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ジャズ楽器の魅力とは?基礎知識とその役割

ジャズにはいろんな楽器が登場します。どの楽器がどういった役割を果たすのか、ジャズをもっとよく知りたい人、ジャズ演奏を始めようかと考えている初心者におすすめする、ガイド流ジャズ楽器講座です! ぜひ、参考にしてみてください。

執筆者:鳥居 直介

ジャズ楽器の魅力とは?基礎知識と役割

ジャズ楽器の魅力とは?基礎知識と役割


ジャズにはいろんな楽器が登場します。どの楽器がどういった役割を果たすのかが理解できるとジャズを聴く楽しみは深まります。ジャズをもっとよく知りたい人、ジャズ演奏を始めようかと考えている人にお送りする、ガイド流ジャズ楽器講座!
 
<目次>
   

ジャズの楽器1:ピアノ……何でもできる万能ミッドフィルダー

ピアノ 「小さなオーケストラ」の異名は伊達ではない。何でもできる万能楽器はジャズの世界でも中心選手。

ピアノ 「小さなオーケストラ」の異名は伊達ではない。何でもできる万能楽器はジャズの世界でも中心選手。

  50年代、ベース、ドラムとともにジャズ演奏の中心的な楽器として定着したピアノ。和声と旋律を同時に奏でることができ、また、弦を打って音を出すという構造上、打楽器的なリズムも産み出せるため、ソロ、コンボ、オーケストラなど、さまざまな編成において大きな役割を果たすことができるフレキシビリティの高い楽器です。

こういった特性から、他の楽器奏者でも、作曲・編曲や和声研究のためにピアノを用いるミュージシャンはたくさんいます。特にサックス、トランペットなどの旋律楽器の奏者は、ライブで演奏するかどうかはともかく、ピアノを用いて作曲・編曲活動を行うことが多いようです。

●ピアノの巨人たち
セロニアス・モンク、バド・パウエル、ビル・エヴァンス、トミー・フラナガン、レッド・ガーランド
 

ジャズの楽器2:ベース……バンドを支えるセンターバック

ベース 何はなくともベースがなくては始まらない。ジャズには欠かせない楽器です。

ベース 何はなくともベースがなくては始まらない。ジャズには欠かせない楽器です。

コントラバス、ダブルベースともいう。通常、バンド演奏においてもっとも低いパートを担当します。ジャズでは多くの演奏において、4分音符を連ねたラインを演奏することによって、その演奏の基底となるグルーヴを産み出す役割(ウォーキング・ベースと呼ばれる奏法)を担います。一方、ソロになると豊かな音域を生かして旋律を奏でたり、パーカッシブな奏法や、アルコ(弓)を使った奏法などによって、多彩な表現を行うことができます。

ベースはジャズバンドの要であり、そのバンドのグルーヴはベーシストが生み出すものといっても過言ではありません。リスナーにとっては、バンドリーダーでもなければなかなか目を向ける機会のない楽器ですが、お気に入りのCDのベーシストの名前を覚えて、彼の参加するレコードを集めてみるのも一興。案外、あなたを魅了していたのは、(リード奏者の演奏ではなく)彼が生み出すグルーヴかもしれないからです。

●ベースの巨人たち
チャールズ・ミンガス、ポール・チェンバース、レイ・ブラウン、ロン・カーター、パーシー・ヒース
 

ジャズの楽器3:ドラム……フリーキックも蹴れるキーパー?

ドラム 時には主役、時には背景。リズムが大切なジャズにおいては、音階がなくても十分に「語れる」楽器です。

ドラム 時には主役、時には背景。リズムが大切なジャズにおいては、音階がなくても十分に「語れる」楽器です。

ジャズのライブに初めて足を運んだ人が、最初に衝撃を受けるのがジャズドラムではないでしょうか。他の音楽ジャンルでは見られない、自由奔放、表現力に溢れたドラムプレイを聴けるのがジャズドラムの楽しさです。ジャズの場合、基本となるのはハイハットとスネア、バスドラムによって生み出される4ビートのグルーヴです。

参考過去記事「ジャズドラム特集」(ドラムに関する詳しい情報)

ドラムのグルーヴは多彩で個人差が激しく、バンドリーダーがメンバーを選ぶ際にも、神経を使うポイントとされています。マイルス・ディヴィスはその自伝の中で、再三にわたってトランペットにとってのドラムの重要性を語っていますし、セロニアス・モンクの伝記ではアート・ブレイキー、マックス・ローチらとの交流が、彼の音楽に大きな影響を与えた可能性に触れています。

