こだわりの歴史ミステリー作家
獅子宮敏彦

『砂楼に登りし者たち』
時は室町時代。諸国を旅する老医師が出逢った不可能犯罪の真相とは? 奇想が横溢する著者の初作品集。
一口に"歴史ミステリー"と言っても、そこには極めて多彩なバリエーションが存在する。史実について推理するもの、歴史上の時代(および場所)を舞台にしたもの、イマジネーションで"歴史"を創作するもの――これらは明確に区分できるものではないが、そこへ様々なタイプの謎解きを盛り込むことで、歴史ミステリーが巨大なジャンルを形成していることは明らかだろう。そんな柔軟性の高い分野において、とりわけ野心的な試みを行っているのが獅子宮敏彦である。

獅子宮敏彦は奈良県生まれ。龍谷大学卒。2003年に「神国崩壊」で第10回創元推理短編賞を受賞して本格的にデビュー(別名義でオール讀物推理小説新人賞の受賞歴あり)。2004年に「諏訪堕天使宮」を雑誌に掲載し、翌年には同作を含む『砂楼に登りし者たち』を上梓した。その後の長い沈黙を経て、2009年にようやく第2作『神国崩壊』を発表したという寡作ぶりは、作品世界への律儀なこだわりの産物に違いない。そのことは著書を一読すればすぐに納得できるはずだ。

室町時代の怪事件を描く
トリッキーな連作集

著者の初単行本『砂楼に登りし者たち』には、室町時代末期を舞台にした4編――「諏訪堕天使宮」「美濃蛇念堂」「大和幻争伝」「織田涜神譜」が収められている。"天下一の名医"と称される老人・残夢と弟子の永田徳二郎が、旅先で次々に怪事件に遭遇するという連作集だ。過去の日本を背景にしてはいるものの、密室から消えた姫君の謎、武将たちの間で起きた不可能犯罪、忍者たちの死闘に秘められた真相などは奇想に満ちたもので、歴史性よりも伝奇色が際立っているのは大きな特徴と言えるだろう。400年以上前の"異世界"に大胆なトリックを導入し、独自の味わいを醸してみせた1冊なのである。

次のページでは『神国崩壊』を御紹介します。