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ミステリー界の超新星・道尾秀介(2ページ目)

「現在最も注目を浴びるミステリー作家」と称される新鋭・道尾秀介。その全著書をまとめて御紹介します。

執筆者:福井 健太

著者の名を高らしめた
2つの大傑作

第3長編『骸の爪』は『背の眼』の続編にあたる。仏像を取材するために滋賀県の瑞祥房を訪ねた道尾は、そこで信じられない光景を目撃する。20年前に失踪した仏師・韮澤隆三の遺した千手観音が口を開けて笑っていたのだ。さらに東京へ戻って写真を現像すると、そこには頭から血を流す仏像が映っていた。道尾は真備にそのことを相談し、二人で瑞祥房を調べようとするが……。数日後、工房から仏師が忽然と姿を消してしまう。

超自然的な謎が発生し、道尾と真備が現地を訪れるというプロットは『背の眼』と同じだが、伏線の質と量では本作のほうが数段上。多彩なトリックを惜しげもなく詰め込み、どんでん返しを連発する構成は見事としかいいようがない。謎解きを主体とした本格ミステリーとしては、現時点での著者の最高傑作といえるだろう。

『シャドウ』
母親を失った少年の周りで自殺やトラブルが頻発する。その背後には意外なドラマが隠されていた。過酷な謎解きを丹念に綴った現代の名作。
また、若手作家を中心にしたシリーズ〈ミステリ・フロンティア〉の1冊として刊行された『シャドウ』は、『2007年版このミステリーがすごい!』の第3位にランクイン。現時点での著者の代表作である。

小学5年生の我茂鳳介が母親・咲江を癌で亡くし、父親・洋一郎との二人暮らしを始めた数日後、父の友人・水城の妻であり、鳳介の幼馴染・亜紀の母親でもある恵が自殺を計った。その矢先、亜紀が交通事故に遭い、洋一郎が異常な挙動を見せ始める。父親との平穏な暮らしを求める鳳介の日常は、あまりにも過酷な事態に翻弄されていく。深いテーマ性、巧緻な謎解き、人々の心のドラマなどを有機的に結びつけた本格ミステリーの傑作だ。

待望の最新刊『片眼の猿』は
ケータイ小説だった

『片眼の猿』
盗聴専門の私立探偵に舞い込んだ依頼は、スパイ疑惑のある楽器メーカーを盗聴しろというものだった。その楽器メーカーで殺人事件が発生し、探偵は真犯人を突き止めようとするのだが……。
そして、現時点での最新刊『片眼の猿』は、携帯電話サービス「新潮ケータイ文庫」で半年間にわたって連載された作品。37の短い章で構成されているのは、一度に配信できる分量のせいもあるだろう。

盗聴専門の探偵事務所"ファントム"の経営者である「俺」こと三梨は、谷口楽器の社長から1つの依頼を受けていた。デザインを盗用していると思われるライバルメーカー・黒井楽器を盗聴しろというのだ。奇妙な女の噂を耳にした三梨は、彼女(冬絵)をスカウトして任務を続けるが、やがて黒井楽器で殺人事件が発生。経緯を聞いていた三梨は事件を調べることにした。

殺人を扱ってはいるものの、本作のメイントリックは別の所に隠されている。かつて三梨と同居していたものの、部屋を飛び出して自殺した秋絵の真実。あるいは三梨と冬絵の語られざる秘密など、ここには複数のギミックが仕掛けられている。その一つ一つが明かされるたびに、読者は「あっ!」と驚かされるはずだ。私立探偵小説の体裁を保ちつつ、読者の意表を突くための小技を詰め込んだ異色作。どこか歪んだムードもまた著者の持ち味に違いない。

1作ごとに新趣向を凝らし、着実にレベルアップを続けている道尾秀介。その力量がどこまで伸びるのかは誰にも解らない。卓越した才能をすでに発揮しており、さらなる成長が期待できる存在となれば、ミステリー界の注目を一身に浴びるのも当然のこと。道尾作品をまだ読んでいない人には、すぐにでも読むことを強くお勧めしておこう。

【関連サイト】
ここだけのあとがき…東京創元社『Webミステリーズ!』に掲載された道尾秀介のエッセイ。『シャドウ』に込めた想いが綴られています。
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