基本的に音階を出せない楽器ですが、ジャズの大きな柱である「リズム」について、もっとも専門的にかかわることのできる楽器であり、ジャズという音楽を飲み込むうえで、ドラムへの理解は欠かせません。

●ドラムのジャズ・ジャイアンツ
マックス・ローチ、アート・ブレイキー、フィリー・ジョー・ジョーンズ、トニー・ウィリアムス、ジャック・ディジョネット
 

ジャズの楽器4:トランペット……前線の点取り屋フォワード

トランペット その金属質の高音をコントロールした時、甘く、切ない「ジャズ」が立ち現れる。マイルス、クリフォードへの道は険しい。

トランペット その金属質の高音をコントロールした時、甘く、切ない「ジャズ」が立ち現れる。マイルス、クリフォードへの道は険しい。

言わずとしれたモダンジャズの主役。主役となった歴史的経緯はどうあれ、ルイ・アームストロング、ディジー・ガレスピー、マイルス・ディヴィスらが、人気・実力ともに兼ね備えた、ジャズ史上それぞれの時代のリーダーであったことに異論の余地はありません。

金管楽器の中で比較的高音部を担当する楽器であり、主役となるのもうなずける、独特の存在感ある音質を持っています。ただ、音域的には決して広くなく、コントロールするのが難しい楽器であることから、必ずしもジャズ演奏に向いた楽器ではありません。

実際、同じような実力ならトランペットよりはサックスのほうが聴きやすいものです。結局の所、上記の天才達が、この楽器を主役の座に押し上げた、と見るのが妥当なところでしょう。トランペッターを志す方は、心してかかるべしです。

●トランペットの巨人たち
ルイ・アームストロング、ディジー・ガレスピー、ファッツ・ナヴァロ、マイルス・ディヴィス、クリフォード・ブラウン、ウイントン・マルサリス
 

ジャズの楽器5:アルト・サックス……高速のウイング

サックス 左からソプラノ、アルト、テナー、バリトン。いずれもモダンジャズでは重要な役割を果たす木管楽器だ。

サックス 左からソプラノ、アルト、テナー、バリトン。いずれもモダンジャズでは重要な役割を果たす木管楽器だ。

サックスには高い方からソプラノ、アルト、テナー、バリトンとありますが、ジャズ史上、重要性の高いアルトとテナーについては別に1項ずつ設けたいと思います。
分類としては木管楽器であるサックス。原型ができたのは19世紀中頃で、何と発明者の素性もわかっています。アドルフ・サックス(1814-1894)というベルギー人が作ったこの「新しい楽器」は、独特の音色とともに、平均律を前提とした合理的なキーシステムによって、これまでの金管・木管楽器に比べて、難しいパッセージも容易に演奏できるという特性を持っていました。

音域・音色的にも人声に近かったアルト・サックスは、ビバップ~ハード・バップにかけて、ジャズの主役に躍り出ます。牽引車は何と言ってもビバップの王様、チャーリー・パーカー。彼の産み出した数多くのアドリヴは、現在でこそ研究・分析され、それぞれの楽器で演奏されるようになっていますが、おそらくアルトサックスでなければ「演奏してみよう」という気すら起きなかったであろうと思われるくらい、難しい(テンポも速いし)しろものです。そういう意味では、「もっともモダンジャズらしい」楽器、ということが言えるかもしれません。

●アルトサックスの巨人たち
チャーリー・パーカー、ジャッキー・マクリーン、キャノンボール・アダレイ、リー・コニッツ
 

ジャズの楽器6:テナー・サックス……頼りになるボランチ

ジャズに登場する楽器の中でも、もっとも日本人に人気のある楽器がテナー・サックスでしょう。ジョン・コルトレーンの求道的な姿勢によって産み出された集中力ある演奏が日本人の心に訴えるものは、生前も今も変わりません。昨年、最後の来日を果たしたソニー・ロリンズしかり、ジャズの楽器の中でも、もっとも生理的な安心感を与える楽器かもしれません。

アルトより一回り大きく、音色のコントロールはアルトよりも若干難しいとされています。ただ、いずれにしても他の楽器に比べて、少なくとも「楽器を演奏できるようになる」という意味でのハードルは低いでしょう。比較的廉価な楽器でもそれなりの音が出るということもあり、アルトと並んで「ジャズをやってみたいんだけど、楽器は何がいいかな?」という方にはお勧めできる楽器です。

ただし、簡単ということは逆に言えば、実際の演奏時には「その先」である表現力を問われる、ということでもあります。自分の表現したい世界がはっきりイメージできるのなら、今からでも決して遅くはないので、チャレンジしてみてください。

