉から、彼女の帰った場所を推理しますが……。

1991年当時、守屋と同い年だった人は、今年33歳。ちなみに、ガイドもそうです。ラスト、あまりにも重い真実を前にして立ち尽くす守屋に、胸を打たれます。

雨とともにあらわれる幽霊松尾由美『雨恋』

雨恋
雨の日にしか会えない、幽霊の女の子。彼女の死の真相を調べるうちに主人公は……。
『雨恋』は幽霊の描き方が秀逸な恋愛ミステリーです。主人公は30歳の会社員・沼野渉。ある雨の多い年、彼は海外転勤になった叔母のマンションを借りることになりました。家賃は格安。独身男子には贅沢な広い部屋。ただしそこには、2匹の猫と、雨の日にだけあらわれる幽霊がいたのです。

幽霊は小田切千波、24歳。3年まえにその部屋で死んだ女の子。当時の持ち主に頼まれて留守番をしていたのでした。彼女は自分が死んだ事情について説明します。自殺といわれているけれど、本当はちがう。誰かに殺されたのだと。そして渉は探偵の真似事をして、千波の死の真相を調べはじめます。新たに判明した事実を千波が受け容れると、最初は声だけで姿は見えなかったのに、足が見えるようになります。足だけが見える奇妙な幽霊に、渉はいつしか惹かれていき……。

相手は死んでいるのだから、恋の行方は切ない。また、作中に登場するニュースキャスター・堂本小夜子に対して千波がもらす、こんなセリフが印象に残ります。

堂本さんにかぎらないし、テレビで見る人にもかぎらないけど、その人だけの何か、光みたいな、手ごたえみたいな、そういうのを持ってる人がいるでしょう?(中略)そういう人は何かを持ってる、その人ならではの輝きがあって、代役はきかないんだと思う。…P170~171

誰もが、仕事でも恋愛でも、代役のきかない存在になりたい。でも〈その人だけの何か〉を持っているのはごく一部。自分にはそれがないと思ったまま若くして死んだ千波の悲しみに共感する人は多いはず。

次ページでは温かな気持ちになる短篇雨ミステリーをとりあげます。