●テナー・サックスの巨人たち
ジョン・コルトレーン、ソニー・ロリンズ、スタン・ゲッツ、コールマン・ホーキンス、ウェイン・ショーター
 

ジャズの楽器7:その他のサックス……変わり種の守備型ミッドフィルダー

バリトンサックスは、トロンボーン、チューバらと並んで、低音域を担当する管楽器の1つ。ただ、自由度が低いこともあってあまり人気のある楽器とはいえません。バリトン・サックスのジェリー・マリガンは、マイルスとギル・エヴァンスの九重奏団でも活躍をはじめ、ジャズ史から外すことができない大物ですが、それ以外に目立ったミュージシャンは見あたりません。

ソプラノサックスでは、テナーの項で紹介したジョン・コルトレーンの存在感が大きいと思います。マイフェイバリットシングを初めとする、ソプラノサックスによる名演の数々は、今も多くのサックスプレイヤーに影響を与え続けています。

バリトンはともかく、テナー~ソプラノについては比較的容易に持ち替えが可能で、併用するミュージシャンも少なくありません。オーケストラでの担当楽器だった、といった経験でもない限り、初心者にお勧めできる楽器ではない、という気がします。
 

ジャズの楽器8:トロンボーン……堅実無比なサイドバック

トロンボーン でかい、重い、難しい。けれどファンは多い。トロンボーンには捨てきれない魅力がある。

トロンボーン でかい、重い、難しい。けれどファンは多い。トロンボーンには捨てきれない魅力がある。

低音部を担当する金管楽器の雄。その音色は人声に近いと言われ、温かみのある音色は、他の楽器では出せない味わいに満ちており、オーケストラはもちろん、さまざまな楽器とのデュオなど、小編成の名作も多い、意外に出番の多い楽器です。

トランペットと同じく、マウスピースに口を当て、唇を振動させて音を出さなければいけないこと、スライドバーによる音程調正など、基本的にはコントロールが難しい楽器の1つです。また、体格的にもある程度恵まれていないと、物理的にコントロール不可能だったりします。

●トロンボーンの巨人たち
J.J.ジョンソン、カーティス・フラー、グレン・ミラー
 

ジャズの楽器9:ヴォーカル……点取り専門のスーパーサブ

ジャズ入門として人気が高いヴォーカル。しかし、たかが歌とあなどるなかれ。ジャズヴォーカリストには、ミュージシャンとして非常に高い能力を持った人たちが少なくありません。特に、スキャットによるヴォーカルのアドリヴ分野を開拓したサラ・ヴォーン、エラ・フィッツジェラルドらは、同時代のミュージシャンから高い尊敬を集めていました。

少なくともジャズヴォーカリストを志すのであれば、ヴォイストレーニングは必須。単なる「歌」ではなく、声を楽器に変化させるような訓練がなければ、ジャズヴォーカルはままならない。また、作曲・編曲に対する高い知識がなければジャズヴォーカルは務まりません。ぜひ、ピアノやギターなどの、和声楽器を合わせて習得されることをお勧めします。

●ヴォーカルの巨人たち
エラ・フィッツジェラルド、サラ・ヴォーン、ビリー・ホリデイ、ナット・キング・コール、ルイ・アームストロング
 

ジャズの楽器10:ギター……中盤の曲者

ギター ジャズでよく用いられる「ハコ物」ギター。ボディが反響することによって生じる個性豊かな生音が音楽に深みを与える。

ギター ジャズでよく用いられる「ハコ物」ギター。ボディが反響することによって生じる個性豊かな生音が音楽に深みを与える。

ブルース、ロック、ポップスでは主役の地位を占めるギターですが、ジャズのメインストリームでは今ひとつ陰が薄い印象です。しかし、1940年代までのジャズではベース、ピアノとともにリズムセクションの要としての役割を果たしていましたし、70年代以降の電化ジャズ、フュージョンの進化の中ではフレキシビリティの高い楽器として存在感を示しました。

和声、旋律を同時にコントロールできるという意味では、ピアノに次いでジャズという音楽との親和性は高い楽器といえます。ただ、一般の印象とは裏腹に、左手と右手が調和しなければ音が出ないという構造上、高いレベルでのコントロールが非常に難しい楽器であり、そのこともあってか、ジャズ史に貢献したミュージシャンの数は決して多くはありません。

日本では、おそらくもっとも多く流通している楽器の1つであろうと思われますが、廉価なギターではどうしても、「ジャズギター」を弾くのは難しいと思います。ジャズをやるなら、いわゆる「ハコ物」と呼ばれる、フルアコースティックギターを手に入れたうえで、できれば正しい運指を習いつつ取り組んでほしいところです。

●ギターの巨人たち
チャーリー・クリスチャン、バーニー・ケッセル、ウェス・モンゴメリー、ジム・ホール、グラント・グリーン、高柳昌幸、ジョン・スコフィールド、ラルフ・タウナー、パット・メセニー
 

ジャズの楽器11:オルガン・キーボード……癖のあるミッドフィルダー

オルガン ソウル、ファンクなど「コテコテ」感の強い音楽には欠かせない楽器。

オルガン ソウル、ファンクなど「コテコテ」感の強い音楽には欠かせない楽器。

キーボードやオルガンは、同じ鍵盤楽器ということでピアノと持ち替える人も多い楽器ですが、弦楽器であるピアノとは基本的に音が出る構造が違うため、別の楽器と捉えたほうがよいでしょう。50年代に登場したジミー・スミス以降、オルガン・ジャズは「ファンキー・ジャズ」ブームを背景に広がっていくことになりました。
また、70年代の電化ジャズ期には多くのジャズピアニストが電機ピアノやシンセサイザーを駆使した新しい音楽を模索することになりました。

現在では、ピアニストはピアノ、キーボーディストはキーボードという住み分けがはっきりしてきた感があります。ファンク、ソウルテイストの強いジャズにはオルガン、もしくはキーボードは必須の感があるので、そういった音楽が好きな人にはお勧めの楽器。

●オルガン・キーボードの巨人たち
ジミー・スミス、ジャック・マクダフ、ハービー・ハンコック(ハンコックはピアニストとしても高名)
 

ジャズの楽器12:ビブラフォン……いぶし銀の名伯楽

ギター ビブラフォンと聞いて「?」という人も、この見た目をみればよくご存じだろう。片手に2,3本のマレット(棍棒)を持ち、複雑な和声を演奏することができる。

ギター ビブラフォンと聞いて「?」という人も、この見た目をみればよくご存じだろう。片手に2,3本のマレット(棍棒)を持ち、複雑な和声を演奏することができる。

鉄琴のこと。なぜこんなマイナーな楽器に一項を設ける必要があるかといえば、ジャズ史上における重要な3人のミュージシャンが、そろってこの楽器のマエストロだからです。

ビッグバンド黎明期に、当時まだ新しい楽器であったビブラフォンを中心に据えたオーケストラを率い、ジャズという音楽の懐の深さを示したライオネル・ハンプトン。

マイルスとともにハードバップ不滅の名盤『バグス・グルーヴ』を産み出し、MJQの中核を担ったミルト・ジャクソン。

パット・メセニー、ジョン・スコフィールド、ジュリアン・レイジといった若手ギタリストを発掘し世に送り出し続けているゲイリー・バートン。

3人とも、自身の演奏では独特の知性をバンドサウンドで持ち込むところでは共通しています。正直なところ、ガイドの身近にはヴィブラフォン奏者がおらず、どの程度難しくて、どういうふうに不自由な楽器なのかはよくわからないのですが、どう見ても簡単そうな楽器には見えません。何より、この3人に共通するのは周囲への影響力。こういったマイナーな楽器を選択する人には、何というか、世間に流されない意志の強さのようなものが感じられます。そういった心の部分に、多くの若手ミュージシャンが信頼を寄せてきたということなのかもしれません。

●ビブラフォンの巨人たち
ライオネル・ハンプトン、ミルト・ジャクソン、ゲイリー・バートン
 

ジャズの楽器13:その他の楽器……厚みある控え層

ジャズというのは、信じがたいぐらい強靱な胃袋を持った音楽であり、およそ考え得る、「音が出るもの」であれば、どんな楽器でもジャズに取り入れることは可能です。(近年では「サイン波発生装置」なんていうものを取り入れているものさえある)

ただ、一般的に「ジャズ」といった場合には、いかにマイナーな楽器であってもおおよそ限られてきます。ここで紹介するのは、そうした(ジャズにおける)マイナー楽器のマエストロたち。マイナー楽器ならではの、個性豊かな演奏を聴かせてくれるメンバーです。

●その他の楽器の巨人たち
ステファン・グラッペリ(ヴァイオリン)
トゥーツ・ シールマンス(クロマチックハーモニカ)
リー・オスカー(クロマチックハーモニカ)
ハービー・マン(フルート)
デイヴ・ヴァレンタイン(フルート)
ヤヒロトモヒロ(パーカッション)

今回の記事が、楽器をはじめてみようかという皆さんの参考になれば幸いです。

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